SF短編集。 単に発想が奇抜なだけではなく、哲学的に深いテーマを盛り込んでいる。『理解』では脳の働きをエンハンスさせられた男が自分の脳の働きそのものを認識して調整できるようになっているし(つまり彼は「語りえないもの」を語ることができる)、表題作の『あなたの人生の物語』では、エイ...
ひとことでいうと、とても「ろましい」本。でもそれほど「しくく」ない。 なぜ私は私で、あなたは私じゃないのか。あなたはあなた?そうかもしれないけど、それは私が私であることとはまったくちがったことなのだ。いま私の前には世界が広がっている。それを目でみて耳できいたりさわってみたりする...
新書で出てくるような哲学の入門書は表面をなでるだけで、読んでもわかったようなわからいないように微妙な気分にさせてくれるだけだし、かといって専門書は読みすすむことが目的になって、読み終わって得られるのはわけのわからない達成感だけだったりする。本書は新書ではあるが、ソシュール、バル...
最近やたら大塚英志の本が出ているなと思ったら、これは『バカの壁』と同じように書き下ろしならぬ「語り下ろし」という形で作られた本とのこと。同じ言葉がやたら繰り返されるのもそういうわけだったか、とはげしく納得。「語り下ろし」だと簡単に読み進められるのだけど、ページ数に比して内容が薄...
世界は謎に満ちている。でもぼくたちはそれらの謎にみじんも気がつかずに日々を過ごしている。そのこと自体に大きな謎が含まれているというのに。 二人の人物の対話形式で進行していき特に難しい言葉も使われていないので、すらすら読めてしまう。意識の外に実在の世界は果たしてあるのか?世界は今...
久しぶりの長編SF。 突然夜空の星が消失するという現象から30年後の世界。ナノテクを使ってシナプスを自在に結線し、さまざまな機能をインストールしたり、感情をコントロールすることが可能になっている。元警官で探偵の主人公は、病院から行方不明になった全身麻痺の女性を探してほしいという...
とは何か" class="mt-image-left" /> 「伝統」というのは自然にうまれたのではなく、なんらかの必要にせまられて比較的最近に作られたものだというのは半ば常識といってもいいのかもしれないが、それを実感することは難しい。本書では、日本民俗学の祖である柳田國男の足跡...
「正義」と呼ばれるものには二種類ある。ひとつは無限で垂直な正義で、こちらは神(に相当する権威)から与えられる。もうひとつが有限で水平な正義で、個々人間の利害を数値的に調整し、具体的には貨幣の移動という形で実現される。 貨幣経済の発達に伴い前者の正義の力が弱体化し、後者が強まって...
上野公園で暮らすホームレスの生活を描いた作品……では断じてない。吉田修一の作品には、きちんとした仕事を持ち(カタカナ系の商品を扱う会社のサラリーマンかガテン系かに大別される)、人間関係をそつなくこなしている人間が多く登場する。『パーク・ライフ』の主人公もバスソープや香水を扱う会...
シェリーはイギリスのドラマをみているとかなりの頻度で登場する酒で、パブでビール、家でシェリーという感じで飲まれている。たまたま飲んでみたら、さわやかな香りとぴりっとした味わいがすっかり気に入ってしまった。そのとき飲んだのは淡い黄色の「フィノ」と呼ばれるタイプで、その後褐色で梅酒...
すべてのページをめくったが果たして読んだといってよいかどうかわからない。睡眠導入剤として効果覿面なことは保証できる。 ムッシュー・テストとは作者のポール・ヴァレリーが自分自身の性向を極端に押し進めることによって生み出した架空の人物だ。彼は自分の内面をとことんまで追求する。ただの...
簡単にいうとHIV患者たちとホームケアワーカーである「私」のかかわりを描いた連作短編集だ。徒に感傷的になることなく、「私」のプロとしての作業の様子をときおりおきるとまどいを含めて丹念に描いている。その仕事の手際よさは逆に患者たちの弱々しさ、そして、いくらつくしてももうすぐ死んで...
マルコ・ポーロの口を借りて語られる55の架空の都市の物語。どの都市もあるはずのない特異な謎をもっているが、どこか似通っていて交換可能であり、(少なくとも物語の中では)実在するかもしれない都市というより都市という記号について語っているように思える。都市の物語の間にときおりはさまれ...
捜し物をしていたら読まないまま埋もれていた本書を発見した。結局捜し物は見つからなかったので、本書が唯一の収穫だ。 『薔薇の名前』(ぼくは映画でみただけだが)で有名なエーコのパロディー中心の短編集。どの作品も何をどのようにパロディーにしようとしているかくらいまでは理解できるのだが...
