演劇ノートの最近のブログ記事

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作・演出:松井周/あうるすぽっと/自由席3000円/★★

出演:今村妙子、加賀田浩二、木村健二、古賀陽子、篠原美貴、白石萌、上瀧征宏、高野桂子、田口美穂、田中克美、谷村純一、寺田剛史、中嶋さと、波田尚志、藤尾加代子、細木直子、宮脇にじ、古舘寛治、古屋隆太

サンプルの松井周が北九州の俳優、スタッフと作り上げた作品。

ちょっと amazon を彷彿とさせるような、時給700円のあまり労働条件がよくない工場で働く労働者たち。そしてそれから数十年後、彼らの労働を博物館的に展示している施設で働く若い清掃員、案内役の女性、そこを訪れた求職中の女性。その施設はまもなく閉鎖されようとしている......。

サンプルのときの松井周は、しっかりと世界観を作り上げて、その中で人々がどう動くかという必然性を自然科学者的に見つめようとしているが、今回よくも悪くもいつもと違って、世界観はわざとすきまをあけておいて、俳優やスタッフたちとの共同作業の中から偶然的のプロセスで作り上げていったという感じの作品だった。俳優それぞれに見せ場が用意されていた。緊張感のあるサンプルの世界もいいが、こういうちょっとゆるいのもきらいじゃない。

終演後のアフタートークで、そういう印象が裏書きされた。今回いくつかの縛りがあったらしい。「①地域(九州北部)と何かしら関連のある内容であること。②第一線で活躍する演出家が、稽古開始から本番までの約一ヶ月半、北九州に滞在して作品創りを行うこと。(アーティスト・イン・レジデンス)③オーディションで選出された地域の役者を中心にしたキャストであること。④スタッフは可能な限り北九州芸術劇場や地域のメンバーで構成すること。⑤東京公演を行うことで北九州から発信し、批評を求めていくこと。」そういうこともあり、今回ワークショップからみんなで作り上げていく形をとったそうだ。

東京で演劇やるのも苛酷だが、地方でやるのはそれ以上の難しさがあるだろう。俳優や劇団関係者をサポートすべく、劇場の人たちもいろいろ考えているようだ。そのあたりの話がちらりと聞けて、アフタートークはかなり面白かった。

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作・演出:岡田利規/STスポット横浜/自由席3000円/★★★

出演:山縣太一、松村翔子、安藤真理、青柳いづみ、武田力、矢沢誠、佐々木幸子

男の人がいます。その男の人は幸せな人です。という抽象的なところから物語?ははじまる。いきなり面食らうのが、この「幸せ」という表現で、おとぎ話の最後に意味のない結句として「幸せに暮らしました」のように使われる表現が、登場人物を特徴づけることばとして使われている。

徐々に語られていくのは「幸せ」な夫婦の生活の断片。今度入居する高層マンションの建設現場をみにいくとか、妻の後輩の女性を家に招いてディナーをふるまうとか、そのあとの二人きりの時間、セックスなどだ。こういう「幸せ」の描写の中に、ところどころ不安の要素がちりばめられる。数年前の無差別殺傷事件の記憶、公園で小学生の女の子たちを見つめる男、通りすがりの男に対する理不尽な怒り、そしてきわめつけは、二人の家に突然やってくる謎の人物。誰でもちょっとしたことで幸せになれる、幸せというのは簡単なことなんだという、妻に対し、彼は、ただすべての人があなたたちのように幸せになれるわけではない、幸せというのはたくさんの不幸せにとりかこまれているということを理解してほしいということを執拗にくりかえす。この場面がとにかく圧巻だった。

前作『フリータイム』では個人的な幸福を肯定した感があったが、今回はより大きな枠組みの中で否定している。2009年8月30日の衆議院選挙の前日、当日に舞台が設定されているのも、個人と社会とのかかわりが選挙くらいしかないという現状を皮肉っているかのようだ。

これまでのチェルフィッチュ作品同様、これらの物語は俳優によって演じられるわけではない。俳優は、自分たちの身体をさらしながら、語るのだ。普段着のような服装で、身体を奇妙に折り曲げたり、揺すったりすることで、観客は、演じられている何かではなく、生のままの身体そのものをみる。それでも、今までは、俳優は多かれ少なかれ語り手という役を演じていたような気がするが、今回は、語り手ではなく、物語を媒介する透明な存在になっていたような気がする。それがどういう方向にいくのか今後の活動が興味深い。

