演劇ノートの最近のブログ記事

青年団『眠れない夜なんてない』

作・演出:平田オリザ/吉祥寺シアター/指定席3500円/★★★★

出演:志賀廣太郎、大崎由利子、渡辺香奈、堀夏子、篠塚祥司、辻美奈子、大塚洋、山村崇子、山内健司、松田弘子、天明留理子、足立誠、ひらたよーこ、大竹直、髙橋智子

マレーシアの高原にある日本人向けのリゾート施設。リタイアして移住してきた人々とその家族、休暇で短期滞在の人々たちの姿を「夢」というキーワードをからめて描いてゆく。

老いと死というそれはそれで主軸になりうるテーマも扱われているが、今回はそこに集った人々がそれぞれにかかえる日本という祖国に対するぬぐいきれない違和感がメインテーマだ。重大な病を宣告されながら日本に帰りたくないという父親、学校時代の同調圧力をいまだにトラウマとして抱えている中年女性、そしてマレーシアのほうが楽だという元引きこもりの若者。

確かに相対的には日本は豊かでとても暮らしやすい国であるのは間違いないのだが、その実質に比べて各種世論調査などをみると自己評価がとても低い。実際、自殺率もとても高いわけだ。それは気の持ちようとか、思い込みによるものではなく、実体として確かに存在する何かがもたらしているのは間違いのないことだと思う。それが何かということは舞台の上ではあげつらわれることはなく、たとえば花瓶のなかの枯れた花のように、ある種の寂しさとして提示されるだけだ。

けっこうぼくにはそれがぐっときたのだった。

『混じりあうこと、消えること』

作:前田司郎、演出:白井晃/新国立劇場小劇場/A席5250円/★★★

出演:國村隼、橋爪遼、南果歩、初音映莉子

夜の児童公園に葬式帰りの男がやってくる。ベンチに座って黒ネクタイをゆるめていると、奇妙な形の遊具の中から、少年、続いて女性があらわれる。見知った女性だ。男は彼女に「カナ」と呼びかける。さらにピラニアから人間になりかけているというロープでつながれた少女が登場し、女は二人は彼と自分の間の子供だという。こうして彼らのぎこちないつかの間の家族生活がはじまる。

別役実風のおかしくて笑える不条理劇のようなテーストをまじえながら、彼らの神話的な関係が物語られる。そこは心の痛みからの逃避が生み出した場所だったのだ。やがて、彼らはそこから現実世界に戻ることを選択する。

國村隼と南果歩の存在感がすばらしかった。

劇団♪♪ダンダンブエノ七味公演『ハイ!ミラクルズ』

作:福原充則、演出:近藤芳正/青山円形劇場/指定席6000円/★★★

出演:南野陽子、光石研、前田健、峯村リエ、酒井敏也、山西惇、近藤芳正

新聞配達の傍ら、街の安全を守る男たち、パン工場の夜勤で働く女性たち、中年ワーキングプアたちのおりなすミュージカルコメディー(南野陽子の歌が聞ける!)。笑いはかなりつぼだったが、全体的にもうちょっとブラックでラディカルにした方が、テーマが生きたし、深みが出せたのではないかと思う。

ネタバレだが、ラスト、おつかれ様という神様的な存在にお願いして世の中の不幸と幸福をあべこべにしてもらう。それでも彼らに何の変化もないのは、実は彼らがそれほど不幸じゃなくてそこそこだからという落ちなのだが、微温的で何の救いもない落ちだなと思った。ある意味ハリウッド映画的な落ちともいえるけど、これを変えるだけでも、ただおもしろい芝居から記憶に残る芝居になったような気がするので、惜しい。

THE SHAMPOO HAT『立川ドライブ』

作・演出:赤堀雅秋/シアタートラム/指定席3800円/★★

出演:坂井真紀、赤堀雅秋、野中隆光、萩原利映、多門勝、児玉貴志、滝沢恵、黒田大輔、梨木智香、吉牟田眞奈、長尾長幸、日比大介

警官と女が胸を血だらけにして倒れている場面からはじまり、約半年前にさかのぼってその場面に向けての軌跡が淡々と綴られてゆく。間違いなく、2007年の夏に実際に起きた、警官が知人の女性を殺害して直後に自殺した事件に取材していて、舞台となっている地域、警官や女性の年齢まで一致している。

悲劇ではなく喜劇なので、事件の裏に隠された人間的本質なんてものは見えない代わりにかなり笑える。破滅にいたる道筋は意外性はなくて、人物の関係性もありがちな構図ではあるんだけど、犯人の警官や被害者の女性のきわめて平板なリアリティが描き出せていたとは思う。

