演劇ノート: 2006年アーカイブ

野田地図『ロープ』

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作・演出:野田秀樹/シアターコクーン/S席9500円/★★★

出演:宮沢りえ、藤原竜也、渡辺えり子、橋本じゅん、宇梶剛士、三宅弘城、松村武、中村まこと、明星真由美、明樂哲典、AKIRA、野田秀樹、(梅原晶太、岡慶悟、奥山隆、亀岡孝洋、小島啓寿、沢井正棋、芹澤セリコ、多賀建祐、高木珠里、竹岡英征、野笹由紀子、萩原誠人、長谷部洋子、細川洋平、村上寿子)

言葉と言葉の音の類似性をいかしたセリフ回し、つまりはダジャレということだけど、ダジャレで人を感動させることができるのは、世の中広しといえど野田秀樹くらいだろう。今回は、日本語で時制を示すある言葉と、ある地名が共鳴する。ベトナム戦争で米軍による虐殺が行なわれた村だ。背景に浮かび上がっているリストが、そこで殺された人の名前と年齢だということに気がついて慄然とする。

あるマイナーなプロレス団体のリングの上、ロープの中で繰り広げる「戦い」から象徴的に戦争というものを描き出そうとした作品。善悪という構図を批判しながらも結局は善悪という観点からの告発になっていて、ちょっと単純化しすぎだなと思うところもあったけど、でも素直に心を動かされる舞台だった。虐殺の描写を演じるのでなく、あくまで言葉で冷徹に表現する演出、しかもそれを宮沢りえに語らせたところがなにより効果的だった。

『エンジョイ』

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作・演出:岡田利則/新国立劇場小劇場/指定4200円/★★★

出演:岩本えり、下西啓正、田中寿直、南波典子、松村翔子、村上聡一、山縣太一、山崎ルキノ、山中隆次郎

はじめて岡田利則の作品を観る人はちょっと面食らうかもしれない。ステージで繰り広げられているのはいわゆる「演劇」とは異質なパフォーマンスだ。ナチュラルな日常会話のようでありながら、どこかずれてゆく言葉、そして身振り手振りでもダンスでもない不思議な身体の動き。決して難解ではないんだけど、今自分がみているものが何なのか戸惑ってしまう。

でも、観ているうちにそれが妙に楽しいことに気がつく。この楽しさを観ていない人に説明するのは難しい。無理矢理挙げると、電車やカフェで会話に聞き耳をたてるときの楽しさ+現代美術などで新奇なものに触れたときの楽しさ+個人や社会のあり方について考えさせてくれる知的な楽しさ+ときおりはさみこまれるギャグの楽しさ(今回のヒットはフリーター三人組の頭文字をとったグループ名「みかか」)、という感じだろうか。

前回もそうだったけど、選ばれるテーマは社会と個人の関わり的なものだ。今回はフリーター。新宿の漫画喫茶でアルバイトをする男女やそのまわりの人々のかかえている不安や小さな喜びが、彼らの会話や独白、動作から浮かび上がってくる。その不安や喜びはとても孤独なもので、スクリーンに資料映像的に投影されるフランスのCPE(26歳未満の若者を雇用後2年以内なら、理由を明示せずに解雇することを認める制度)反対のデモと対比させることで、その孤独を引き立たせている。

第一幕で登場人物たちが、ちょうどぼくの座席から見えないコーナーにかたまっていたのは残念だった。

作・演出:平田オリザ/吉祥寺シアター/指定席3500円/★★★

出演:井上三奈子、福士史麻、松井周、荻野友里、山本雅幸、高橋智子、小林智、永井秀樹、森内美由紀、古舘寛治、河村竜也、古屋隆太、金旻緒、工藤倫子、鈴木智香子、長野海、渡辺香奈、山口ゆかり、大竹直、山本裕子、村田牧子、二反田幸平、橋田新菜、後藤麻美、堀夏子、志賀廣太郎(声)、申瑞季(声)

