演劇ノート: 2004年アーカイブ

作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ、松尾スズキ、宮沢章夫、演出:竹中直人/下北沢本多劇場/指6300円/2004-12-28 19:00/★

出演:竹中直人、木村佳乃、石川真希、緋田康人、坂田聡、大堀こういち、矢沢幸治、井口昇、佐藤康恵、(演奏)MEN'S 5

二年に一回の竹中直人の舞台は決まって12月28日に見ることになっている。今回から岩松了とのコンビを解消し、竹中直人自身が演出をするということで期待していたのだが、耳に入る前評判は芳しくなかった。甘い期待をもたず軽い気持ちでいくことにした。

結局、芝居ではなく歌と笑いの脱力系コントショーだった。竹中直人は「これ」をやりたかったのだろう。それなりに笑うことはできたし、そういう意味では文句のつけようはないと思う。もともと竹中直人の描く世界というのは、凡俗な笑いと隠し味的なフェティシズム、そこに何ともいえないせつないセンチメンタリズムが同居しているところがよいのだ。今回も佐藤康恵のバレーのシーンはよかったと思う。

でも、岩松了とのコンビが復活しないかと、ちょっと思ったりする。

作、演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/紀伊国屋ホール/指5800円/2004-12-18 19:00/★★★★

出演:みのすけ、大倉孝二、犬山イヌコ、三宅弘城、松永玲子、八嶋智人、(声)池谷のぶえ

仲の良さそうな兄弟が二人でクリスマスの飾付けをしている季節感ぴったりの日常的なシーンからはじまる。でも、蛇口をひねってでてくる水はおそろしくまずくて人間の歯が入っていたりするし、夜空を見上げれば月は二つある。最終戦争から数年後の近未来が舞台なのだ。おまけに、弟は実は精巧に出来たアンドロイドで、定期的に記憶をメンテナンスされている。

SF的な設定が物語に奥行きとすごみを与えている。主役のみのすけ、大倉孝二もすばらしい。感服。ナイロンの舞台でこれだけすばらしいのは、最初にみた『フローズンビーチ』以来かもしれない。

作、演出:赤堀雅秋/シアタートップス/指3200円/2004-12-10 19:30/★★

出演:赤堀雅秋、野中孝光、日比大介、児玉貴志、多門優、滝沢恵、岩堀美紀、黒田大輔

病院の屋上。院長の息子兄弟が患者向けに売春宿を営んでいる横で、妻に原因不明の自殺をされた医師が晴れの日が続くのが妻の呪いではないかと思っていて、雨乞いの儀式をしていたりする。これもまた閉塞的な状況だが、場面が屋外に設定されているためかいつもより明るめだ。

赤堀雅秋という人の作品は、閉塞的な状況があってそれが最後に開かれるというパターンのものが多いが(というかほとんどだ)、この作品でもそのパターンがいつもより見事に決まっていた。ところが決まり過ぎとでもいうか、伏線のはりかたが透けてみえてしまった。もう少しわかりにくい芝居をつくってほしいというのは、贅沢な願いかもしれないが・・・・・・。

作、演出:村上大樹/下北沢本多劇場/指3500円/2004-11-20 19:00/★★

出演:加藤啓、成田さほ子、市川訓睦、澤田育子、千代田信一、今林久弥、寺部智英、山岸拓生、石川ユリコ、伊藤修子、村上大樹

人里離れた山奥の一軒家を購入して住むことになる若い夫婦。吸い寄せられるようにその家集まる人々のまわりで次々と起きる怪奇現象?