M&O Plays プロデュース『まどろみ』

作・演出:倉持裕/あうるすぽっと/指定席5500円/★★★★

出演:ともさかりえ、近藤公園、村岡希美、玉置孝匡、六角精児

恋人とつみとともに、父親の遺産で何不自由なく暮らす零児。最近は叔父秀平が遺産目当てで転がり込んできている。零児の抱える問題は不眠症。もう何年も一睡もできていないのだ。

そんな中、半年前零児と一夜をともにしたという女性芽里子が家に訪ねてくる。とつみを交えて話し合いをもつ零児だが、彼は唐突に以前見かけた自分にうり二つの男の話をはじめ、芽里子が出会ったのはその男ではないかという。そこに、さらにもう一人来客がやってくる。日達という男性だ。彼はゲイであり、零児が自分の前から姿を消した恋人一輝だという。

という導入部のミステリーとサスペンスが最後まで持続するすばらしい舞台だった。時系列がシャッフルされていたり、登場人物の想像・妄想のシーンと現実のシーンの区別が曖昧だったりして、難解といえば難解だが、本質的に残る不条理はたぶんひとつだけで、そのバランスが絶妙だった。

近藤公園が実は男前だったというのが新たな発見。

猫のホテル『けんか哀歌』

作・演出:千葉雅子/下北沢本多劇場/指定席4600円/★★★

出演:中村まこと、森田ガンツ、市川しんぺー、佐藤真弓、池田鉄洋、村上航、いけだしん、岩本靖輝、菅原永二、前田悟

劇団昭和とかに改名してもいいんじゃないかと思うくらい昭和にこだわり続けている猫のホテルだが、今回は戦後間もないアメリカ占領時代の日本映画界が舞台。検閲による制約の中映画を撮り続ける男たち。左右から押し寄せる政治の波の中で、彼らは否応なしに労働争議に巻き込まれてゆく。団結そして裏切り......。

ほぼ一年ぶりの本公演にして二年ぶりの新作。まさに満を持したという感じで、今回は傑作だ。いつもながら、笑いは別としてストーリーそのものには新奇性はなく紋切り型なのだけど、シリアスな場面と笑いのコンビネーションがひたすらうまいのだ。次の本公演が来年の夏というのがとても残念。

シティボーイズミックス『オペレッタ ロータスとピエーレ』

作・演出:細川徹/天王洲銀河劇場/S席6700円/★★

出演:大竹まこと、きたろう、斉木しげる、中村有志、ピエール瀧

オペレッタが最初のコントだけで終わってくれたのはいいニュースだった。

そのあとに流れたページを破っていくイメージで出演者を紹介するオープニングムービーはとてもしゃれていてすばらしかった。

いつもコントは玉石混合ではあるんだけど今回は若干石の比率が高かった。俗っぽい笑いが多かったし、真骨頂であるシュールな笑いもこれまでにやってきたシュールさをなぞっているような気がした。終演後の出演者挨拶の方がおもしろかったかもしれない。

とはいえ、シティボーイズの三人が間近で見られるだけで十分満足だ。

月影番外地『物語が、始まる』

原作:川上弘美、作:千葉雅子、演出:木野花/赤坂RED/THEATER/指定席5000円/★★★

出演:高田聖子、加藤啓、辻修

「雛形」というのは人間そっくりの原始的なアンドロイドのようなもの。平凡なOL山田ゆき子はある日捨てられていた雛形を拾い、世話をすると、だんだん人間の男に成長してゆく。変わってゆく恋人本城との関係・・・・・・。

川上弘美の摩訶不思議で切ない傑作小説をどう料理するのかなと思っていたら、セリフまで忠実に再現して原作にぴったり寄り添いながら、演劇の空間のなかにしっかりと再構成していた。音響や光の効果がすばらしかった。高田聖子さんもふだんがらっぱちな役が多いけど、当然といえば当然、こういう抑制した演技もできるんだな。

いいものをみさせてもらった。

『どん底』

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『どん底』

原作:マクシム・ゴーリキー、脚色・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/シアターコクーン/S席9000円/★★★

出演:段田安則、江口洋介、荻野目慶子、緒川たまき、大森博史、大鷹明良、マギー、皆川猿時、三上市朗、松永玲子、池谷のぶえ、黒田大輔、富川一人、あさひ7オユキ、大河内浩、犬山イヌコ、若松武史、山崎一