日本統治時代のソウルで文房具商を営む篠崎家の日常をアイロニーとユーモアを織り交ぜながら描いてきたシリーズの三作目。一応完結編らしい。一作目は1909年、二作目は1919年が舞台だったが、今回はさらに10年あとの1929年、昭和恐慌の時期が舞台になっている。

植民地経営が長期化し、現地生まれの日本人、支配層にとりたてられる朝鮮人が出てきて社会的に安定感が出てきた一方、不況は深刻で閉塞感がひろがっている。人々の目は「新天地」満州に向かっていた。篠崎家も例外でなく、今回の物語は、当主夫妻が満州視察で不在の中、その子供たちを中心に展開されている。

植民地主義の善悪をあげつらうのでなく、そこで暮らす人々の交わす言葉や立ち振るまいを通して、その実相が浮かび上がってくるのは今まで通りだが、今回は篠崎家の繁栄と没落を描く年代記的な要素を強く感じた。また、笑いの部分がパワーアップしていて、テーマと裏腹に大笑いできる芝居だった。

作・演出:池田鉄洋/駅前劇場/指3500円/★★

出演:佐藤真弓、いけだしん、村上航、岩本靖輝、菅原永二、池田鉄洋、伊藤明賢齋藤彩夏(声)

母体となっている劇団猫のホテルから昭和歌謡的ストーリーを取り除いてギャグの部分だけを濃縮したような舞台だった。

笑った、笑った。だが、腹の底からというにはあと腹の皮一枚の違和感があった。その一枚は何かが足りないというより、むしろ過剰さで、具体的には何度か出てきたビートたけしのまねをする幽霊はいらないのではないかと思う。

メガネをかけた河童たちの所作や話し方がとてもいい感じだった。そのエピソードの終わりで渡される贈り物もいい。

客演の伊藤明賢は一見不器用そうな二枚目なのだが、ためらいや照れ笑いなしでどんな場面でもぶれのない演技をして、なおかつおかしいという、なかなかいないタイプの役者だ。

作・演出:長塚圭史/本多劇場/指5500円/★★★

出演:内田滋、伊達暁、美保純、大堀こういち、村岡希美、長塚圭史、八嶋智人、劔持たまき、中山祐一朗、松浦和香子、玉置孝匡、水野顕子、大久保綾乃

地上は人が住めなくなったというたわいもない嘘にだまされ、17年間も地下で生活し続けたかつての少年、少女たち4人。外見はともかく中身は少年、少女のままの彼らは、地下でそれなりに楽しみを見つけながら生活している。いよいよ外に出られることになったとき、彼らが選んだのは……。

再演らしい。今回ストーリーは地上と地下で交互に進行するが、みていないので確かなことはわからないものの、初演では物語はほぼ地下で進行したのでないだろうか。確かに地上の場面があった方が物語の奥行きや整合性を増すとは思うが、地上のシーンがなければもっと地下の世界のリアリティーが感じられただろうと、ないものねだりをしたくなった。

暴力シーンが頻発するが、暴力によって物語が壊されてしまうことはない。ストーリーをたどればかなり暗い物語だが、そのあたりに人間性に対するかすかな信頼があって、一抹の明るさが感じ取れるのだった。

作・演出:宮沢章夫(監修:野村萬斎)/シアタートラム/指4000円(プレビュー公演)/★★

出演:上杉祥三、若松武史、中川安奈、下総源太朗、半田健人、上村聡、鈴木将一朗、田中夢

海外公演を成功裏に終えた「演出家」および俳優たちの一行がトランジットルームに足止めされる。そこで彼らは黒ずくめの服を着た謎の男に出会う。彼こそが「鵺」なのだ。タバコの煙の中から浮かび上がる過去の記憶、かつてあったという「新宿」という街とそこで上演された失われた劇の記憶だ。

能の謡曲『鵺』を現代のどこともしれぬ国の空港にあるトランジットルームで再現しようとした物語の骨格はほんとうにすばらしい。だが、その物語の中にうまく入り込めなかったぼくがいて、それは朝からほとんど腹に入れていなかったせいかもしれないけど、あえて舞台の方に原因を求めると、トランジットルームで語られる極端に記号化された言葉と唐突に挿入される劇中劇(清水邦夫の戯曲からの引用)の中の熱っぽい言葉との間に違和感というか異物感を感じたからかもしれない。鵺というよりキメラ的なつぎはぎ感を感じたのだ。