ストーリーそっちのけで繰り広げられるシュールなコントが拙者ムニエルの持ち味だったのだけど、寺部智英といういつもテラベという役ばかり演じている役者に別の役名が与えられていることからわかるように、今回は忠実にストーリーを追っている。タイムスリップをからめてウェルメイドに仕上げたとてもよくできたストーリーで、それには文句なく拍手を送りたい。だが、その分笑いはこじんまりしてしまった。加藤啓はいつものように執拗にぼけないし、村上大樹も突っ込みをしない。たぶん結成十年ということで新たな方向性を見いだそうとしていて、今回それは成功したといっていいと思うのだけど、どうしてももったいなさを感じてしまう。

『天の煙』

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作:松田正隆、演出:平田オリザ/富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ/指定席3000円/2004-10-29 19:00/★★

出演:秋葉由麻、内田淳子、佐藤誓、松井周、増田理、山本裕子、吉江麻樹

劇場は宮殿のようにきれいだったが、富士見市は遠い。それでも駅前ならいいが駅からが遠いのだ。

松田正隆はどうしてしまったのだろう。前回のこのコンビの作品『雲母坂』もそうだったが、これを書いた人がふつうに社会的生活を営んでいることが不思議に思えてしまう。という言葉はいい意味にも悪い意味にも使えるが、今回はちょうど中間くらいの意味で使っている。

「西の西町」という一日中日が沈まない町。母親が死に盲目の姉が残され、そこに東京に出ていた妹夫婦が戻ってくる。というとふつうの家族劇のようだが、この姉というのは父親が死んで以来成長を止めていることになっているし、妹の夫は靴屋になることを強制されるし、彼が作る靴の皮にはふたなりの病人の背中が使われることになっている。おまけに、昔妹がやんごとなき人からの求婚をことわったことからこの町と家の没落がはじまったという事実が明らかにされ、その償いのために処刑されそうになる。というグロテスクな世界の中に観念的なせりふが飛び交う(火葬のときに地上から天にのぼる煙と、天から地上に落ちてくる雷の対比はすばらしいが)。それでも、ついていけなるということはなく、きちんと補助線をひいて興味をつなぎとめる演出が光っていたと思う。ただ、ラストシーンは視覚的にはとても衝撃的だが、ジャンプするには幅が広すぎて向こう岸にたどりつけなかった。衝撃を衝撃として受けとめればいいといわれればそれまでだが。

このところの松田正隆の作品は、動物的なエログロのイメージと神学的な観念という両極端ばかりで、その中間の人間的な詩が見あたらない気がする。

作・演出:倉持裕/三鷹市芸術文化センター/指定席2800円/2004-10-22 19:00/★★★★

出演:玉置孝匡、ぼくもとさきこ、伊藤留奈、児玉貴志、松竹生、関絵里子、白石幸子、岸潤一郎、小浜正寛、日比大介、内田慈、高山のえみ、長田奈麻、中野博文、谷川昭一朗、太田緑・ロランス、戸田昌宏、杉森雅也、佐藤銀平、あんじ、SAKEROCK(浜野謙太、星野源、田中馨、伊藤大地)

ハードボイルドの探偵もの。探偵というのは、腕力でも推理力でもなく、野卑と詩情がいりまじった言葉の力を使って事件を解決に導くのだ。そのことを教えてくれたのはフィリップ・マーロウだったけど、これはその直系の子孫といっていいような作品だ。

美しい女が探偵に依頼を持ち込み、探偵は彼女に恋をする......。ほとんど普遍的といっていいようなパターンが繰り返されるが、パターンとパターンの間のつなぎが見事だし、笑いもさえている。探偵の言葉のパワーも強烈だ。

ストーリーにほころびがないわけではないが、それを補ってあまりあるすばらしさ。生演奏の音楽もよかった。

原作:舞城王太郎、脚本:倉持裕、演出:河原雅彦/シアターサンモール/指定席4800円/2004-10-16 19:00/★★★

出演:水橋研二、持田真樹、伊藤高史、カリカ家城、新井友香、東虎之丞、木村靖司、石川浩司

バット男というのはバットマンとは縁もゆかりもないホームレス(アパートに住んでいたらしいので正確にはちがうのだが)の男のことで、いつも護身用にバットを持ち歩いているのだが、いざとなるとバットをふるうことができず、逆に襲ってくる少年たちにとりあげられて、たたかれている。なんか象徴的な話だが、バット男自身はこの物語の主役ではなく単なる狂言回しだ。