社会の最底辺の人々が暮らす下宿宿。その日暮らしの職人たち、アルコール依存症の元俳優、いかさま博打打ち、恋愛小説の中に逃避している娼婦、元男爵を自称するヒモ、泥棒。因業な大家と妻、そして虐待される妹。ある日客としてやってきた不思議な老人。日ごとくりかえされる喜劇とときおり波のように押し寄せる悲劇。

「どん底」とはいうけどみんな酒を飲んだり軽口を言い合ったりしてそれなりに楽しそうで、むしろほんとうの「底」つまり死の手前の最後のセーフティーネット的な場所だ。とはいうものの、そこから這い上がることはとても難しくて、出て行く道は実質上死ぬか警察につかまるかくらいしかない。だからこそ笑うしかないんだろう。笑いの部分はたぶんケラリーノ・サンドロヴィッチによる完全なオリジナルで、いいテンポ感をだしていた。

満ちあふれる笑いとうらはらに、舞台の上にはまったく救いは用意されていないのだけど、でも救いなんてなくても人生は続く。そういうものだ。

innerchild『(紙の上の)ユグドラシル』

作・演出:小手伸也/青山円形劇場/指定席3500円/★★★

出演:小手伸也、菊岡理紗、土屋雄、三宅法仁、石川カナエ、初谷至彦、中山智香子、津留崎夏子、仲村梓、敷間優一、松本華奈、大内厚雄、武智健二、進藤健太郎、井俣太良、小田篤史、響子、稲川香織、久保寺淳子、石村みか、宍倉靖二

一本の巨木を軸にして、異なる時代の人々、神々の物語が並行して語られる。

まずは現代日本、秋田県九日町に住む坂上家の物語。彼らは代々その巨木を守るような役目を負っている(と本人たちは思っている)。その巨木のもとでセラピーを行う精神科医の父親坂上八馬、その樹と父親に反発して東京に出て行く息子樹(たつる)、それに彼らの前に現れる謎の女性樹(いつき)。

彼らの因縁は坂上田村麻呂の奥州遠征の際、むごたらしい最期をとげた異民族蝦夷たちにさかのぼる。坂上家は坂上田村麻呂の子孫で、その樹は彼らの神木だったのだ。

そしてもうひとつは北欧神話。その巨木はこの世界を支える世界樹ユグドラシルであり、登場人物たちはそれぞれ神話の神々や巨人としての役割や性格を象徴的に負っている。

テーマは木と人間の関わり。木は感情をもたない。感情は人間の側が一方的に付与するものなのだ。その間で繰り広げられる崩壊と再生。

この作品に限ったことではないけど、小手伸也のつむぐストーリーはさまざまな神話、物語、学術書から抽出したエッセンスを有機的につなぎあわせたとても複雑なものだ。メッセージも一筋縄ではいかない深みをもっている。一方、情感や演出はむしろストレートでシンプルだ。これはある意味ミスマッチかもしれない。つまり複雑なストーリーに慣れた、すれている人たちには、ストレートな情感がものたりなくて、ストレートな情感を好む人たちには複雑なストーリーは情感を阻害するものに思えてしまうからだ。今回も途中まではそういう不整合を感じたが、終盤はかなりひきこまれた。ラストの人で樹を組み上げるシーンはほんとうに見事だった。ただ、頂上にいる樹(いつき)役の石村みかさんの表情がぼくの席から見えなかったのが残念だった。

『東京』

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『東京』

作・演出:赤堀雅秋/赤坂RED/THEATER/指定席4200円/★★

出演:いせゆみこ、井筒大介、井端珠里、海老原礼子、粕谷吉洋、木村悟、小林愛、佐藤幾優、佐藤晴彦、清水優、新田めぐみ、野本光一郎、松永裕子、ゆかわたかし、吉牟田眞奈

24歳になっていまだに田舎の海辺の廃屋でつるんでいるかつての高校の同級生たち。その中の3人がそれぞれの夢を追いかけて東京に出て行く。彼らの東京での出会いと挫折、そして残された人々、というような青春群像劇だ。

(野球は全然関係ない芝居だが)あえて野球にたとえると、赤堀雅秋という人は常にストレートで勝負してくるピッチャーだと思う。ストレートのはずなのになぜかホームベース近くで魔球のように変化するのがいいのだ。ただ今回は、その変化が感じられず真ん中高めに真っ正直に入ってしまった感じ。語り手の古川の物語をたどるなら、同級生のキスシーンをみてひきこもりになったのは、つまりワイルドに生きることに対する徹底的な嫌悪感のせいだと思うのだが、結局東京で自らワイルドになってひきこもりが癒されるということで、筋は通っているものの、それは成長というより、なれあいのように思えてしまった。