若松武史の演技というか、ただそこにいるだけでも存在感はやはりすごい。

THE SHAMPOO HAT『津田沼』

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作・演出:赤堀雅秋/ザ・スズナリ/指3300円/★★★

出演:日比大介、滝沢恵、黒田大輔、多門勝、野中隆光、福田鴨秀、岩堀美紀、大和貴、武田有史、児玉貴志、赤堀雅秋

結成10年だそうだ。

暴力とセックスに縁取られた10年前の痛々しい青春と、現在の落ちついた生活にただようかすかな不安を交錯させる。そんな圧迫感を追い払うように全編にちりばめられたコミックリリーフ。今回はこの笑いの部分が見事だった。そして、街から出て行ったもの、残ったもの、それぞれのゆるやかな現状肯定で幕を閉じる。最後はちょっと物足りなさが残るが、それは成功した劇団としての彼ら自身の現状肯定でもあるのだろう。

『アジアの女』

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作・演出:長塚圭史/新国立劇場小劇場/A5250円/★★★★

出演:岩松了、富田靖子、菅原永二、近藤芳正、峯村リエ

大地震が起きた直後の近未来の東京。廃墟に暮らす兄妹のもとに兄の昔の知り合いの作家一ノ瀬が訪ねてくる。地震をきっかけに精神の病から立ち直りつつある妹、恐怖にとらわれて酒におぼれる兄、自分の才能のなさに向き合うことができない一ノ瀬。

圧巻。重苦しいテーマだが、要所要所にコメディーリリーフがはさまれていて笑わせてくれたし、最初は欠点ばかり目についた登場人物たちに徐々に愛情がもてるようになってきた。ラストは予定調和すぎるきらいがないではないが、ちゃんと抑制がきいたすばらしいエンディングだった。俳優もみんな(なかでも岩松了と近藤芳正が)すばらしかった。

作・演出:村上大樹/シアタートップス/指3500円/★★★

出演:加藤啓、千代田信一、澤田育子、市川訓睦、伊藤修子、成田さほ子、山岸拓生、寺部智英、石川ユリコ、村上大樹、澤口佑樹、鈴木隆、田島慶太、林聖子、藤野健太郎、山下翔子

前回今ひとつだったし、この時期芝居がたてこんでいることもあり、ずるずるとチケットをとらないままきてしまったが、今回はおもしろいという話をきき、急遽観ることにしたのだった。

「コント」というと散漫になりがちだが、今回は奇跡的にどれもおもしろかった。脊髄反射的な笑いでなくかなりひねった笑いだ。ヤーサンファミリーの演ずるドラ○もんが特に秀逸だった。

宝船『坩堝』

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作・演出:新井友香/三鷹芸術文化センター星のホール/指2800円/★★

出演:千葉雅子、小村裕次郎、小林健一、加藤直美、辰巳智秋、加藤雅人、田中あつこ、富所浩一、新井友香、高木珠里、谷賢一、金子亮、石川ゆうや

宝船を観るのははじめて。知っている俳優が多く出演することと、三鷹というロケーションにひかれて観にいくことにした。

家族の崩壊と新たな誕生の物語。下世話な語り口だし、完成度は必ずしも高くないのだけど、いい意味で観客を裏切り続けるストーリー展開にしたたかさを感じた。悪くない。

高木珠里はこんなに熱い演技ができる人だとは知らなかった。

作:ウディ・アレン(訳:鈴木小百合)、演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/本多劇場/指5500円/★★★

出演:岡田義徳、高橋一生、広岡由里子、伊藤正之、町田マリー、渡辺いっけい

ニューヨーク、ブルックリンの貧しい家庭が舞台。若い女にいれあげ一攫千金を夢見ながら借金取りから逃げ回る父親マックス。学校をやめて部屋にひきこもり手品の練習ばかりしている長男ポール、悪い仲間とつるんで遊ぶスティーブ、そしてそんな一家をただひとり守ろうとする母親イーニッド。ウディ・アレンの映画作品も決して派手ではないが、舞台がアパートの一室に限定されることもあり、前半はかなり地味に進行する。