「ファスト風土」というのは「ファストフード」のもじりで、いまや全国的にひろがっているファミレスやディスカウント店が立ち並ぶ画一的な生活空間を指している。農村部が郊外化する一方従来の中心街は没落する。人々は車で点から点に移動し、街はその広がりを失う。 筆者はこうした風景・ライフス...
『セックスの哀しみ』に続いて、ユアグローを読む。テーマは「恋愛」から「旅」に変わっているが、主人公(たち)の情けなさはより徹底してきている。それは、最後のストーリーで飛行機事故で幽霊になった主人公がようやくめぐりあった恋人にいわれる一言で語り尽くされている。 「そんな話、聞きた...
『一人の男が飛行機から飛び降りる』という本を読んで、ユアグローの作品のファンになった。どれも数ページほどの短編で、夢とも幻想ともつかない不思議な物語がつめこまれていた。 本書も同じく短編集。ただし、ある程度テーマが絞り込まれていて、多かれ少なかれ恋愛に関する物語ばかり。ユアグロ...
『探求 I』で他者との関係における命懸けの飛躍を見抜いた柄谷は、今度は「この私」に挑む。 共同体は個人から構成されているのだけど、その個人というのは共同体の中の差異化によってはじめて個としての意識をもつのではないかと昔からいわれていて、その個としての意識そのものも内から外を排除...
有名なジムノペディをはじめとしてサティの音楽の大ファンだが、ぼくより100年前にフランスで生まれたということをのぞいて、彼自身についてはほとんど何も知らなかった。音楽の印象から孤高な隠者のような生活を送っていたような印象があったが、それは半分あたり。白い山羊髭、山高帽、コウモリ...
大戦中は戦争遂行の精神的支柱として使われ、いまや左右のイデオロギー対立の場と化している靖国神社だけど、明治二年の創建からしばらくの間は、そういう国粋的なものとは別の開放的な空気が流れていたことを文学作品や、その他の貴重な資料をベースに解き明かしてゆく。 そのころ、靖国神社の境内...
入門と銘打っておきながらちっともわかりやすくない本はごまんとあるが、本書はそんなことはなく、少なくともわかった気にはさせてくれる本だ。 主観と客観の関係をどうとらえるかというのが近代哲学の最大の課題だった。そうこうしているうちに自然科学が客観の上に王国を作り上げてしまって、それ...
ニッポニアニッポンというのは絶滅が危惧される鳥トキの学名。そのトキを名前の一部に持つ17歳の少年鴇谷春生は、トキを鬱屈した思いをぶつける対象にして、パラノイア的な妄想を拡大させていき、ついには佐渡にあるトキ保護センターの襲撃を思いつく。 最初は主人公にも物語にも感情移入できなか...
ポール・オースターの初期のエッセイを中心に編まれたアンソロジー。原書は出版社が変わったり版を重ねるごとに内容が追加されているらしい。本書も文庫化にあたって、3編追加されている。 エッセイの大半は小説発表前に書かれた、日本であまり紹介されていない詩人たちに関するもの。その部分は正...
「ショックなこともあるけど、カラスをきらいになれない」というのがぼくがカラスに抱いている率直な気持ちだ。そんなカラスの行動の謎を脳と身体の研究成果から解き明かす本。 滑り台で遊ぶという話や、くるみを車道に落として車に割らせるという話があるように、カラスが頭がいいというのはほんと...
バロック期の写実的な絵画が好きでよく観にいったりするのだけど、見えるものをそのまま描いたものはほとんどなくて、ひとつひとつの図像に意味が隠されているという話をきいて興味をもった。この本を手に取った理由はそういうところにある。 絵が直接的に描いているものが何かということを研究する...
はるか昔に買って挫折していた本。挫折した理由は、読んでいて知の欺瞞騒動が頭にちらついてしまったからだ。現代の哲学者たちは自然科学の難解なジャーゴンを振り回すけど、その自然科学への理解は誤っていることが多いことが明らかになった事件で、本書にもその手のジャーゴンがちらばっているよう...
「他者」とはなんだろう。柄谷はそれを同じ「言語ゲーム」(ウィトゲンシュタイン)に属しておらず、「教える-学ぶ」という態度で臨まなければならない相手だといい、そこには「命がけの飛躍」が必要なのだという。 最初ちょっと難解に感じたが、同じテーマが何度も何度も波のように繰り返されるの...