主役は大学を卒業して間もない会社員林。共にクラスメートである大賀祐介と梶原亜紗子二人のあやうい関係を見守りつつも、彼自身は何もすることができず、逆に巻き込まれることにいらついてしまう。彼はまた、バット男が少年たちに立ち向かう日がくるのを心の中で願いつつも、いためつけられるのをただ眺めている。もっとももうバット男はこの世にいないのだ。彼を殺した犯人はまだつかまっておらず凶器のバットは行方不明のままだ......。

脚本もすばらしいが、それ以上に演出がよかった。2chの書き込み風にバット男の人となりを紹介したり、逆光の使い方もいい。最後の数十本のバットの落下シーンには鳥肌がたった。今のところ今年観た中では最高の芝居だ。

作・演出:千葉雅子/ザ・スズナリ/指定席3300円/2004-09-25 18:00/★★★

出演:中谷竜、依田朋子、中村まこと、いけだしん、市川しんぺー、池田鉄洋、森田ガンツ、佐藤真弓、岩本靖輝、村上航、菅原永二、千葉雅子

猫ニャーが解散したので、演劇界で「猫」といえばこの猫のホテルだけを指すようになった。

いきなり、北島三郎の楽屋から話がはじまって、どんな展開になるのかと思っていたら、その場ではほとんど目立たなかった若い男女が職を転々としながらバブリーだった80年代から90年代にかけての世の中を渡っていくというストーリーだった。はじめの北島三郎の紅白辞退騒ぎは1986年。最後の場面はそれから10年後だ。

猫のホテルは音楽でいうと一昔前の歌謡曲が似合うようなどちらかといえばべたな話が多いのだけれど、ひとつひとつのセリフの的確さがすごい。ありきたりのセリフでなく、その場でそのセリフがいわれることの意味がすっかり計算し尽くされている感じがするのだ。もちろん、それはひとりひとりの役者の力量にささえられていて、ここが同じ猫でもランクがちがうよと思ってしまうところだ。

作・演出:ブルースカイ/中野ウエストエンドスタジオ/自由席3300円/2004-09-18 19:00/★★

出演:池谷のぶえ、立本恭子、乙井順、細川洋平、小澤敏彦、荒井タカシ、久保貫太郎、藻田るりこ、高木康寿、ブルースカイ

猫ニャーは、いろいろ不満はあったものの、ずっと見続けてきた劇団だった。それが結成十周年にあたる今年をもって解散してしまうという。これはその最終公演だ。

宇宙人の姉弟が、つぶれかけた遊園地を経営する家族のもとにやってきてうんぬんというストーリーには、何のおもしろみもないが、ブルースカイのおもしろさはストーリーの外に飛び出るところにある。そして飛び出たところにあったものを強引に中に引き入れてストーリーを攪拌するのだ。今回は「宅麻伸」がそれだった。

劇場も場末だし、てっきりブルースカイは演劇への情熱を失ってしまったのかと思っていた。だが、劇場の環境は悪かったものの、新しい試みがいくつかあって今後も芝居を続けていくという意欲のみえた舞台だった。それがよかった。

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/下北沢本多劇場/指定席5500円/2004-09-04 19:00/★★★

出演:みのすけ、安澤千草、新谷真弓、植木夏十、京晋佑、松永玲子、廣川三憲、村岡希美、すほうれいこ、小沢真珠、長谷川朝晴、喜安浩平、杉山薫、長田奈麻、皆戸麻衣、藤田秀世、大山鎬則、廻飛雄、吉増裕士、眼鏡太郎、佐藤竜之慎、袖木幹斗、横町慶子、池田明結未、山田絵美子、佐藤奈々子、曽我桃代