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作:倉持裕、演出:世田谷ジェッツ/駅前劇場/自由席3300円/★★★

出演:谷川昭一朗、栗田麗、戸田昌宏、野村恵里、関寛之、森川ゆきえ、松永大輔、篠原友希子、富士たくや、福津屋兼蔵、なんきん

倉持裕が脚本を離れてから、どうも日程があわなくて、みにいくことができなかったが、今回は過去の倉持裕脚本作品の再演ということで、万障繰り合わせて、久々のプリセタ。

倉持裕には岩松了の影響を感じるような、人間関係の機微をシニカルに描いた部分と、独自のシュールで残酷なユーモアの両面があるけど、今回は前者の色彩が濃い作品だった。ペン字教室を主宰する妻と、サラリーマンの夫。夫には漫画を描く趣味があったが、本格的に学んでみようと、偶然であった元漫画家に個人教授を依頼する。しかし、彼に一目会った妻は、露骨に彼を嫌うそぶりをみせ、彼はわたしたちを不幸にするという......。

いろいろチープといえばチープ。でも、小劇場演劇ってほんとうはこういうものだったという、原点の楽しさを感じさせてくれる舞台だった。特に、漫画のコマ割を舞台上で表現するところは腹をかかえて笑った。

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作・演出:山内ケンジ/駅前劇場/指定席2500円/★★★

出演:九十九一、渡部雄作、KONTA、岡部たかし、古賀清、渡部友一郎、鈴木コウヤ、本村壮平、安村典久、メイビ、綿貫正市、牧田明宏、主浜はるみ、金谷真由美、大地輪子、田上香織、山口奈緒子

やけに登場人物が多いなと思ったら、事務所の10周年企画とかで所属俳優全員が出演しているそうだ。

城山羊の会は初見。もっとべたっとした感じを想像していたが、ブラックでとぼけたユーモアと底が抜けたようなシュールさが魅力的な舞台だった。誰か一人似た作風の人をあげるとしたら別役実だろうか。

同じ団地に住む友人たちが帰った後、やよいは軽くウイスキーを口に含むが、突然眠くなってうたたねしてしまう。目が覚めると夜で、ちょうど夫が帰ってきたところだった。あわてて子供部屋をのぞくが、塾から帰ってきているはずの子供の姿はない。そのとき突然携帯電話がなり、子供を誘拐した、返してほしければ身代金を払えという。打ちのめされる彼らのもとに、知らせていないのに、なぜか事件をききつけた、近所の友人、警察、夫の父、そしてやよいの愛人までもがやってくる......。

どれが現実に起きたことで、どれが幻想なのか、そもそもその間に区別はあるのか......。さらに不可解なことに、中心的な二人の女性の役をときどきほかの役者が演じる。それもうっすらと化粧をし、頭を短く刈り込んだ男性だ。どこかで見た顔だなと思ったら、バービー・ボーイズのKONTAだった。つまり、やよいの役は本来その役を割り当てられている金谷真由美とKONTA二人によって演じられ、もうひとつのあかねという役は主浜はるみそしてKONTAによって演じられているのだ。つまり三人二役。みている間は面食らったが、配布されたリーフレットの配役表をみて、なんとなるわかったような気になった。KONTAの役名に「罪」と書いてあったのだ。つまり、この二人の女性が罪深さを体現するような場面で、KONTAに変身するということなのだろう。すごくひねられた演出だ。

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作・演出:長塚圭史/下北沢本多劇場/指定席5500円/★★★

出演:池田鉄洋、内田亜希子、加納幸和、小島聖、伊達暁、中山祐一朗、馬渕英俚可、光石研、村岡希美、山内圭哉

阿佐ヶ谷スパイダース、1年半の充電期間を経ての新作。充電前には2本しかみたことないので、とりとめのない雑感になってしまうが、泥と血のにおいが感じられる舞台だった。それが今回は、泥臭さはぬけ、血はでてくるが、より観念的になり、においはしなくなった。一言でいうと、「洗練」された。

ある小説家が主人公。グロテスクなホラーを書いていた彼は、作風を変えて観念的な小説を書くようになった。以前のファンを中心に酷評を浴びて、彼はいらつき、編集者をつれて夜の街に気晴らしにいく。そこで彼はとてつもなく奇妙な世界に迷い込む......。

