演劇ノート: 1998年アーカイブ

作・演出:岩松了/下北沢本多劇場/指4000円/★★★★

出演:竹中直人、樋口可南子、串田和美、李丹、尾美としのり、川津春、岩松了

この日ぼくは熱があって(帰宅してはかったら38℃)、ひどい寒気がしたのだが、重い体をひきずって、なんとか劇場にたどりついた。シートに体を埋めるようにして、夢見心地で舞台を見つめた。死んだ弟の妻(樋口可南子)に恋する男(竹中直人)の物語。こういった話では、たいてい結ばれずにおわるものなのだが、今回は思いが遂げられる。男がその喜びを長兄(串田和美)と分かち合うシーンがとてもいい。しかし、最後に待っているのは悲劇だ。響き渡る拳銃の音が、病んだぼくの体を震わせた。警官役の尾美としのりがとてもよかった。

作・演出:松尾スズキ/世田谷パブリックシアター/指4300円/無星

出演:片桐はいり、綾田俊樹、阿部サダヲ、銀粉蝶、宍戸美和公、伊勢志摩、宮藤官九郎、美加理、皆川猿時、山本密、松尾スズキ、犬山犬子、池津祥子、猫背椿、村杉蝉之介、斎藤拓、今井廷明、木村卓矢、新谷眞木、福田陽一、青砥美香、井内美和子、石原雅子、伊藤尚美、小笠原章洋、小川富美子、川勝京子、斉藤久実子、佐々木大介、釋文江、白石高大、鈴木朗之、田村るみ、東−ひとみ、戸田光栄、鳥海愛子、中田葉子、野添征爾、萩尾麻由、林岳人、樋口徳子、深澤麻子、本谷有希子、レシャードマユ

まず一言文句をいわなければならないのが、ぼくのすぐそばで舞台を撮影していたカメラマンだ。インカムのボリュームを何でそんなにあげる必要があるんだ。耳元で絶えず、蚊の飛ぶような音が聞こえるので不快この上なかった。内容も、何というか、ぼくのスタイルではない。汚いものをさらに汚く見せようとしたり、醜いものをさらに醜く描いたり。ストーリーの流れがよくできているのは認めるが、こういうのは生理的にだめだ。この日を境にぼくはひどい風邪をひき、長い闘病生活に入った。

作・構成・演出:大倉孝二,ブルースカイ,峯村リエ,村岡希美/フジタヴァンテ/自2900円/★★★

出演:大倉孝二、ブルースカイ、峯村リエ、村岡希美、入江雅人

この年はナイロンが絶好調で二ヶ月に一度くらいの割合で楽しませてくれたのだった。これなんかもケラがまったくからんでいない舞台だったのだが、十分過ぎるほどおもしろかった。でも、なぜか観たことを忘れていて、5年後くらいのこれを書いている今になって急に存在を思い出したりしている。

青年団『ソウル市民』

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作・演出:平田オリザ/シアタートラム/指3500円/★★

出演:志賀廣太郎、山村崇子、山内健司、松井周、辻美奈子、望月志津子、坂本和彦、兵藤公美、山田秀香、安田まり子、川隅奈保子、大塚洋、安部聡子、太田宏、木埼友紀子、足立誠、田村みずほ、神原直美

日本による併合前夜のソウル。日本人の裕福な商家篠崎家が舞台。朝鮮人の使用人に対してはかれる何気ない言葉の中にひそむ差別感情がありありと伝わってくる。そんな姿は醜さを通り越して滑稽でもあるのだが。

作:松田正隆、演出:平田オリザ/青山円形劇場/指3500円/★★★★

出演:金替康博、藤谷みき、幹ジュンコ、占部房子、大塚洋、伊藤季久男、松井周、山村崇子

長崎が舞台で、せりふはほとんど長崎弁。造船所が倒産して失業し、妻に去られた男が主人公。そこに、妹が、自分の娘(主人公にとっては姪)を預けにやってくる。傾きかけた町の傾きかけた人間たちが、自分ではどうしようもできずに、じりじりと少しずつ砂の中に沈んでいくような物語だ。「…行くならもっと遠いとこ、もっと、ぜんぜん、誰も知らないところ。」という最後のせりふが鮮烈に響く。

作:ギュンター・アイヒ、作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/青山円形劇場/指4000円/★★★★

出演:みのすけ、峯村リエ、大倉孝二、小林高鹿、山下千景、石丸だいこ、内田紳一郎、植本潤、長田奈麻、澤田由紀子、新谷真弓、安沢千草、戸波咲恵、かないまりこ、大山鎬則、市川英実

ナンセンスな笑いで有名なナイロンが、笑いは一回休みと宣言した、恐怖、不安、死がテーマの舞台。全6編からなるオムニバス。うち3編がドイツの放送劇作家ギュンター・アイヒの作品で、残り3編がケラさんのオリジナル。どの作品もすばらしかった。カフカの作品を髣髴とさせるような不条理な世界。そのものずばりの「オドラデク」という生き物まで登場した。