今回のテーマはずばりセックス。エロティシズムというよりは、艶笑譚的なお笑いにサスペンスがからむような展開だ。ある中年サラリーマンとその家族、悪徳警官とその恋人の女優、相手の財布から金を抜き取る遊び人の若い男、知的障害のある美しい娘を囲う会社の重役とその家族という複数の物語が関連し合いながら、予定調和的なエンディングを迎える。性の裏側にあるのは死なので、それは当然のように死と関係している。

三時間以上の長い上演時間を感じさせなかった。ロマンチカのエロティックなダンスもよかった。

作:倉持裕、演出:世田谷ジェッツ/OFF・OFFシアター/自由席3000円/2004-07-18 19:30/★★

出演:戸田昌宏、谷川昭一郎、関優勝、富士タクヤ、倉持裕、(声:季美善)

成功した俳優が取材の準備のため下積み時代を過ごした海沿いの安アパートをたずねる。だが彼はその場所の記憶をほとんどなくしていることに気がつく。おまけに壁には妙なスピーカーがとりつけられていて、ときおり女性の声で「サイクロンが近づいています」というアナウンスが入る......。

倉持裕の戯曲の特徴は不条理なシチュエーションで、それが最後に解決することもあるし、不条理なまま観客に投げ出されることもある。岸田戯曲賞をとった『ワンマンショー』では不条理ならではの論理で見事に整合性がとられていたけど、それ以降は投げ出すパターンばかりだった。今回はうってかわって日常世界の論理で整合性がとられている。わかりやすくて楽しい芝居だったけど、ちょっと物足りなさが残る。特に、真相が明らかになったあと、わざわざ野口がもどってきて、それを確認させる必要はなかったのではないかと思う。そのままなら阿部の存在が想像力の中で大きく広がることができたのに、確認されたことによって卑小な存在に戻ってしまった。

作・演出:村上大樹/青山円形劇場/指定席3500円/2004-07-17 19:00/★★★

出演:加藤啓、澤田育子、千代田信一、市川訓睦、成田さほ子、伊藤修子、山岸拓生、寺部智英、石川ユリコ、村上大樹、小出伸也

前回つまらなかったので今回も心配していたが見事復活。いつも通り、メインとなるストーリーはそっちのけでショートコントをつなげるスタイルだが、盲目の演出家のエピソードには腹をかかえて笑い転げた。客演の小出伸也が前身から汗を噴き出し声をからして演じていたが、とてもよかった。ストーリーの進みが遅くてだれるところもあるが、帳消しだ。

作・演出:政岡泰志/下北沢駅前劇場/自由席3000円/2004-07-10 19:00/★

出演:小林健一、辻修、森戸宏明、高橋拓自、伊藤美穂、鬼頭真也、多田淳之介、石川明子、松下幸史、石崎和也、芹澤セリコ、盛島仁、坪内有子、中村まど加、森山夕子、馬場太郎、政岡泰志

うだつのあがらないベーシストの主人公が妻に逃げられ赤ん坊をかかえて、故郷ですごした少年時代を回想するというストーリー。動物電気ではストーリーやシチュエーションはおまけのようなものだけど、今回は特に平板でおまけ感が強かった。型どおりでいいので、もう少しめりはりがあった方がいいと思う。動物電気の特長といっていい動物的感覚でくりだされるギャグも今回は密度が低かった。

作・演出:平田オリザ/駒場アゴラ劇場/指定席3500円/2004-07-03 19:00/★★★

出演:山内健司、ひらたよーこ、松田弘子、足立誠、山村崇子、永井秀樹、辻美奈子、秋山建一、川隅奈保子、端田新菜、福士史麻、古屋隆太

怒濤の演劇月間7月の第一弾。高村光太郎・智恵子夫妻の生涯に題材をとりつつ、史実は無視して、永井荷風や宮沢賢治など自由に登場人物をちりばめた作品だ。平田オリザの作品は、通常一幕一場で、舞台上の時間と実時間が一致しているのだけど、この作品は約十年ほど間隔があいた四場から構成されている。といっても、幕間などはなく、移り変わりは連続的だ。登場人物たちも外見はまったく歳をとらない。精神の病、死、戦争などさまざまな出来事がおきても、笑いとともに「暗愚」な人々の日常は変わらず続いてゆく。