語るものと語られるもの、自ら動くものと動かされるもの。ラストで謎の骨格は明らかになるが、それでも謎は謎のままだ。その狐につままれた感じが心地よかった。音響効果や、影の使い方も、すばらしいの一言だった。

この作品が先取りして描いているように、今までのファンは一部離れるかもしれないけど、阿佐ヶ谷スパイダースにはこれからこの方向でがんばってほしい。

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構成、演出:三浦基/吉祥寺シアター/指定席3500円/★

出演:安部聡子、石田大、大庭祐介、窪田史恵、小林洋平、谷弘恵

今年はじめて、すなわち2010年代はじめての観劇。

わかりやすさが最優先される昨今の風潮にあらがうように独自の表現をとぎすませている京都を拠点とする劇団地点。今回は2007年に亡くなった日本演劇界の重鎮太田省吾のテキストをベースにしている。彼の戯曲や評論の一部の抜粋を俳優たちが奇妙な抑揚、身体の動きをつけながら、音楽を演奏するみたいに再現しているのだ。

今回はぼくのリテラシーの低さが痛感される舞台だった。彼らがやろうとしていることを一言でいえば「異化」ということになると思うんだけど、それを理解するには異化される前のオリジナルを知っておかなくてはいけない。題材とされた太田省吾についてぼくはほとんど何も知らなかった。そしてさらに、今回の異化の方法論についても、どういう文脈のもとにそこにたどりついたかを知らないので、それ自身として楽しむことができなかったのだ。上演中に一時意識を失ってしまった。10年以上演劇をみてきてはじめての経験だった。

『東京月光魔曲』

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作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/シアターコクーン/S席9500円/★★★

出演:瑛太、松雪泰子、橋本さとし、大倉孝二、犬山イヌコ、大鷹明良、長谷川朝晴、西原亜希、林和義、伊藤蘭、山崎一、ユースケ・サンタマリア、長田奈麻、赤堀雅秋、市川訓睦、吉本菜穂子、植木夏十、岩井秀人、長谷川寧、桜乃まうこ、蔦村緒里江、森加織、吉沢響子、渡邊夏樹

個人的にいろいろ最上級の形容詞がつく舞台だった。今年最後。最上階の最後尾でおそらく今年一番舞台から離れた座席。にも関わらず最前列でかぶりつきの人と同じ料金なのは納得できない今年最高額のチケット。残念ながら今年最高というわけではなかったが、年の最後を飾るにふさわしい楽しくて華やかな作品だった。

関東大震災の傷跡がいえたばかりの昭和初期の帝都東京。恋人同士のような姉弟、連続しておきた猟奇殺人の謎を追う探偵、戦争で誤って味方を殺してしまった元将校、田舎から東京に憧れて上京してきた兄弟など、それぞれの秘密と欲望を抱えた人々による、エログロサスペンスブラックコメディーだ。休憩をはさんで3時間30分の大作だったが、ほとんどゆるみやすきがなく、緊張感たっぷりに仕上げられていた。

役者では大鷹明良さんが特にすばらしい。この人の語りを何時間でもきいていたくなる。

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作・演出:岩松了/本多劇場/指定席6800円/★★

出演:麻生久美子、ARATA、三宅弘城、荒川良々、市川実和子、松重豊、カリン山田、サイラス・望・セスナ、アンドリュー・ウォールナー

『グレート・ギャツビー』を下敷きに、1920年代大恐慌前夜、ニューヨークの日本人社会に舞台を移し、今は不幸な結婚生活を送る女性と、彼女への愛憎入り交じった思いを断ち切れない青年実業家の関係に焦点をあてた作品。

岩松了独特の、自分自身、人から見えている自分の姿、それを見る自分......という無限の鏡像を映し出すような、台詞回しはそのままに、ウェルメイドに仕上げられたメロドラマだった。ある意味文句の付けようがない作品だが、高度にウェルメイドになった岩松了作品は新劇と区別がつかない、という言葉が脳裏に浮かんだりもした。あと、もう少しコメディーリリーフが多くてもよかったかなとも思う。

席が遠くて、表情が確認できなかったのが残念だが、初舞台の麻生久美子とARATAはどちらも好演だったと思う。

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作・演出:松井周/東京芸術劇場小ホール1/自由席3500円/★★