原作:大田省吾、構成・演出:平田オリザ/湘南台文化センター市民シアター/自3000円/★★

出演:辻美奈子、角舘玲奈、平田陽子、佳梯かこ、秋山文子、小林智、佐藤朋史、佐藤誓、古舘昌彦、篠塚祥司

藤沢の湘南台。このときは相鉄線や横浜市営地下鉄が延びる直前だったので、東海道線で藤沢まで行った。原作太田省吾となっているが、設定や着想を借りたまでで、実質平田オリザの作品といってもいいようだ。時々朽ちた建材が降ってくるような荒れ果てたアパートの住人たち。その中の一室には小町と呼ばれる独身女性たちが集団で住んでいる。それぞれ目当ての女性のためにその部屋を訪れる男たち。百日通いつづければ添い遂げられるらしい。もちろん、そうなればその小町は部屋を出て行く。でも、なかなかそうはならないという話。

作・演出:宮沢章夫/青山円形劇場/指4000円/★

出演:原金太郎、温水洋一、松竹生、山西惇、モロ師岡

生徒が体育の授業で出払っている教室で持ち物検査をしようとする男性教師5人の話。正しいことをこそこそした態度でしなければならないというシチュエーション設定なのだが、ぼくは、持ち物検査ということから管理教育という方に結びつけてしまって、本来のテーマが浮かび上がってこなかった。これは完全にぼくの失敗。そのボタンのかけちがいが最後まで尾を引いてしまった。神戸の酒鬼薔薇の事件も一つのテーマになっているのだが、今ひとつピンとこない。最後の教師の一人が刺されるシーンも、なぜそうなるのかという必然性が理解できなかった。

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/紀伊国屋ホール/指4000円/★★★★

出演:犬山犬子、今江冬子、峯村リエ、松永玲子

初ナイロン。南欧の架空の島で女性4人が繰り広げるサスペンスコメディー。小気味いいほどブラックで、ピリリとした毒が、夏のせいでかすんだ頭を刺激する。笑いの質も高いが、深みもある。ケラさんはこの作品で岸田戯曲賞をとった。

構成:宮沢章夫/フジタヴァンテ/自3800円/★

出演:小浜正寛、松竹生、加藤直美、井苅智幸、金子真一郎、倉澤愛、近藤和義、鈴木深雪、砂川仁成、柴垣裕保、杉山文雄、高木珠里、成田さほ子、根本史紀、本多真弓、藤塚卓実、松井吉徳、山内奈央

会場全体に、いろいろな展示物や、イベントをばらまいて、観客が主体的に観て歩くというスタイルをとった、演劇とも、展覧会ともつかない斬新な試み。同時に複数箇所でイベントが発生したりするので、一度で全てを経験することは不可能になっている。アイデアは面白いし、処理の仕方もかっこいい。ぼくは、あたふたしている間に終わってしまった感じがする。

『虹を渡る女』

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作・演出:岩松了/新国立劇場小劇場/A5250円/★★★

出演:岸田今日子、佐藤B作、小須田康人、松本紀保、山口美弥子、小田豊、八代朝子、原正治、千葉哲也、吉添文子

仕事のせいでチケットを無駄にし、2回分料金を払った。20も歳を偽って結婚した妻(岸田今日子)と、その嘘を知りながら、その嘘を含めて女を愛した夫(佐藤B作)。妻の死後、夫の回想という形で、物語は進められる。遠い昔に別れた息子の出現を機に妻の精神は平衡を失っていく。そういう不安定な女性の心を描かせたら、岩松了の右にでるものはいない。

作・演出:宮沢章夫/下北沢本多劇場/指4000円/★★★

出演:中島陽典、正名僕蔵、笠木泉、宗ひさこ、佐藤沙恵、小沢直樹、小林令、朴本早紀子、鈴木雅子、澤田育子、赤刎泰子、関寛之、堀内信吾

ガレージセールをしている三人姉妹と近所のちょっとおかしな人々の織り成す物語。笑えるけどコメディーじゃない。パラレルワールドだけどSFじゃない。ひたすらスタイリッシュでシュールでポップな世界。

作・演出:平田オリザ/ザ・スズナリ/自3500円/★★★

出演:足立誠、安部聡子、松田弘子、小河原康二、山村崇子、和田江理子、小林智、平田陽子、辻美奈子、松井周、坂本和彦、志賀廣太郎、山内健司、天明留理子、秋山建一、木崎友紀子、永井秀樹、山田秀香、月村丹生、角舘玲奈、兵藤公美、田村みずほ、川隅奈保子

21世紀初頭、ヨーロッパで戦争が起こり、フェルメールの絵が何枚か避難してきている、そんな美術館が舞台。久しぶりに会う兄弟たち―親の老後の面倒が問題になっている。わけありの元家庭教師と教え子。PKFに志願する男、見送る女。といった様々な人間模様が、静けさと抑制の中に描かれる。客席に背中を向けて話したり、同時に複数の人間が話しだすのが、新鮮だった。外に出たらまた雨が降っていた。

作・演出:岩松了/ザ・スズナリ/指3500円/★★★★

出演:中込佐和子、戸田昌宏、坂井貴子、沢木みな、玉置考匡

初めて劇場で観た芝居。きわめて日常的な空間の中で、どこか詩的な潤いを含んだせりふが語られる。しかも自分のすぐ目の前、唾が飛んできそうなほど近くだ。特に舞台で何かが起こるわけではなく、語られる言葉の中にその断片があらわれる。想像力がフル動員させられる。すごい。これが芝居なんだと思った。どこか心が壊れている妹と、頑なな兄の兄妹二人が住むアパートが舞台。「スターマン」というとSFかと思ってしまうが、話の流れにはあまり関係ない。兄が「スターマン」という芝居の音響を担当しているということくらいか。舞台の上では外で雨が降っているという設定だったが、劇場を出るとほんとうに雨が降っていた。