読書ノート: 2007年アーカイブ

1983年から2002年に書かれたポール・オースターのエッセイをまとめたもの。若いころの貧乏話、時事問題に対するメッセージなどあるけど、一番大きなパートを占めるのはオースター自身および彼の知り合いが経験した「信じられない偶然」の数々だ。 オースターの小説では偶然が大きな役割を果...
前作『さらば長き眠り』から9年もの月日をおいて刊行された、探偵沢崎を主人公にした新シリーズ。著者による後記に「ただひたすら、それら(旧シリーズの諸作品)より優れて面白い作品を、それらより短時間で書くための執筆方法と執筆能力の獲得に苦心を重ねておりました」とある通り、これまでとは...
「長いお別れ」じゃなくて"THE WRONG GOODBYE"つまり「間違ったお別れ」だ。といってもバチモノではなく、チャンドラーとフィリップ・マーロウの系譜を受け継ぐ正統的なハードボイルドだ。 主人公の二村永爾は神奈川県警の刑事だ。彼はある夜、ビリーと名乗る、日系アメリカ人の...
記念すべき村上春樹のデビュー作。再読のはずだけど、たぶんそれは前世の出来事だったようだ。 途中からひょっとしたらと思ったが、語り手の「僕」が文章についての多くを学んだというデレク・ハートフィールドはやはり架空の小説家だった。つまり、デレク・ハートフィールドは村上春樹にとってのキ...
鉄塔の写真を何度か撮っているし、世の中平均より鉄塔好きのぼくではあるが、鉄塔が小説になるとは思いも寄らなかった。いや、もちろん人々とのふれあいとか恋愛とかサスペンスとかを盛り込めばどうにでもなるだろうが、小学生が高圧線沿いに鉄塔を訪ねて進んでゆくというだけで十分物語として成立し...

藤田宣永『転々』

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映画を観た後に原作というパターンだが、この作品に関しては映画と小説は別物という感じだったし、幻滅しそうな気がしてためらっていたのだが、映画の持っているいい意味での宙ぶらり感が、原作との間にどんな力学が働いて生まれたものなのか気になって、結局読むことにしたのだ。 予想はあたってい...
つきはなしたような冷たいユーモアが特長の短編集。故郷から遠く離れた異郷にいる人たちが主人公になっている。人間の実存を感じさせるような重い作品はないけれど、冒頭の表題作『ワールズ・エンド(世界の果て)』と最後の『緑したたる島』は、いつの間にか人生の袋小路に入り込んだ人々の絶望をと...

古川日出男『gift』

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10ページほどの掌編が20個つまっている。リズミカルな文章で語られるのは、物語の骨格から自由で、変形自在のインプロヴィゼーションだ。雨の話とか暗いトーンの話もあるのだが、全編を通すと、なぜだか穏やかな日向の風景が思い浮かぶ。長大な『アラビアの夜の種族』と比べると古川日出男という...