いつにもましておかしみのある作品だった。おまけに、笛の音をきれいに出すには下唇をつきだして力をいれればいいという豆知識まで教えてもらった。今度試してみよう。

作・演出:赤堀雅秋/ザ・スズナリ/指定席3000円/2004-06-19 19:00/★★

出演:日比大介、児玉貴志、多門優、野中孝光、黒田大輔、滝沢恵、赤堀雅秋

場末の街の肉屋が舞台。母親が死んで、テレビの脚本家になった兄が15年ぶりに帰ってくる。それを迎える弟は、今や完全な肉屋のおやじになっている。今回はこの状況がほとんどすべてでいつものTHE SHAMPOO HAT以上にストーリーらしいストーリーはない。会話はいつものように「えっ?」という強い疑問句に遮られてほとんど成立しない。

謎の男が踊るダンスや「猫のおしっこはどうしてあんなにくさいのか」などひとつひとつのエピソードはとてもいいのだれど、全体的にまとまりに欠けていたかもしれない。ただ、アルバイトの池田さん役を演じた児玉貴志はとてもよかった。すごい存在感だ。

山盛りの餃子を食べるシーンでは、実際においが漂ってくるので、しばらく餃子が食べたくなくなってしまった。

作・演出:倉持裕/ザ・スズナリ/自由席3000円/2004-04-10 19:00/★★

出演:小林高鹿、ぼくもとさきこ、玉置孝匡、松竹生、笠木泉、水谷菜穂子、山本大介

すべての家を壊して新たにすべて作り直そうとしている町が舞台。そこに越してきた「勲章」受賞者夫妻は、新居の準備ができる間、公民館に仮住まいをさせられている。夫が申し込まれたという決闘、病気で入院中の子供、妻の心臓病、夫婦のために家を奪い取られた女性、謎のリフォームセールマン、中心にたって破壊と建設を進める男、彼の愛人の看護婦。

それぞれの場面はこれまで以上に演劇的ですばらしいのだけど、各エピソードが最終的にばらばらのままで統合されていないような気がした。謎がなにひとつ解決しないのはありだと思うけど、それならそれで、そんなことがささいに思えるくらいの劇的なクライマックスがほしかった。

よかった探し。松竹生さん、最前列のベンチシート。

作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ、脚色・演出:千葉雅子/本多劇場/指定席4000円/2004-03-27 19:00/★★★

出演:長田奈麻、森田ガンツ、市川しんぺー、小林健一、佐藤真弓、辻修、高木珠里、村上航、いけだしん、岩本靖輝、菅原永二、伊藤修子、植木夏十、柚木幹斗、千葉雅子

ウチソバに続いてシリーウォークプロデュースによるナイロンの旧作再演の第二弾。オリジナルをみたことがないのでわからないが、たぶんかなり忠実だったのではないかと思われる。

フリドニアという海沿いの町を舞台にした幻想的なブラックコメディ。その町には、海から薔薇の匂いが漂うと、神が訪れ、数日後また同じ匂いがしたときに帰ってゆくという伝説がある。ただし、神が訪れているといわれる間に起きるのは、毎回血なまぐさい事件なのだった。

この作品の続編というか、同じようにフリドニアという町を舞台にした『薔薇と大砲~フリドニア日記#2~』は詰め込みすぎという印象だったのだけど、今回はセリフの端々にほとばしるケラの才気というものが感じられた。

ラスト間際でわざわざ回想という形で時間をさかのぼらせてまで見せているできごとが、見せるほどもないような気がして、だれるのがちょっと欠点だが、それ以外は役者を含めてすばらしかった。