出演:古舘寛治、石橋志保、田中佑弥、深谷由梨香、芝博文、辻美奈子(ヴィデオ出演)、古屋隆太、奥田洋平、渡辺香奈、善積元、山崎ルキノ、羽場睦子

上下二つにわかれた世界。上の世界の墓が下の世界のつながっているところをみると、下の世界は死後の世界かと思わせる。そもそも「あの人の世界」を略せば「あの世」だ。でも、上下で会話もできるし行き来もできるし、だんだんわからなくなってくる。

上の世界にはペットの犬を亡くして悲しみにふける仲の悪い夫婦がいるだけで、ほとんどの出来事は下の世界で起きる。自分の名前も目的も忘れてさまよい歩く若い男、ミュージカルを通して革命をおこそうと企てる動物の扮装をしたダンサーたちUFA、彼らを統率するホームレスドクターという人物。彼らにあこがれて仲間になろうとする若い女性キク、行方不明者のビラをくばる男、たがいを首輪をひもでつないで束縛しながら彼らの夫であり息子である男性をさがす嫁と姑、という奇妙な人物たちが交錯してゆく。

サンプルの芝居は、まず社会学とか文化人類学なんかに基づくアイディアがあって、それをちょうど現実の出来事を夢がそうするように、変形・歪曲していってできあがるような気がする。個人的には、その変形前のものがみえたときは、心底楽しめるんだけど、そうでないときは狐につままれたような気分になってしまう。今回は残念ながら後者だった。もちろん、狐につままれることも、それはそれで楽しい経験には違いないが。

乞局『汚い月』

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作・演出:下西啓正/笹塚ファクトリー/自由席3000円/★

出演:佐藤祐香、村上聡一、伊東沙保、西尾佳織、浅井浩介、佐藤幾優、石田潤一郎、墨井鯨子、岩本えり、三橋良平、井上裕朗、下西啓正

はじめての乞局(コツボネ)、はじめての笹塚ファクトリー。

飛行場近くの6階建てのマンション。飛行機の経路が変わって昼間はときおりものすごい轟音が鳴り響くようになった。それにあわせて大声で叫びストレス解消する女たち。主人公はそこに住む若夫婦。ある日、夫が通勤の電車の中で突然死して内臓や角膜を臓器提供されてしまう。死の前後の時間をいきつ戻りつしながら、空港へ抗議するための怪しげな署名活動、夫のその後輩の女性との奇妙な関係、夫の死の謎を探ろうとする妻、臓器移植を受けた人との出会い。そして衝撃的なラストへ。

こうやって書いてみると、そういう芝居をみたくなってしまうが、ぼくがみたのはなんかちがう芝居だった。下西啓正はたぶん観客を不快にさせようとしていて、それこそがエンターテインメントだと思っている。ぼくもそのことは薄々知った上で臨んだのだが、その不快さが肩すかしだったのだ。

まず、ストーリーを構成するひとつひとつのエピソードはなかなか面白いんだけど、その間のつなぎが弱い。サスペンス的に盛り上げるだけ盛り上げておいて、結局どれもあいまいなまま終わっているのだ。

もちろんあいまいな恐怖をあおりたてる不条理劇としての方向性もありだが、今回はそれ以前にセリフが不自然すぎた。人はそれぞれの関係性の中で言葉を発するはずなのに、ちょっとありえないような言葉遣いをする。たとえば、ほとんど初対面の人の前で唐突に切れたり、しかもそれがみなヤンキー的な切れ方だったりするのだ。それは、日本人だったらとか、ちゃんとした社会人ならこうだろうという単なる習慣と異なることの違和感ではなく、もっと普遍的な、各人物がその場にいる内的な理由が欠けていることからくる違和感のような気がした。どういう目的をもってその場に来ているのかがはっきりしないから、それに応じた発言ができないのだ。だから単なるオウム返し的な応答と、突然のぶち切れの間を行き来するしかなくなってしまったような気がする。

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作・演出:前田司郎/東京芸術劇場小ホール1/自由席2500円/★★★

出演:飯田一期、石澤彩美、久保亜津子、佐藤誠、島田桃依、菅原直樹、瀬尾遠子、飛谷映里、野津あおい、桝野浩一、前田司郎

続編というわけではないが、『生きてるものはいないのか』のラストで、人が全員死んでしまった後のようなシーンからはじまる。ふと人が一人起き上がる。キリスト教でいう時間の終わりみたいに死者がよみがえる話かと思ったが、そうではなく、役者が舞台から退場するときに後ずさる動きから、まるでフィルムを巻き戻すみたいに時間が逆行していることがわかる。