このところ新書ばかり読んでいたので久しぶりの小説だ。その中でも高橋源一郎を読んだのはほとんど前史といっていいくらい昔のことだ。本の題名も内容も忘れてしまったが、さまざまなパロディーや、ストーリーの流れの故意の破綻など、小説はここまで自由に書けるんだという驚きを感じたと思う。ただ...
とにかくフェルメールの絵はすごい。だが、そのすごさを難解な言語で表現しようとする批評家たちに筆者はノーととなえる。そんな現代の主観的な視点から語るのではなく、17世紀オランダという時代・場所でフェルメールがどのような意図で作品を描いたかを実証的に解き明かすことが、彼の作品を理解...
この本もまた責任に関する本だ。最近もあったが、少年犯罪が起きると決まってその親の責任が問われる。これは欧米にもアジアにもみられない日本独特の現象らしい。その責任は「世間」に対するもので、この「世間」をおそれて日本では親も子も互いに拘束されながら生きざるを得ない。親子関係以外でも...
ぼくは日本人としてはかなり異端に属すと思っているが、それでもしっかりホンネとタテマエを使い分けて生きていて、よく、タテマエに従うふりはするけどホンネは守るぞというような考え方をしてしまうことがある。筆者は、実はタテマエとホンネどちらも入れ替え可能で、「どっちでもいい」という、思...
よくみにいく劇団「青年団」の主宰である平田オリザ氏の演技・演出論。直前に読んだ本がウィトゲンシュタインに関する本だったので、本書の中の演劇論的な部分を読んでいると、ウィトゲンシュタインが「言語ゲーム」について語っていたことと共通することが多いことに気がつく。 要はいかにして「リ...
哲学することと哲学の研究をすることは方法論としてかなりちがうことで、後者には文献学のこつこつとした実証的な作業が必要なのだと思う。本書は、難解で警句のような短い文体で知られるウィトゲンシュタインについて、その遺稿すべてを書かれた時期ごとに分析することにより、彼がいわんとしたこと...
タイトルは、実は『「みんな」の壁』にしようとしたのではないかと勘ぐりたくなる。 「赤信号みんなで渡れば怖くない」の「みんな」とは誰のことなのだろう。というところからはじまって、「みんな」がだんだんバカになってゆく大衆社会の構造、「みんなの責任」という名前の無責任の体系ということ...
哲学系の本を読んでいると、たとえ名前は明に語られなくても常にちらつく人影。それがカントだ。一度ちゃんと読まなくてはと思って、手に取ったのが、カントの著作ではなく、入門書だというのは我ながらかなりへたれだと思う。 でも、本書は一般向けの入門書にしてはかなり難解だ(もう少しパラフレ...
様相論理というのは、古典的な述語論理に加えて、「可能」とか「必然」という様相をあつかえる体系なのだけど、そこでは「可能世界」という概念が前提とされている。つまり、ぼくらが存在しているこの世界以外に、無数のそうもありうるような世界が存在しているとするのだ。その概念を使えば、「可能...
タイトル通り寝ながら学べるかどうか試してみたら、ほんとうにできた。とてもわかりやすく書かれた本だ。ここはひっかかりそうだなというところでは、必ずわかりやすく言い換えてくれるので、怯えることなくすらすら読めてしまう。 学生時代は本屋の棚を眺めると「構造主義」という言葉がたくさん並...
近代以前は万物の源泉を探求するのは哲学の仕事だったけど、今ではそれは自然科学に委ねられている。晦渋な形而上の言葉に代わるのはそれ以上に難解な数式だ。その数式をできる限り使わずにイメージだけでも理解してもらおうというのが本書の目的になっている。 すべては極めて微少な10次元空間の...
近代西欧社会に登場した規律=訓練型の権力は「知」すなわち学問、文化と結びつくことによって大きな力を発揮した。西欧がオリエントを植民地として内部に組み込んでいく中で、観る側(=西欧)、観られる側(=オリエント)という非対称で差別的な視線から「オリエンタリズム」という支配する知とし...
経済学や社会学への応用を目的に発展しつつある、確率に関する比較的あたらしい理論を平易に紹介することが本書のひとつのテーマだ。たとえば、スパムメールの検出にも使われているベーズ推定(実はとても古い理論だが)、確率すらわからないような不確実性を嫌う人間の性向を数理的にモデル化したキ...
ゲーデルといえば、「不完全性定理」。本書もその例にもれず、はじめに、アナロジーやパズルを使って、不完全性定理を解説している。だが、この部分は同じ講談社新書の野矢茂樹『無限論の教室』の方が深くつっこんでいてしかもわかりやすいと思う。 本書の主眼はそこにはなく、ゲーデルの波瀾万丈の...