作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ、脚色・演出:ブルースカイ/ザ・スズナリ/指定席3800円/2004-03-19 19:00/★★

出演:藤田秀世、喜安浩平、正名僕蔵、荒井タカシ、大山鎬則、廣川三憲、小村裕次郎、千代田信一、乙井順、村上寿子、三谷智子、立本恭子、渡辺道子

「ウチハソバヤジャナイ」はナイロン100℃の前身「健康」の傑作として語り継がれている作品だ。ぼくが芝居を見始めたのは1998年からなので、当然みたことはない。今回演劇弁当猫ニャー(2004年9月で解散するそうだ)のブルースカイが演出をするというので、見にいったわけだが、かなりブルースカイ独自の脚色が入っているようで、たぶんオリジナルとはまったく別の作品になっていたのではないかと思う。

全体的にいかにもブルースカイらしい笑いがちりばめられていたが、今回は、その中でもべたな笑いが多かったし、特に演出面で、こうしておけば笑うだろうというような安易な計算が目についた気がする。その計算にまんまとひっかかって、ぼくもそれなりに笑ったのだが。

そういう笑いの合間につい思い描いてしまうのが、オリジナルの作品で、国民のほとんどが人工脳を移植するという設定が、『攻殻機動隊』を彷彿とさせるし、アルジャーノンという登場人物の名前がダニエル・キースの作品からとられているところなど、なかなか奥深そうで、脳内にあるその作品の方が今眼前に展開されている舞台より、はるかに面白そうな感じがしてしまった。

作:倉持裕、演出:G2/新宿サザンシアター/指定席4500円/2004-03-05 19:00/★★★

出演:松尾貴史、山内圭哉、松永玲子、小林高鹿、秋本奈緒美

基地の平面図倉持裕の岸田戯曲賞受賞後第一作。直前にチケットを申し込んだので最後列の端という究極の席になってしまった。だが、観劇歴6年にしてはじめてきたサザンシアターはなかなかいい劇場で、それでも見にくいということはなかった。

ガルガルという国にある地下深くえぐられた穴の底に調査に訪れた一行。だが、肝心の学者たちはどういうわけかいったん引き返してしまい、調査基地に残されたのは日本人五人、ガルガル語の通訳、医師、ノンフィクションライター、カメラマン、もとから基地に居住している案内人、そして来るときにヘリのハシゴから転落して、負傷したガルガル人の学者。通訳の言葉は通じているのかいないのかまったくわからず、医師はまわりの人間の病名を診断していき、ジャーナリストは書いている様子がないのに紙ばかり要求し、カメラマンは憑かれたように奇妙な生物の写真を撮り続け、骨折して歩けないはずのガルガル人は他人の部屋に徘徊する......。

異世界にいって人間が変容していくというのは『惑星ソラリス』みたいだなと思った。倉持裕の本ではいつも時間と空間のトポロジカルなもつれが特徴だけど、今回も部屋の幾何学的な形状がひとつのキーになっている。ロビーからそれぞれ面した部屋にはいけて、隣り合う部屋同士も行き来可能だけど、ロビー同士は部屋を経由するか、ハシゴで上にあがってまたさがらなければ往来できない。昔平面幾何学の問題を解こうとしたときの心地よいめまいを思い出してしまった。ちょっと流れが単調なのが玉に瑕だけど、そういう知的なしかけがうまいなと感じた。

作・演出:赤堀雅秋/ザ・スズナリ/指定席3000円/2004-02-07 20:00/★★

出演:なすび、小池竹見、児玉信夫、玉置孝匡、菅原永二、ぼくもとさきこ

THE SHAMPOO HATの旧作を改編して、THE SHAMPOO HATメンバー自ら演じるバージョン(ザ・シャンプーバージョン)、外部からの客演バージョン(ザ・コンディショナーバージョン)の2バージョンでお届けしようという企画。手堅さからいえば、シャンプーバージョンなのだが、赤堀雅秋がTHE SHAMPOO HAT以外の役者にどんな演出をつけるのかというところに興味をひかれて、ザ・コンディショナーバージョンの方をみたのだった。玉置孝匡、ぼくもとさきこなどふだんよくみる役者に加えて、なすびが出ている。