そうやって時間を遡ることにより、ばらばらに死んでいる死体だったものが、生きていたときには人間としてつながりあっていて、そのつながりがこわれた玩具を修理する時みたいに復元されてゆく。もちろん時間を正方向にみてしまうと数時間後には死ぬことが運命づけられているわけだが、そういううがった(だって舞台上の時間の流れとは逆なわけだだから)見方を吹き飛ばすほどに、それぞれのつながりが暖かでおかしくていい。

役者では歌人の桝野浩一さんがとぼけたいい味を出していて、好演。はじめての舞台とは思えない。

『生きてるものはいないのか』も同時公演中。

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作・演出:柴幸男/三鷹市芸術文化センター星のホール/自由席2500円/★★★★

出演:青木宏幸、大柿友哉、黒岩三佳、斎藤淳子、永井秀樹、中島佳子、端田新菜、三浦俊輔

リーフレットの言葉を借りると、「地球が生まれてから死ぬまでの100億年。人間が生まれてから死ぬまでの100年。団地に住む一家をモチーフに、ある女の子の一生と星の一生を重ね合わせて描く。」

作、演出の柴幸男自身が演奏するミニマルでアンビエントな音楽にのせて、言葉が浮遊する。50億年後の視点からこの地球という星を悼む底抜けにハッピーでとことんノスタルジックなレクイエムだ。ラスト近くで自転車が飛び込んできたときはほんとうに奇跡が起きたような気持ちになった。この場に居合わせられたことがほんとうに幸運に感じられるような舞台だった。音楽もすばらしかった。

青年団は、劇団としてもすばらしいが、こういう希有な才能を育てて、世に送り出すシステムとして、比類ないと思う。今ほんとうに青年団出身の若手たちの芝居が面白い。

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作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/下北沢本多劇場/指定席6800円/★★★★

出演:三宅弘城、村岡希美、植木夏十、長田奈麻、廣川三憲、新谷真弓、安澤千草、藤田秀世、皆戸麻衣、喜安浩平、吉増裕士、杉山薫、眼鏡太郎、廻飛雄、柚木幹斗、猪岐英人、水野顕子、菊地明香、白石遥、野部友視、田村健太郎、斉木茉奈、田仲祐希、伊与顕二、森田完、中村靖日、横町慶子

ケラリーノ・サンドロヴィッチがカフカをメインモチーフとしてとりあげるのはこれで2回目。1度目はカフカの半生を描いたが、今回はカフカが遺した3つの長編小説(といってもそのうちの2つは未完だが)『審判』、『城』、『失踪者』の主人公たちが、小説の世界から逃げ出して「世田谷」という架空の町にやってくるという物語を主軸に、その内外でさまざまなスラプスティックなエピソードがからみあってくる。

最近のナイロンはウェルメイドな芝居が増えてきて、それはそれで嫌いじゃなかったが、この作品では久しぶりにナイロン本来のスラプスティックな笑いとラジカルな実験精神が復活。大いに楽しませてもらった。

特に、幕開きからオープニングのダンスまでの展開のシュールさは、鳥肌がたつほどすばらしかった。

ハイバイ『て』

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作・演出:岩井秀人/東京芸術劇場小ホール1/自由席3300円/★★

出演:猪股俊明、菅原永二、吉田亮、青山麻紀子、金子岳憲、上田遥、永井若葉、町田水城、平原テツ、大塚秀記、堀口辰平、用松亮

ハイバイ2回目にして劇団名の由来を知る。「ハイハイ」から「バイバイ」まで。つまり揺りかごから墓場までみたいなニュアンスらしい。

前回ハイバイを観たとき、ベタッとした(漢字で書くと「土着的」とでもいうべきか)感性を感じて、ぼくらの世代はいかにベタッとしたものから逃れるかというのが至上命題だったけど、若い世代はそういう縛りからもう自由になっていて、うんぬんかんぬんということかと思ったが、そうではなく代表の岩井秀人の生まれ育った環境が要因として大きいようだ。前回も今回も男性が女装をしておばさんの役を演じているが、それがとてもよくはまっている。ベタッとしているというよりおばさん的というべきだったようだ。

今回は、岩井秀人の自伝的な作品。父親の不条理な暴力が原因でバラバラになってしまった家族の、祖母の死をはさんだ前後の時間の流れを、カート・ヴォネガットの『スローターハウス5』的に、シャッフルしてみせている。ただ、それが作劇上大きな効果をあげているという感じでもなくて、むしろアドホックなところが魅力だったりする。