安部公房『壁』

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高校生の時以来の再読。当然のようにすっかり内容を忘れていた。 あの当時はまだカフカも読んだことなくて、はじめた触れたいわゆる不条理文学だったので、この作品というよりこのジャンルへの驚きが大きく、この作品の特長をとらえきれなかったと思う。今回読んでみて、メタフォリカルなエピソード...
日本で独自に編まれた短編集。どれも粒ぞろいの作品で訳もいい。 『ゴーレム100』の作者がどんな短編を書いているのかと思って読んだが、最後の『地獄は永遠に』をのぞいてはアンドロイド、タイムトラベル、地球の終末などをテーマにしたオーソドックスなSFだった。特に『イブのいないアダム』...
TBSラジオで放送されている(少なくとも個人的には)大人気番組「文化系トークラジオLife」を書籍化した本。基本的には放送された内容の文字起こしで、ぼくみたいに何度も何度もヘビーローテーションでpodcastingを聞き返した人間には既視感を感じる内容だったが、あらためて活字と...
四度にわたりアメリカ全土(+メキシコ)を横断した破天荒な体験を、詩的で象徴的な文章で、小説としてまとめあげた記念碑的な作品だ。この作品を通してアメリカという国がもう一度発見されたのだ。 最初の旅は、路上をかけぬける爽快感と解放感に身をまかせていられたが、二度目以降は旅の疲れにお...
19世紀後半に活躍したナダール、20世紀前半のアウグスト・ザンダー、そして20世紀後半のリチャード・アヴェドンという3人の肖像写真家の作品を対比させながら、肖像になる人々の顔およびそれを撮る側の視線の変化をたどってゆく。 ナダールはパリにスタジオを構えて、主に高名なブルジョワジ...
いわゆる暗黒時代からぬけだして中世文化が花開いた西暦1250年という年の、フランスシャンパーニュ地方のトロワという町における、人々の生活をさまざまな角度から描き出している。 トロワはいまでは人口6万人、パリから電車で一時間半のところにある郊外の小都市だけど、1250年には1万人...
Net News全盛の昔から、「炎上」というものには目がなかった。あっちのニュースグループが燃え上がっていれば行ってにやにや笑い、こっちでぼやがあがっていればおもしろいからもっとやれと心の中であおっていた。その当時は、「炎上」といっても穏やかなもので、燃え立たせているのは多くて...
アルフレッド・ベスターの名前すら知らなかったSFファンとしてはだめだめなぼくがいうのもなんだが、SFというジャンルの本質はまだみたことのないものをみせてくれるところにあると思う。ところが本書は、そう思っていたぼくですら度肝(って何だ?)を抜かれるほど斬新だった。 さまざまな引用...
ゴーストストーリー、怪談といえばその通りなんだけど、かなり毛色がちがう。 幼い兄妹と召使いが暮らす古い館に家庭教師として住み込むことになった女性から見た一人称で物語は語られる。亡霊たちは主人公にしか見えない(子供たちにも見えるようなのだけど、最後までよくわからない)。それで、途...
その瞬間、宇宙は無数の宇宙に分裂し、時間や因果律が錯綜して頭の中の弾丸が銃の中に戻ろうとしたり、家の中に別の家が生えてきたりするようになった。その出来事は「イベント」と呼ばれている。それぞれの宇宙の出来事は巨大知性体という何台ものコンピュータの演算によって起きるようになっている...
『カラマーゾフの兄弟』を読んで一番驚いたのは、この分厚い大作が未完で作者のドストエフスキー急死により「第二の小説」が書かれずに終わったということだ。確かに回収されていない伏線があったり、本編と関係ないのにやたらページをとって語られている登場人物がいたりするし、何より作者による序...
なにごとにもきっかけが必要で、『カラマーゾフの兄弟』は光文社古典新訳文庫版が出始めたのをきっかけに読もうと思ったのだが、なかなか完結しなくて待ちきれず、結局新潮文庫版を読んだのだった。京の仇を江戸で討つではないが、『地下室の手記』は光文社古典新訳文庫版を選んだ。はるか昔に読んだ...
タイトルから漠然と、超自然的なフェアリーストーリーとミステリーが融合するシュールな作品を想像していたが、ウェルメイドな青春群像ミステリーだった。 地方都市に住む高校三年生四人はユーゴスラビアからやってきた同年代の少女マーヤと知り合う。何にでも好奇心いっぱいのマーヤにひきこまれて...
「あてもなくさまようことによって、すべての場所は等価になり、自分がどこにいるかはもはや問題でなくなった。散歩がうまく行ったときには、自分がどこにもいないと感じることができた。そして結局のところ、彼が物事から望んだのはそれだけだった――どこにもいないこと。ニューヨークは彼が自分の...
鼠退治の報酬を払わなかったばっかりに笛吹き男の笛の音に導かれて子供たちが連れ去られてしまったという『ハーメルンの笛吹き男』の物語は単なるおとぎ話ではなくある程度実話らしい。事件が起きたのは1284年6月26日、いなくなった子供の数は130人だという。ただし、鼠退治の話は後世の付...