いつも大きな示唆をいただいている内田樹氏の著書をはじめて読んでみた。 長さや硬さの異なるさまざまな文章が収められているが、あとがきに書かれているとおり、「自分の正しさを雄弁に主張できる知性よりも、自分の愚かさを吟味できる知性のほうが、私は好きだ」というスタンスは共通している。つ...
以前から読みたいと思っていたのだが、どういうわけかどこの本屋でも見かけなかった。先日、新宿の紀伊国屋でようやく入手することができた。 9・11のテロに関する論考。資本主義がイスラムではなくキリスト教文明の中から生まれてきたことの必然性を説きつつも、今勃興しているイスラム原理主義...
日本の戦後思想を題材にとった三回にわたる講演の内容をまとめた本。 歴史の年表を現代から60年過去にずらして重ね合わせてみると、いくつか重要な出来事が対応しているのがわかる。そう考えれば、今(1997年)は戦後ではなく、戦前である。戦後というスパンで思想を語る意味もそこにある。思...
共通一次試験などと書くと年がばれるけど、受験勉強の時倫理社会の教科書にでてきた思想家の名前で一番印象に残っているのはスピノザだ。何となく可愛らしい名前だからかもしれない。とはいえ、この本を読むまでは、スピノザってモナド論?というようにライプニッツと取り違えているようなありさまだ...
どうにも読みにくかった『バカの壁』の中で、印象に残ったのは、個性をのばすなどということより「共通了解」の方が大事という部分だったのだが、これはそのあたりをさらに哲学的につっこんだ本だ。 ゆとり教育の論理の中にあった「自由な主体」を批判するところからはじまる。つまり、生徒が自ら学...
小川洋子の書く世界がわかってきた。文章に「ひそやか」、「ひそめる」などやたら「ひそ」が多い。そのせいか「ひそひそ」とつぶやくような文体だ。『妊娠小説』は妊娠している姉、やおなかの中の子供に対する悪意の小説だということになっているけど、それもまたひそやかなものだ。試しに、文中の悪...
最初に読んだ『しあわせの理由』ほどの衝撃は感じなかったが、粒ぞろいの短編集だ。技術の発達や極限的な状況でのアイデンティティの揺らぎがテーマになっている作品が多いのだが、その中で、ほとんどの場合主人公は倫理的な選択をするのだ。それがイーガンの作品で一番好きなところだ。 ★★★ ...
いわゆるエッセイというものの書き方をレクチャーする本。「うまく書けそうもないことは書いてはいけない」とか「自分が書きたいことを書くな、人が読みたいことを書け」など耳の痛い話が多い。 ただ、リライトの例を見ると、実際に起きた出来事を改変したりしているのだが、それはありなのだろうか...
最初トレンディードラマのノベライズかと思った。 千歳烏山の2LDKのマンションで共同生活する男2人(途中から1人加わって3人になる)、女2人のそれぞれの視点から物語が綴られてゆく連作短編的な構成をとっている。第一章の語り手「杉本良介(21歳)H大学経済学部3年」からは、その部屋...
日本語はもう死んだと思っていたけど、町田康の言葉はいつもぴちぴちぷちぷちと生きがよくて小気味いい。 中編二本が収録されている。表題作の『きれぎれ』と『人生の聖』。これまで読んだ作品は、基本的にだめ人間のさらなる没落の軌跡という一応ストーリーの流れがあって、その中に突拍子もない幻...
1961年オーストラリア生まれのSF作家グレッグ・イーガンの日本独自編集の短編集。翻訳は、こういうSF作品によくあるいまひとつな翻訳のような気がするけど、作品のセレクトはすばらしい。 SFという言葉のScience Fictionのほかのもうひとつの意味、Speculative...
『木島日記』のシリーズの第二弾。同名のコミックの方が先で、それをノベライズしたものだそうだ。まだ読んだないが『キャラクター小説の作り方』という文章を書いた人だけのことはあって、キャラクターの作り方がとてもうまい。二冊目になってさらに登場人物のキャラがたってきた。一種シチュエーシ...
小川洋子は初読。主人公の女性のメンタリティを反映しているのかもしれないが、淡々としたはかなげな文体だ。 ひとつひとつ、ものが消滅してゆく島が舞台。「消滅」というのは物理的になくなるのではなく、人が認識できなくなることを意味している。たとえば薔薇が失われるというのは、薔薇の花がも...
徹頭徹尾、日本でいうところのテレクラで知り合った男女の電話による会話からなる作品。当然、エロティックな話題が中心で、テレフォンセックスそのものもあるのだが、ニコルソン・ベーカーなので、しらけるような下品さはまったくない。アメリカの西海岸と東海岸という離れたところにいる二つの孤独...