父親と子供たちの口論の噛みあわなさや、母親が妙な比喩で語る、父親が暴力をふるわなくなってもある種の雰囲気で威圧しようとしているという、(比喩に即していえば)男根主義的なところなどが、かなりリアルに感じられた。岩井秀人のおばさん指向は、その男根主義から逃れるためだったのだ。

一枚ペラのリーフレットにあった言葉。「皆さんの家族はどんなですかね。陰惨ですかー!」。陰惨ですよー!身につまされる。

『ネジと紙幣』

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作・演出:倉持裕/天王洲銀河劇場/A席6000円/★★★

出演:森山未來、ともさかりえ、田口浩正、根岸季衣、長谷川朝晴、江口のり子、細見大輔、野間口徹、満島ひかり、小林高鹿、近藤智行、吉川純広

近松門左衛門の『女殺油地獄』を下敷きに、舞台を江戸時代の油屋から現代の町工場に移した作品。一見何一つ不自由のない幸せそうな主婦が、幼い頃から目をかけてきた向かいの店の放蕩息子に殺されるというストーリーだ。

原作でどうかはわからないけど、今回の演出では、母性本能とほのかな恋愛感情のいりまじった気持ちを想像力を広げてその中で満たそうとするような、自由な心を持った女に対し、男は「経済」の論理に縛られているように描かれている。女をとられそうになったから形式的にその分相手の男を痛めつけなくてはならないとか、気まぐれに100万円を要求されたら、律儀に殺人を犯してまでその額を調達するとか、徹頭徹尾損得勘定の原理に忠実に行動しているのだ。しかも、それはリアルな損得とは無縁で彼の中でしか通用しない子供じみたものだ。彼は、世の中のルールとちがうルールで生きている。だから、彼はずっと失敗し続けるのだ。

森山未來は、そんな男の表面上のつっぱりと実質的な弱さをしなやかに演じていて、将来有望だと思った。

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作・演出:野田秀樹/東京芸術劇場小ホール1/指定席6500円/★★★★

出演:大竹しのぶ、渡辺いっけい、北村有起哉、野田秀樹

一年近く前にロンドンで活躍する俳優たち+野田秀樹により英語、日本語字幕付きで上演されたロンドンバージョンをみていたが、なんだかんだぼくの拙い英語力だと字幕に頼るしかなく、その字幕もかなりのんびりとした大意を要約するような感じのものだったので、ディテイルをちゃんと味わうことができたか心許なかった。そうでなくても、現代と古典の間をいききする日本が舞台の物語で、日本人の名前をもつ役を、イギリス人の俳優が英語で演じることに、むずがゆさのようなものを感じなかったといえば嘘になる。ということで、機会があれば日本語でみておきたかった。あとなんといっても大竹しのぶの演技を間近で見たかった。

ロンドンバージョンで主役のユミを演じた Kathryn Hunter の身体表現能力はすごいと思ったけど、やっぱり大竹しのぶに日本語で語りかけられると、もっと直接的に心が動かされる。鳥肌がたつほどぞくぞくするシーンがあった。

あと、ラストシーンで大きな気づきがあった。ここは海底が舞台で無言で演じられるので、言葉が原因だったわけじゃないのだが、前回は、幻想的で美しいなと思っている間によくわからないまま終わってしまった。今回は......いや、はずかしいことに最終的には500円で買ったパンフレットに掲載されていた大江健三郎と野田秀樹の対談で、はっきりとその意味を知ったのだった(ぼくは昔から画像から意味を読み取ることが苦手で、漫画をあまり読まないのもそのせいだ)。実はそこがわからないと、海底に沈んだ宝物をとりかえす海人のエピソードが物語の流れから浮いたままで、『ザ・ダイバー』(=海人)というタイトルがついた理由すらピンとこなくなってしまう。非常に重要なミッシングリンクだったのだ。おそまきながら、ようやくこの作品を理解できた気がする。

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作・演出:本谷有希子/下北沢本多劇場/指定席5800円/★★★

出演:りょう、佐津川愛美、松永玲子、羽鳥名美子、吉本菜穂子、木野花

自衛隊をやめて山間の小さな食品工場を経営する家に嫁いできたヨウコ。結婚後一ヶ月で夫は失踪し、さまざまなやっかいごとを押しつけられる。彼女は自分が身代わりにされたことを悟るが、それでも逃げることを潔しとせず、むしろその逆境を乗り切ることによって自分を向上させようとする......。