二度目か、ひょっとしたら三度目に読むのかもしれないが、ぼくの頭の中に残っていたのは双子の存在とゴルフ場の風景だけだった。1973年秋、東京、そしてそこから遠く離れた海辺の街で、平穏でありながらずっと心に残りそうな日々が何気なく通り過ぎてゆく。大きな出来事がおきないだけに、かえっ...
アメリカの女性SF作家コニー・ウィリスの12編からなる短編集。 冒頭の『見張り』には長編『ドゥームズデイ・ブック』のキヴリンやダンワージィ先生が登場している。『ドゥームズデイ・ブック』は大学の実習でペスト禍のまっただなかの中世にタイムスリップする話だったが、こちらは第二次大戦の...
大脳生理学の最新のトピックを中高生向けに講義したものをまとめた本。文中にでてくる彼らの応答から察するに、中高生といってもぼくを含めたその辺の大人よりよっぽど優秀だった(慶應義塾ニューヨーク学院高等部の生徒たちとのこと)。専門的になりすぎず、かといって細部を省略しすぎず、聞き手の...
ハードボイルドの旗手レイモンド・チャンドラーが急死したため未完のまま遺された作品を、30年後に同じハードボイルドのスペンサーシリーズで有名なロバート・B・パーカーが完成させた。未完といっても、チャンドラーが遺したのは全41章中の4章だけで、書かれているエピソードはおおむね以下の...
中学生の翔太がインサイトという猫に導かれるように、さまざまな哲学的問題について考えてゆく。たとえば、「実はぼくらは培養器の中の脳で、現実はそこで見せられている夢」という考えには意味があるかどうかとか、「他人に心があるか」とか、「ぼく」という存在の特別さとか、善悪の基準の妥当性と...
そろそろ現代日本の小説も飽きてきたなと思いつつ手に取った本書だけど、やっぱり舞城王太郎はおもしろい。 珍しく残虐描写のない『我が家のトトロ』のほかは、耳をかみ切って飲み込んだり、高校で生徒や教師が623人殺されたり、女子中学生が女子中学生の首の骨を一撃で折って殺したり、生き返っ...
ナボコフの『ロリータ』は、道徳を越えたある美学の果てにある、人生におけるある種の哀しみについて教えてくれたけど(ぼろぼろ泣けてしまった)、同じようにロリコン男の饒舌な一人称で書かれた本書の表題作は、確かにそこに哀しみはあるものの、どちらかといえば表層的で、道徳でも美学でもない別...
考えてみると「コンテンツ」というのはおもしろい言葉で、テキスト、音楽、イメージ、動画という一見異質なものを包含している。共通するのは形がないということで、それらに形を与えるのが「メディア」というものだ。ぼくらは「コンテンツ」を手に入れる場合、「メディア」に対してお金を払ってきた...
雪沼というどこにあるとも知れない地方の街の周辺を舞台に、そこで暮らす平凡な人々の現在と過去の記憶が交錯する連作短編集だ。最終営業日の小さなボーリング場の主人、スキーにやってきたのが縁で料理教室を開いた小留知先生が遺した最期の言葉、段ボール工場の田辺さん、書道教室を営む陽平さん、...
生命とは何か?細胞からなる、DNAを持っている、呼吸によってエネルギーを作る、というのは属性をあげているだけだし、「自己を複製するシステム」というのも一見もっともらしいけど、生命の柔軟性をとらえきれていない。 分子生物学の研究者としての経験、中でも手痛い失敗の経験から、筆者はひ...
竜巻とともに空を飛べることのできる一家がやってきておたくの末の娘朝ちゃん(彼女も空を飛べる)とうちの息子を交換したいと申し出てくる。すったもんだの末最終的には、朝ちゃんの意志でその交換は成立することになる。 舞城王太郎の小説には、まるでレーシングゲームをしているときのように、荒...
タイトルから想像できるように二冊の短編集を一冊にまとめた本。でも、ぼくは半分以上読み終えたときについうっかりなくしてしまい、結局二冊買うことになった。 解説の種村季弘の言葉があまりに的確なので引用してしまうと、百閒が描いているのは「来るべきものがいつまでも出現しないために気配の...
一応時代小説といっていいのだろうか。主人公の牢人掛十之進が通りかかった旅の父娘の父の方をいきなり斬り捨てるところからはじまる。その理由を問われて、掛は彼らが腹ふり党というカルト宗教団体の一味だから斬ったという(でも間違いだったということがわかる)。 掛は超人的剣客という設定なの...
夏目漱石と内田百閒は期間は短いけど一応師弟関係にあり、夏目漱石の『夢十夜』と内田百閒の夢幻的な諸作品が比較されたりするけど、作品からうかがえる気質は、漱石がパラノイアなのに対し、百閒は明らかにスキゾで対照的なような気がする。 百閒は夢やそれに類するものを題材にしていると思うのだ...
読む前は神町は想像上の地名だと思っていたが、作者阿部和重の故郷であり、山形県東根市に実在するらしい。そこで2000年夏に起きたあまりにも凄惨で汚穢に満ちた数々の出来事を克明に綴った物語だ。もちろんすべて架空の出来事だが、リアルに細部を積み上げた構想力、想像力にはただただ感心する...
本書の「ルーツ」である村上春樹の『中国行きのスロウ・ボート』は、短編集のタイトルになるくらいで初期の代表作にちがいないのだけど、なぜか何度読んでも内容を忘れてしまう。『二〇〇二年』を読むにあたり、まず『中国行き』の方を読み直してみた。 「僕」の人生で出会った三人の中国人に関する...