チェルフィッチュ『フリータイム』

作・演出:岡田利規/スーパー・デラックス/自由席3500円/★★★

出演:山縣太一、山崎ルキノ、下西啓正、足立智充、安藤真理、伊藤沙保

駅のすぐそばのファミレスが舞台(椅子とテーブルの床から50cm以上だけ再現した斬新な舞台美術)。

もっとも主要な登場人物は、そのファミレスに毎朝客として訪れ、ドリンクなんでも1杯160円のメニューを注文する女性(いつもの岡田利規作品と同じで、複数の俳優によって、本人のモノローグと、他者による再現、想像がシームレスに混じり合った形で演じられる)。彼女はそこで日記を書きながら(ときにはただノートをペンでぐるぐる塗りつぶしたりしながら)かっきり30分の「フリータイム」を過ごしてから出勤する。いつかそれを1時間や1時間半に延長して、会社を遅刻してみようかと、彼女は考えているのかもしれない(とまわりの人たちは想像する)。そうすればよりフリーになれるんじゃないかと。だが、実際彼女にはそんなことをする必要はなくて、それはかつてその30分の間に永遠を経験したことがあったからだ。

この30分という時間設定がとてもリアルで、ぼくの経験でも、永遠に一番近い時間は30分だと思う。

特に前半テンションが低いまま進行するので、(ぼくの体調のせいが大きいが)不覚にもまどろみ状態に陥りそうになった。だが15分の休憩(上演時間的には休憩は全然不要にもかかわらず)のおかげで盛り返し、後半のクライマックスについてゆくことができた。あと、こちらが慣れてきたせいかもしれないが、今回は俳優の動きが比較的おとなしめで、いつものように話している台詞を裏切ろうとするのではなく、逆に協調しているような感じがした。

スティーヴ・ライヒみたいでミニマルなサンガツの音楽もよかった。

『春琴』

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『春琴』

演出・構成:サイモン・マクバーニー/世田ヶ谷パブリックシアター/S席7000円/★★★

出演:深津絵里、チョウソンハ、ヨシ笈田、立石涼子、宮本裕子、麻生花帆、望月康代、瑞木健太郎、高田恵篤、本條秀太郎(三味線)

サイモン・マクバーニーの創意工夫に富んだ斬新な演出はもちろんすばらしい。だがそれ以上に素晴らしいのが谷崎潤一郎のテキストだった。読んだことないのであれだが、ほとんど寄り添うくらい原作の『春琴抄』に忠実だったようだ。原作は谷崎の分身らしき語り手が春琴と佐助の美しい(としかいいようがない)情愛の世界を物語るというスタイルをとっているが、その語り手の存在を含めて再現している。

舞台では、さらにそれをラジオドラマとして語るナレーターが登場して、ときおりはさみこまれる『陰影礼賛』からの引用などもあって、この物語をひとつの「おはなし」として相対化しつつ文化論として落とし込もうというような意図を感じてしまったりもするが、二人きりの閉鎖した息苦しい世界を演劇として成立させるためには物語の外部の存在が必要だったのだろう。

話を最初に戻すと、サイモン・マクバーニーの演出は刺激的だ。春琴役は、一応深津絵里なのだが、少女期は文楽人形、少し長じてからは、宮本裕子が人形のふりをして演じていて、深津絵里は声と人形の操作(のようなこと)をしている。深津絵里が顔を出して春琴を演じるのはほんとうに短い間だけど、短いからこそ印象的だったりする。佐助の方は三世代の役者が順番に演じるが、最年長の佐助であるヨシ笈田は常に舞台にいる。彼もまた語り手の一人なのだ(実質主演は彼だった)。

『恋する妊婦』

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『恋する妊婦』

作・演出:岩松了/シアターコクーン/A席7500円/★★★

出演:小泉今日子、大森南朋、鈴木砂羽、荒川良々、姜暢雄、平岩紙、森本亮治、佐藤直子、佐藤銀平、中込佐知子、米村亮太朗、大橋智和、安藤サクラ、風間杜夫

94年の再演ということだけど初見。

大衆演劇の一座が舞台というと、もうそれだけでストーリーが細部に至るまで想像できてしまいそうなのだけど、もちろん岩松了はその想像を完膚なきまでに裏切ってくれた。

座長の妻であり、一座の裏方作業をとりしきる、座員から「ママ」という呼ばれる女性が主人公。彼女は現在妊娠8ヶ月だ。ロングランの公演の真っ最中、女優を連れて逐電したかつての花形役者が、もういちど一座に戻りたいという泣き言をいれてくる。彼は、一座の中の何人かの女性と浮き名を流し、「ママ」もまたその中のひとりだった。

