2. 神について知っている二、三のことがら

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人気のない朝の珈琲屋。テーブルの上で、カフェモカの生クリームをなめているChuba。

杉之座「さあ、コーヒーごちそうしたんだから、話の続きを始めるよ。今回のテーマは神。」

Chuba「この前、掲示板でムフフな情報教えてあげたら、「神」っていわれてとても感謝されたよ。」

杉之座「ひとのPCで何をしているかと思えば……。まあ、それはおいておいて、ここでいう「神」はそういうたくさんいる神じゃなくて、たった一人だけの神、一神教の神だよ。」

Chuba「それって、ジャクソンファイブとマイケルジャクソンの違いみたいなものかな?」

杉之座「ううん……。強引に話を進めるとさ、日本の神話でもギリシア神話でも、たくさんいる方の神は、ぼくらよりもちょっと力があるだけで、なぜぼくらやそのまわりの世界があるのかという説明にはなっても、今度は彼らや彼らが住む世界は誰が作ったのかということになってくるでしょ。そんな風に無限に原因を求めていくのは面倒なんで、最初からその無限の先にあるものを用意しちゃいましょうというのが一神教。だから無限だし、神自身を含めてあらゆる物事の原因だし、とにかくすごい存在ということになっているんだよ。」

Chuba「すご~い。」

杉之座「いや、神は今「すご~い」と思ったよりさらにすごいんだよ。何しろ無限だから。Chubaちゃんの頭の中で把握できるなら無限じゃないということになるでしょ。さて、こんなすごい神なんだけど、ひとつ弱点がある。一番最初に「あなたは神を信じますか」ときいたよね?それはどういうことかというと、神は誰にでもはっきりとした形でいるとはいえないんだ。少なくともふつうの状態では、目でみたり触ってみたり匂いをかいだりできないからね。だから、信じたり、信じなかったりすることができる。」

Chuba「それって、かなり致命的かも。」

杉之座「でしょ。だから、昔からいろいろな形の神の存在証明というのが考えられているんだ。その中からひとつ紹介すると、こんな感じ。神を信じている人は少なからずいるから、神は少なくとも頭の中には存在しているというのはいいよね。ということは、実際に存在する可能性があるということだよね。」

Chuba「うん、それくらいは認めてもいいかな。」

杉之座「でも、実際には存在しないと仮定してみようか。つまり、神は頭の中にだけ存在しているわけ。でも、頭の中にだけ存在している神よりも、実在している神の方が、「実在」という性質をもっている分だけ大きいといえるよね。そうすると、少なくとも実在する可能性はあるんだから、実在するかもしれない神は頭の中にだけ存在している神よりも大きい可能性があるといえる。ところが、さっきいったように神は無限(どんなものより大きい)なんだよね。その神より大きい可能性があるものなんて考えられさえしないはずだ。ところが実在するかもしれない神は頭の中にだけいるとされている神より大きくなってしまうので、矛盾がうまれる。つまり、神は実在しないという仮定がまちがっていたことになる。よって、神は実在する。」

Chuba「ええ?その矛盾は頭の中だけで起きてるんだよね?それってほんとうに矛盾なのかな?この100円賭けてもいいけど、なんだかおかしいよ。」

杉之座「ははは。この証明は11世紀のアンセルムスという神学者が唱えたものなんだけど、その当時からいろいろ批判の声があったみたいだ。ところで、その100円はぼくのだけど。Chubaちゃんにはかわりに頭の中だけの100円をあげるよ。」

Chuba「それじゃ、頭の中だけのアイスクリームしか買えないよ。」

杉之座「じゃ、頭の中だけでも涼しくして、本題に入るよ。復習すると、神は、一人しかいないし、無限だし、あらゆるものの原因だったよね。スピノザはたぶんこう考えたんだ。そんな偉大な神がいるかいないかよくわからないというのはおかしくない?もしいるとしたら誰もが間違いなくわかる形でいるんではないだろうか。実は毎日その存在をはっきりと感じているんだけど、それが神だということに気づいていないだけかもしれない、と。ところが、いざ探してみると、ひとつしかなかったり、無限だったり、ほかのものにまったく依存してないものなんて、そう簡単には見つからないよね。」

Chuba「というかそんなものぶっちゃけありえないよね。」

杉之座「ふつうに考えれば、確かにそう。でも、ここで発想の転換。そういうひとつひとつのものをすべてあわせたもの、つまりこの世界全体というか宇宙だね。それをひとつのものとして考えたらどうだろう。宇宙はとりあえずひとつしかないし、無限だし、その中にすべて含まれるんだからほかのものには依存してないよね。これは神と呼んでもいいんじゃないかな。」