正直、「女優になるため上京していた姉・澄伽が、両親の訃報を受けて故郷に戻ってきた。その日から澄伽による、妹清深への復習が始まる。高校時代、妹から受けた屈辱を晴らすために……」という裏表紙に書かれたあらすじにはまったく惹かれず、本谷有希子の芝居(それはほんとうに素晴らしかった)を...
難解なところはどこもないけど徹頭徹尾不可解な小説集。 カフェなんかで少し離れた席の会話が漏れ聞こえてきて、部分的にとてもおもしろいんだけど、何のことを話しているのかさっぱりわからない。興味をもって聞いているうちに情報量は増えていくが、整合しない点もそれにつれて増えていく。いつの...
TBSラジオで放送されているLifeのファッションリーダー、charlieこと鈴木謙介さんの著書。ラジオでは、若干あいまいだったり、本筋からはずれそうなリスナーからのメールや他の出演者の発言を、巧みに(しかも嫌みにならずに)整理して方向づけし直す能力に感心することしきりだけど、...
1906年に酔っぱらって甕に落ちた猫が、意識を取り戻すと1949年(文庫の裏表紙に1943年とあるのは間違い)になっていた。たどりついたのは苦沙弥ならぬ五沙弥先生の家。夏目漱石の正典猫と同様、五沙弥家に集まる風変わりな人々の会話を猫の視点から収集する。 正典はユーモラスな作品に...
アラブは地理的というより心理的に日本からとても遠い場所で、なじみのあるものといえばテロと石油とアラビアンナイトくらいだと思うが、本書は、その中のアラビアンナイト的な題材から想像力を膨らませ、緻密に書き上げられたファンタジーだ。 ナポレオンの攻略の手がエジプトに迫る前夜(西暦では...
舞城作品には珍しく動ではなく、静からはじまる。人里離れた山ん中の静けさ、そこで書の道を究めようとする、背中にたてがみのある少年。だが、そこに不可避的に暴力が侵入してきて、少年の隠された獣性を呼び覚ます。 図式的にはいつものように、即物的でグロテスクな暴力が、ピュアなものに対する...
『吾輩は猫である』で猫が水甕に落ちてそのまま死んでしまうのは忍びなかったので、続けて、その猫が生き延びて活躍する物語を読むことにした。なんと猫の飼い主だった苦沙弥先生が東京の自宅で殺されていたのだ。それを遠く離れた上海で、名無しの猫君およびその仲間の猫たちが推理する。 オリジナ...
ラストで猫が死ぬ話はやだなと思ってずっと避けてきたのだけど、考えてみればラストで人が死ぬ話は数多く読んできたし、この間などはラストに犬が死ぬ話までも読んでしまった。猫だけ特別扱いするのも理に適わないので、このあたりで目を通しておくことにした。 猫は単なる狂言回しでほんとうの主人...
ぼくより下の世代の作家の作品を読むようになったのはここ数年のことだけど、その中で好き嫌いを越えて、ほんとうにすごいと思えるのは、舞城王太郎くらいかもしれない。半端なくバイオレンスで、そりゃもうグロいんだけど、ぼく、きみ、セカイというセカイ系のシチュエーションと、現代文学のメイン...
時は明治末、挿絵画家野々村某は、真新しい独逸製の写真機に目がくらみ、朋友富永丙三郎、理学者水島鶏月、屈強で勤勉な女中サトとともに地底探検の旅に出ることになる。 夏目漱石作品の時代背景とユーモラスな文体、ヴェルヌの『地底旅行』のモチーフ、グレッグ・イーガンばりのハードSFのアイデ...
タイトル買いしたのだけど、読みたかったのとは対極的な本だった。まず前提となる現状認識がちがっていて、筆者は日本人がもともともっていた宗教心はすたれて無神論的な態度が主流になっていると考えているのに対し、ぼくは今でも宗教心は日本人の行動を陰ひなたで律していると感じている。それで、...
現代ハードボイルドの書き手たちが、フィリップ・マーロウのキャラクターを借りて書いた短編15編(文庫化にあたり序文や作品8つが割愛されている)と、チャンドラー自身が残したマーロウが登場する唯一の短編(そのほかのマーロウが登場する短編は発表後に探偵の名前がマーロウに書き換えられてい...
花や植物の名前はほとんどわからない。いまさら全般的に覚えようとしても手遅れな気がしたので、まずは雑草の名前をどうにかしようと、本書を手に取った。街を歩いてよく目にしているはずだし、観葉植物は知らなくても、雑草の名前がわかることは、ちょっと気が利いているように思えたのだ。 紹介さ...
写真の代わりに写真家の書いたことばをまとめた写真集といえばいいだろうか。大正から現代までの日本の写真家25人の文章が収録されている。一応、名前を列挙すると、野島康三、萩原朔太郎、安井沖治、福原信三、山端庸介、土門拳、木村伊兵衛、田淵行男、濱谷浩、常盤とよ子、高梨豊、森山大道、荒...
はるか昔、清水俊二訳で読んだことはあるが、上品に食べ残された魚のように、頭とおしりの部分がかすかに記憶に残っていただけで、肝心なところはすっかり抜け落ちていた(村上春樹によれば清水俊二訳にはわざと訳されていない箇所が多くあるらしい)。そのときはシリーズ最高傑作という評価に同意し...