本題に入る前に、THE SHAMPOO HATの作品を何作かみてきて、いくつか気づくことがあったのでそれについて書こう。

まずはセリフまわし。青年団が現代口語演劇といっているけど、あれは教養ある若者の言葉で、むしろ赤堀雅秋の書くセリフの中に、年収300万円時代の今のリアルな言葉を感じなくもない。それは決して相手に届くことはなく、何度なげかけても「エッ?」と疑問符がかえってくるだけで、最後は「ああ」と意志の疎通に失敗したことだけを了解しあうのだ。

次に、唐突に「超越的なもの」が描かれること。赤堀雅秋の作品の登場人物はほとんど静かな絶望(居心地の悪さといってもいい)の生活を送っていて、それは永遠に続きそうに思われるんだけど、思ってもいなかった場面でかすかにその日常が裂けて、はるか上を見上げる視線がうまれる。

あと、「飛び降りる」場面がとにかく頻出すること。高いところから飛び降りて、傷だらけになって戻ってくるシーンがこれまで何度も描かれている。

さて、ようやく今回の芝居。人気のない元旦の街、警察の独身寮の屋上が舞台。そこを都おずれて、洗濯物を干したり、とりこんだり、背中を床にこすりつけたり、「わたしが神です」と付近に向けて演説をしたり、演説を通行人を監禁したりする若い警官たちの姿......。

今までの作品に比べるとライトで、その分「超越的なもの」も必要とされないし、恒例の飛び降りも同工異曲であまりインパクトがないのが少し残念だった。

作・演出:浅野晋康/渋谷ギャラリー ル・デコ/自由席2000円/2004-01-16 19:30/★★

出演:笠木泉、高山玲子、持山優美、井苅智幸、足立智充、柳沢茂樹、関寛之、いせゆみこ、佐伯新

2000円というとようやく名前が知れてきたかなというレベルの劇団の価格帯だが、出演者は遊園地再生事業団の宮沢さんの芝居で活躍している人たちという、お得感にひかれて観にいくことにした。作・演出の浅野という人も2003年1月の『トーキョー・ボディー』で映像を担当していた人だ。

会場は芝居のためのものではなくギャラリー用なので、舞台というのはなく、同じ平面上であるところから先が劇の空間というようになっている(正確には「台」はないけど「舞」(ダンスシーン)はあった)。おそらく、こういう場所にしたので、チケット代を安く設定できているのだと思う。

浅野という人は宮沢さんのかなり忠実なフォロワーといっていいと思う。単にスタイルをまねただけでなく、エッセンスがちゃんと受け継がれている。観客の想像力を信頼しているセリフまわしもいいし、エピソードも盛りだくさんで、タイミングも緊張感をそがないように計算されている。

湖のほとりの街に住む、元超能力少年、今はスプーン曲げができるだけのダメ男という兄、教師の姉、バイトと男にあけくれる妹、進路の決まらない大学生の弟の4人兄弟が中心人物。昔家を出た父親の義理の娘だという女性がドキュメンタリー映画を撮らせてくださいといってたずねてきたり、姉の勤める学校で130人の生徒が忽然と行方不明になったという過去の出来事が浮かび上がってきたり、そのたった二人の生還者のうち一人の死体が湖で発見されたりと、さまざまな出来事がふりかかってくる。そんな中、家を売るという話がもちあがり...。

ストーリーがめまぐるしく展開して楽しいのだが、風呂敷を広げすぎて、若干焦点がぼけたような気がしないでもない。うまくはまればとてもすばらしい作品ができるのはまちがいないと思うので、今後の期待大だ。