そんな彼女と対比的に描かれるのが、切れまくって究極的な自己本位を貫こうとする兄嫁チヅコ。チヅコに比べるとヨウコの生き方はとても窮屈で息苦しいもののように思える。でも、彼女には自分以外の誰かの承認が必要で、そのために自分を向上させていかなくてはいけないと思っているのだ。途中まで、彼女は自分をどんどん出口のない行き止まりに向かって追い込んでいくように見えるんだけど、最後に針の穴ほどの穴から向こう側に抜け出すことができる。自分との戦いに勝利するのだ。それは客観的には全然勝利じゃないけど、でも不思議に爽快感と希望を感じるラストだった。

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作・演出:倉持裕/下北沢本多劇場/指定席4700円/★★★

出演:鈴木砂羽、小林高鹿、近藤智行、玉置孝匡、吉川純広、ぼくもとさきこ、谷川昭一朗

このところコントが続いたが、久々のストレートな演劇。

幕開き早々のカーチェイスのシーンに瞠目。映画ではお定まりのシーンだけど舞台上でははじめてみた。演劇というメディアは、制約があるからこそ、それを逆手にとっていろいろ面白いことができるのだ。

釣り上げたタコの体内から30年前に行方不明になった少女の書いた手紙が出てきた。なぜか逃げる釣り人を追いかける少女の弟たち。事故った彼らがたどりついたのは、とある旧家で、そこには姉と弟二人の三人姉弟が暮らしていた......。

シュールなシチュエーションだが、安易な不条理や突発的な暴力[そう。銃が登場したとしても、必ずしもそれで血が流される必要はないのだ]に逃げることなく、リアルな情感とユーモアをちりばめて、見事にまとめた舞台だった。特に鈴木砂羽さんがすばらしかった。

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作・演出:池田鉄洋/下北沢本多劇場/指定席4500円/★★

出演:佐藤真弓、いけだしん、村上航、岩本靖輝、菅原永二、池田鉄洋、伊藤明賢、佐藤貴史、柳沢なな、佐藤雄一、中山祐一朗

ちょうど3ヶ月ぶり、4月のザ ワーストに続いての表現・さわやか。今回も、ほぼ新作はなく、これまでのコントの傑作集だ。前回とちがって、ぼくが見るようになってからのコントがほとんど。エロスダンス、山崎春のパン祭り、ファミレスの河童、モンドセレクションなどはほんとうに傑作で、また見ることができてよかった。

ただ、まだ記憶が鮮明すぎて、個人的には、ちょっとインパクトが弱く感じた、というのも事実。あと、中山祐一朗は器用な人なので、もう少し上手に使えたんじゃないかな。

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作・演出:村上大樹/吉祥寺シアター/指定席3500円/★★★

出演:加藤啓、千代田信一、伊藤修子、成田さほ子、山岸拓生、寺部智英、石川ユリコ、林屋聖子、溜口佑太朗、村上大樹 、町田カナ、建みさと

どうやら劇団というものは同じポジションに留まり続けることは不可能で、よりメジャーで一般受けする方向に進んで、チケットの値段を徐々につりあげてゆくしかないらしい。それができなければ、求心力が失われてしまうようなのだ。

拙者ムニエルも結成15周年ということだが、明らかに前者の方向には進んでない。前回公演から10ヶ月、間があき、次回の公演予定もちらしに記載されていなかったのは、まさに求心力の低下を示しているのだろう。

だが、今回の公演はかなりおもしろかった。3話からなるオムニバス。

第1話。35歳にもなって演劇の夢を追いかけている男と、その夢をサポートするためにパートで家計を支える妻、そして子供の3人家族のもとに見ず知らずの老女が3億円をあげるといってくるが、妻は妙なプライドからそれを拒否する。

第2話。ロト6で2億円あてた男。彼は銀行から、元銀行員の人の心がよめるATMロボットミズホ君を与えられる。

そして第3話。道に落ちていた毒入りアンパンを食べたせいで、余命1週間を宣告された男。彼の最後の夢----演劇の舞台に立つこと----をかなえるため仲間たちを含めて準備を進めるが......。

笑いのパワーはぜんぜん落ちてない。またみたい。