『徒然草』

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「つれづれなるままに、日くらし、硯にむかひて」の「硯」を「PC」に換えれば、一種のひきこもり系ブロガーだ。だが兼好法師が書きつけたのはチラシの裏的な内容ではなく、ソースを重視し、文献や実体験に裏打ちされたことを書いていた。だから、当時の人間だけでなく、現代に生きる人間にさえ届い...
恩師の葬儀で久しぶりに集まった学生時代の友人四人は、ふと十年前に謎の死を遂げた男のことを思い出す。それぞれの思いをこめた語りの中で、彼の死そして生に新たな光がなげかけられる。その光が新たな闇を呼び、そして光と闇はメビウスの帯のように幻想の中でつながる。 ノヴァーリスというのは、...
美人女子学生が14世紀のイギリスにタイムトラベルする話だというから、少女漫画的なほんわかSFを想像していたのだけど、それはあまりに大きな勘違いだった。 21世紀、14世紀両方を同時(というのはおかしいが)並行的に襲う疫病。問題は解決せず積み重なるばかり。読んでいて、歯がゆさと絶...
『「世間」とは何か』では日本の文学作品をてがかりに「世間」の正体にせまったが、本書では「世間」からの離陸に成功したヨーロッパの姿を通して「世間」をとらえようとしている。 ヨーロッパでも11世紀頃までは日本と同じような、贈与互酬関係を基本とする血族単位の集団主義的な社会、つまり「...
1968年。激しさが最高潮に達した学生運動の中で、「彼」は警官相手に殺人未遂を犯し、中国へ密航する。そこで待ちかまえていたのは文化大革命の混乱だった。辺境に下放されていた「彼」は、蛇頭の船に乗り30年ぶりに東京に帰ってくる。 もはやどこにも基盤をもたない「彼」の眼には、現代の東...
日々東京を歩き回っているぼくにとって、東京の街について語られる言葉は他人事としてはきけなくて、まるで「家族」の話をされているような微妙な感情をいだいてしまう。 東浩紀と北田暁大という、共に1971年生まれであり、東京近郊で生まれ育ち、東京に関心を持ち続けてきた二人の対論をまとめ...
日本独自編集の短編集の第3集。オールタイムの作品から選んでいるので、インパクトが小さい作品か、科学的に難解な作品が多くなってきているのは仕方ないところだろう。 『行動原理』、『真心』ではナノマシンを使って精神の特性を改変する。『ルミナス』は普遍的だと思われている数論にもし成り立...
二年ぶりに読む伊坂幸太郎。2007年の夏に映画が公開されるそうだ。 ドライでユーモラスな文体に、奇抜なシチュエーションと巧みなストーリー構成。とてもおもしろくて途中からは胸を高鳴らせながら読んだのだけど、読後感はいまひとつだった。 三つの死がとにかく安易すぎる。その上に積み重ね...
日本人は見ず知らずの他人への信頼感が希薄で、同じ社会を構成しているという一体感がない。というより、「社会」とそれを構成する「個人」といった西洋的な考え方(と一応書いてみたがぼくは「社会」も「個人」も西洋でたまたま最初にうまれただけで普遍的なものだと考えている。もちろん「世間」も...
いろんな人のお薦めの一冊にあがる本だけど、読みにくかったから読み通したことを自慢したいだけなのではないかという邪念をうんで、なかなか読もうという気になれなかったのだが、年末から読み継いできてちゃんと読み終えることができた。 別に難解でも退屈でもなく、エンターテインメントとしても...