「ママ」の最後の残酷な決断。一瞬にして色を失った髪。彼女が選んだもの、そして捨てたものはなんだったのか。

岩松了のセリフ回しはやっぱりすごい。登場人物たちがそれぞれに自分の感情を伝えようとあがいて、それは失敗するのだけど、その失敗した言葉がなんともいえず美しい。最近の作品より90年代に書かれた作品の方が、失敗の向こうにあるものを想像しやすくて、だからぼくは好きなんだと思う。

特に、「ママ」を演じた小泉今日子と一座の女優さつきを演じた鈴木砂羽がからむシーンがよかった。こういう言い方はなんだが、とにかく二人ともとてもかわいらしかったのだ。できればもう少しいい席でみたかった。

青年団『火宅か修羅か』

作・演出:平田オリザ/こまばアゴラ劇場/自由席3500円/★★

出演:志賀廣太郎、山村崇子、能島瑞穂、堀夏子、荻野友里、古舘寛治、古屋隆太、大竹直、鈴木智香子、井上三奈子、しんそげ、高橋緑、兵藤公美、島田曜蔵、山本雅幸、村田牧子

海辺の旅館のロビーが舞台。いくつかの人間関係が並行して描かれるが、主軸となるのは、妻の死後家を出てその旅館で生活する小説家、再婚相手の女性、小説家の三人の娘だ。もう一組、学生時代の水難事故を引きずる元ボート部の男女の一団が舞台をにぎやかす。

タイトルの『火宅か修羅か』だが、ぼくは「火宅」の意味を勘違いしていた。文字通り、問題が発生して炎上中の家庭という意味かと思っていたが、広辞苑によると単に「現世。娑婆。」ということらしい。もうひとつの「修羅」は、作中で登場人物が説明してくれるように、地底や海底から天上の神々に戦いを挑む悪神転じて人の心の底にたぎるマグマのことで、この作品に限らず平田オリザ作品は表面上の静けさの裏で、この修羅を描こうとしているといっていいような気がする。

今回、残念なことに、修羅をちゃんと見いだすことができなかった。勘違いした「火宅」の意味にミスリードされたか、あるいは題材とぼくとの相性が悪かった、ということになるのかもしれないが、そんなこと別にいいじゃんと思えてしまって、真に迫る瞬間をつかみそこねてしまった。

それでも、小説家一家の三女とボート部で死んだ生徒と同じボートに乗っていた小林が言葉を交わすシーンはよかった。互いに余計な部外者か好奇心の対象に過ぎなかったのに、突然共感がうまれる。ぼくは争いには心を動かされず、和解にひかれてしまうということなのかもしれない。

野田地図『キル』

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野田地図『キル』

作・演出:野田秀樹/シアターコクーン/S席9500円/★★★★

出演:妻夫木聡、広末涼子、勝村政信、高田聖子、山田まりや、村岡希美、市川しんぺー、中山祐一朗、小林勝也、高橋恵子、野田秀樹

「キルことは生きること」。モンゴルの平原では、ファッションデザイナーたちが自分のデザインした「制服」を世に広めるため、血なまぐさい群雄割拠の争いを繰り広げていた。若きテムジンはブランド「蒼き狼」を率いてめきめきと頭角をあらわす。やがて、父から引き継いだ「自由」の型紙(=地図)の外側に「愛」の世界をみつけ、そこで彼は絹という素材と、シルクという女性にめぐりあう。彼は、シルクの心をつかむため、遊牧民の「流れる言葉」でなく、「留まる言葉」による「てがみ」を送り、二人の間には文通がはじまる。しかしゆきかう美しい言葉は、読み書きのできない彼らに代わって、テムジンの部下結髪が代筆、代読したものだった......。

舞台にあるのは「留まる言葉」でなく「流れる言葉」で、それもものすごい速度で流れてゆく。それに遅れないようについていっているうちにいつの間にかその流れの中に巻き込まれてしまった。ラストシーンがとにかくすばらしくて、ぼくはその瞬間だけ輪廻を信じた。