堀江敏幸初の文庫化。芥川賞を受賞した表題作のほか二編。 「私小説」というのは毀誉褒貶が激しい言葉なのであまり使いたくないのだが、堀江敏幸の作品をひとことでいえば「私小説」としかいいようがない。すべて一人称の「私」の視点で書かれているので、少なくとも「ぼく小説」や「オレ小説」でな...
大塚英志の書く文章は直感に頼りすぎて論理的な精緻さに欠けると、非論理的な直感で思っていたのだけど、本書を読んで、その直感の鋭さに驚かされた。1980年代(一部1990年代もとりあげられる)を近代の終わりととらえて、編集者、文筆家としてその時代を駆け抜けた自分自身の軌跡を自負を交...
池澤夏樹の処女小説。だがその後の作品のエッセンスがすべてつまっている作品だ。『スティル・ライフ』にみられた人間社会から離れたいというデタッチメントへの志向に貫かれている。『マシアス・ギリの失脚』のように南太平洋の島々を舞台にしており、オカルティックな存在への言及もみられる。 誤...
辞書みたいに分厚い本はたいてい変な本で、それを電車の中で読む人間も間違いなく変な人だ。ぼくが例外でないように、もちろんこの本も例外ではない。 読む前は(清涼院流水が書くような)破天荒なミステリーだと思っていたが、すぐに猟奇でリアリティを保ってゆくタイプの不条理文学だと思い直し、...
これだけ熱中したミステリーは久しぶりだ。殊能将之という人はおそらく7割から8割くらいの力で物語を綴っている。残りの力は物語の流れを冷静に制御するのに使われているように思われるのだ。だからこそこれだけ完成された世界が描けているのだろう。たまに本来の10割の力がかいま見えるところが...
小説を発表する前の初期に書かれた自伝的要素の入ったエッセイ。『孤独の発明』という統一したタイトルがつけられているが、収められている二編『見えない人間の肖像』、『記憶の書』は文章のトーンも違うし、別の作品と考えた方がいいと思う。 『見えない人間の肖像』はオースターの父親が亡くなっ...
遠くにあるものをながめるとなぜだかゆったりした気分になれるもので、19世紀末のイギリスのボート遊びの話は、遠すぎて見えないわけでもなく、ちょうどいいくらいの遠さなのだった。でも読んでいて感じたのは遠さより近さの方で、風物は異なれど何がgoodで何がbadなのかという感じ方は共通...
村上春樹の『ハードボイルドワンダーランド』のように、二つの異なった世界が交互に綴られる。ひとつはカオルという女性がバリという勝手知らぬ土地で孤軍奮闘するリアルな世界。もうひとつは哲郎という男性の過去を振り返る、内省的で、いろいろな出来事の意味が神秘的にからまった世界。この二人は...
半年前まで軍事・スパイ訓練の私塾にいた主人公は、とある事件で塾が解散に追い込まれたことから、今は渋谷で映写技師をしている。そんな主人公のバイオレンスな日常が日記形式で綴られる。そこに描き出されるのは、固有名詞などはぼくの勝手知ったる渋谷の街だが、さまざまな暴力に満ち溢れている。...
読み終わる直前まで「オーデュポン」だと思い込んでいた。その方が響きが自然だと思う。 やけになってコンビニ強盗を働いた「僕」は、逃走の果てになぜか見知らぬ島で朝をむかえる。そこは100年以上も本土と隔絶していて、言葉を話し未来を予見することのできるかかしや、何でも反対のことを話す...
このコーナーではじめてとりあげるコミック。このコーナーをはじめたのが2003年春で、それからまったくコミックを読んでいなかったということはもちろんないのだけれど、たとえば『20世紀少年』の第14巻を読むということは「読書」という行為とはちょっとちがうもののような気がしたのだった...
読み終わった直後に、今自分が読んでいたのがどんな本だったか確認するため、もう一度最初のページからめくる必要があるような本だ。薄いし、その中では出来事らしい出来事は数えるほどしか起こらない。「カメラ」というのも後半の数ページに登場してすぐに捨てられてしまうだけなのだ。日常のささい...
日影丈吉という作家を知ったのは和田誠監督の『怖がる人々』というオムニバス映画の中の『吉備津の釜』という話が最初だ。よくできた話だなと思いつつも、日影丈吉の本を読もうとか、手にとろうとかいうことは特にしてこなかったのだが、10年近くたって、ふとした気まぐれから、文庫になった短編の...