Chuba「え、それじゃ、この宇宙が奇跡を起こしたり、悪人や不信心者に罰をあたえたり、とんでもないわしゃ神様だよとかいったりするわけ?」

杉之座「しないしない。だいたい、自分を信じないものに罰を与えるようなせこい神なんて尊敬できないでしょ。「神は自己の本性の諸法則にのみによって働き、何ものによっても強制されて働くことがない(1部定理17)」というようにただ絶対的な法則に従っているだけで、気まぐれに何かをしたりしなかったりすることはないし、ほかから影響をうけることもない。いいかえれば神のもとではすべては必然なんだよ。アインシュタインも「神はサイコロをふらない」といってるしね(あまり知られてないけど、アインシュタインはスピノザ主義者だった)。」

Chuba「なんか神らしくないよ。それなら宇宙と呼んでおけばいいんじゃないの?」

杉之座「鋭いね。エチカの定義によれば「神とは、絶対に無限なる実有、言いかえればおのおのが永遠・無限の本質を表現する無限に多くの属性から成っている実体、と解する(1部定義6)」ということになっている。宇宙といったのは「空間の広がり(延長)」という属性だけからみたときの話で、実はそれ以外にも無限に多くの属性があって、そこでも神は同じようにまるごとすべてなんだよ。だから宇宙といってしまうと神の一部だけになっちゃう。」

Chuba「「属性」ってなあに?」

杉之座「いやあ、「属性とは、知性が実体についてその本質を構成していると知覚するもの、と解する(1部定義4)」といってみても何のことかわからないよね。要は、物事の本質的なありかたかな。たとえば身体や物体が存在しているということはさ、前後左右上下の空間の中で広がっているということでしょ。逆に、どこにも広がってなければ、それは存在してないということだ。だから「広がる」という性質は身体や物体にとって本質的で、それは「延長」と呼ばれる属性だ。もうひとつ、「われ思うゆえにわれあり」というように心も「考える」からあるといえるわけでしょ。だから「考える」という性質は心にとって本質的で、そちらは「思惟」と呼ばれる属性だ。ほかにも属性は無限にあるらしいんだけど、人間はこの2つしかわからない。」

Chuba「ウサギのぼくはわかるよ。「巫女さん」属性、「メイドさん」属性とか。」

杉之座「とにかく、「猫耳」だろうが「眼鏡っ娘」だろうが、すべての属性について、神は唯一の実体なんだ。いいかえると神でないものは何も存在しないんだよ。」

Chuba「そうすると人間とかウサギは何なの?」

杉之座「スピノザの用語では「様態」。「様態とは、実体の変状、すなわち他のもののうちに在りかつ他のものによって考えられるもの、と解する(1部定義5)」。簡単にいうと神の身体にできたおできだね。そのコーヒーカップも100円もこの宇宙にあるありとあらゆるものがおできだよ。」

Chuba「何十億個もおできがぶつぶつできたところ想像しちゃったよ。気持ち悪い。ああ、その中にはゴキ○リもいるんだよね。なぜ神様はあんなものを作ったんだろ。(Chubaはゴキ○リが苦手です)。」

杉之座「それについては1部の付録に書いてある(定理―証明形式じゃないから読みやすいよ)。「一般に人々はすべての自然物が自分たちと同じく目的のために働いていると想定していること、のみならず人々は神自身がすべてをある一定の目的に従って導いていると確信していること」がすべての大元となっている偏見だとスピノザはいっているんだ。人間は日頃自分の利益のために動いている(と思いこんでいる)。たとえば早く寝るのは明日早く起きるためだし、早く起きるのは遅刻しないためだし、遅刻しないのは会社をくびにならずに給料をもらうためだ。こんな風に、自分が目的のために動いているから、自然物も同じようにある目的のために動いていると思いこんでしまう。目があるのはものを見るためだし、ほかの生物は人間の食料になるために存在しているし、太陽は照らすためにあるとね。台風、地震、病気はそれじゃ説明がつかないんで、神が怒っているということにした。で、自分たちの健康と神を喜ばせるために都合がいいものを善とよび、そうでないものを悪とよんで、そこから道徳が生まれたりしたんだけど、それはまた別の話。実は、神は、特定の目的のために何かを生み出しているわけではなく、「神の本性の必然性から無限に多くのものが無限に多くの仕方で(言いかえれば無限の知性によって把握されうるすべてのものが)生じなければならぬ(1部定理16)」というように、生み出すことができるものすべてを必然的に生み出しているだけなんだよ。その中にはゴキ○リも含まれる。妙に人間らしい神よりこっちの方がリアリティあると思わない?」

Chuba「でも、その神は信じても何もいいことないんでしょ。」

杉之座「信仰という意味ではそうだね。ただ、スピノザの考え方に触れるとなぜかとても元気が出てくるよ。」

Chuba「そういわれてみれば、ぼくも楽しい気分になってきたよ。」

杉之座「あれ?ここにあった100円が消えている。」

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