渡辺いっけいの結髪が見たいと思っていたけど、勝村政信の軽快でエネルギッシュな結髪もよかった。妻夫木聡も初舞台と思えないほど堂に入った熱演だった。

今年最後にみた今年最高の芝居だった。

ナイロン100℃『わが闇』

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/下北沢本多劇場/指定席6000円/★★★★

出演:犬山イヌコ、峯村リエ、坂井真紀、岡田義徳、大倉孝二、長谷川朝晴、三宅弘城、みのすけ、廣川三憲、松永玲子、長田奈麻、吉増裕士、喜安浩平、皆戸麻衣

ナイロンとしてはきわめて珍しいことにというかおそらくはじめてではないかと思うが、オーソドックスでウェルメイドな家庭劇だった。

田舎の古い家屋で育った三人姉妹。一家がここに越してきてから31年目の冬から春にかけての物語。母親は姉妹が子供の頃自ら命を絶ち、父親は今や病で寝たきりになっていた。長女立子は父親と同じく小説家で身をたて、次女艶子は嫁いで家を出たものの今は夫と共に実家に身を寄せている。三女類子も家を出て女優になっていたが、スキャンダルが原因で13年ぶりに家に帰ってくる。

何か新機軸があるわけではない。ひとつひとつ丁寧にエピソードを重ねて、笑いと叙情のタペストリーを作り上げている。演劇の醍醐味は、ストーリーの物珍しさじゃなく、リアルな強度をもった場面に目撃者として居合わせることにある、ということを思い出させてくれた舞台だった。特に三女類子役の坂井真紀はたとえようもなく素晴らしかった。

劇団、本谷有希子『偏路』

作・演出:本谷有希子/紀伊國屋ホール/指定席5000円/★★

出演:近藤芳正、馬渕英俚可、池谷のぶえ、加藤啓、江口のりこ、吉本菜穂子

女優になる夢を諦めて東京から故郷に帰ってこようとする28歳の女性。彼女は夢のために犠牲を強いてきた父親にそのことを切り出せないまま、昔苦手だったアットホームな雰囲気の親戚の家に一緒にやってくる。それで自分が田舎生活に順応できるかどうか確認しようというのだ。機会をとらえてようやく彼女が実家に帰る話を切り出すと、父親はそれなら自分が代わりに東京に出て行くという......。

『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』と若干似ているシチュエーションだが、今回は破天荒な父娘の関係を中心にしたホームドラマに仕立てている。一度とてもまとまりのいい感じで終わらせるチャンスがあったのにそうしなかったのは、本谷有希子のこのテーマに対する思い入れのせいかもしれない。永久に続くどうどうめぐりのような葛藤。それが若干完成度をそいでいるような気もしたのだけど、でもそれこそが彼女にとってのリアリティなのだろう。

『死ぬまでの短い時間』

作・演出:岩松了/ベニサン・ピット/指定席7500円/★★

出演:北村一輝、秋山菜津子、田中圭、古澤裕介、内田慈

音楽劇というふれこみでバンドの生演奏がついていたのだけど、どうにも好きになれない音楽で、音楽で舞台上の流れが中断することを含めてそれがなければどんなにかよかっただろうと思わせることしきりだった。

自殺志願者をうってつけの死に場所の崖まで運ぶことで世間から非難を浴びているタクシー運転手、殺人を犯して東京から逃げてきた女、運転手のファン気取りの若い男、ダンサーの若い女、彼女にしつこくつきまとう男。この5人が絡み合う、一種の不条理劇だ。ここでは生と死は紙一重で自分がどちら側にいるのかはっきりとわからない。それを確かめるかのように言葉を投げ合うが、それをきくのが生者なのか死者なのかもまたわからない。岩松了らしい、いいセリフ回しがいくつもあったので、なおさら音楽の邪魔がうらめしかった。

表現・さわやか『ポエム』

作・演出:池田鉄洋/下北沢駅前劇場/指定席3500円/★★

出演:佐藤貴史、柳沢なな、岩本靖輝、佐藤真弓、いけだしん、村上航、池田鉄洋

前回は受けるシーンの合間にだれるシーンがはさまっていたが今回はだれるシーンの合間に受けるシーンがはさまっている感じだった。客演の佐藤貴史のしゃべりにはエネルギーを感じたので、もう少し活躍するシーンを増やした方がよかった気がするし、池鉄も今回ちょっとおとなしめだった。代わりに長井大はあんなに何度もひっぱらなくていいと思う。