休憩をはさんで、渡辺いっけい演ずるジェリー・ウェクセラーの登場とともにそれが一変する。とにかく渡辺いっけいの演技がすばらしかった。人間的な魅力にあふれながら、自分の限界の中で生きざるをえない男の哀しさを全身で演じていた。彼が去った後にはもともと存在していた絶望がさらに色濃く、存在感を増してみえる。

ウディ・アレン独特の乾いたユーモアとほろ苦さをそのまま生かすオーソドックスな演出が成功していたと思う。岡田義徳もよかった。

作・演出:倉持裕/ザ・スズナリ/指3600円/★★★

出演:玉置孝匡、伊藤留奈、加藤啓、ぼくもとさきこ、小林高鹿、内田慈、山本大介、近藤智行、吉川純広、松竹生

「道子の調査」というと道子を調査するのと道子が調査するのと二通り考えられるが、今回は後者。道子は探偵社か何かの調査員で、6年前に行方不明になった女性代沢ナミコをさがすために海の近くのモーテルにやってくる。6年前に同じ仕事を手がけた道子の前任者砂恵もまた行方不明になっていた。道子は関係者にインタビューするが、誰もがナミコでなく砂恵のことばかりを話す。6年前と現在がオーバーラップしながら物語は進んでゆく……。

ラストの水着は唐突すぎて無理矢理終わらせた感があるが、それ以外は緊張感がとぎれないすばらしい舞台だった。特に、登場人物の個性や存在感が際だっている。台本だけでなく役者の力もあるんだろうな。

猫のホテル『電界』

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作・演出:千葉雅子/本多劇場/指4500円/★★

出演:中村まこと、森田ガンツ、市川しんぺー、佐藤真弓、池田鉄洋、村上航、いけだしん、岩本靖輝、菅原永二、千葉雅子、松重豊

今や中堅といっていい猫のホテルだが、意外なことに結成16年にしてはじめての本多劇場だったらしい。それで肩に力が入ったことでもないだろうが、今回は緊張感を欠いたシーンが多かった印象がある。

ローレル&ハーディを彷彿とさせるような凸凹コンビのちょっと複雑な友情を描いた作品なのだけど、その二人のシーンが少なすぎて、その友情にリアリティーを感じることができなかった。笑いも池鉄がヤクザの親分に扮したシーンだけは大笑いできたけど、それ以外は薄かった気がする。

ラストシーンや松重豊の存在感がすばらしかっただけにちょっと残念だ。

作:別役実、翻案、演出:武藤真弓/アトリエ春風舎/自2000円/★★★

出演:永井秀樹、安倍健太郎、村井まどか、田原礼子、後藤麻美、古舘寛治、工藤倫子、根上彩、熊谷知彦、山本裕子、三室友紀、高橋智子

ぼくがはじめてみた芝居は岩松了の作品だったけど、その前から別役実の戯曲は読んでいて、その独特の笑いのセンスや不条理な世界がお気に入りだった。いわば元祖演劇体験をさせてくれた劇作家だ。この『会議』もおそらく読んだことがあるはずだが、すっかり忘れていた(演出家がオリジナルの台本に手をいれているそうなのだが、どこがどうちがうかまったくわからない)。

研究者が、人間の「会議本能」の研究のため、空きスペースに人を呼び込んで自然発生的に会議がはじまるかどうかを実験しようとしている。つまり、主催者側の実験という「現実」の中に会議という「虚構」を立ち上げようとしていて、この2つのレベルはかっちり分離されているはずだった。ところが、高級ライターの紛失という問題が発生して、「現実」と「虚構」の間が干渉せざるを得なくなってしまう。

ここまでは笑い話だが、さらに会議の参加者の男性が自分の怪我の原因はこの会議の参加者の誰かに暴行されたからだと訴える。最初は妄想のようにみえるものの、リアリティが一気に高まって、ついには実験という「現実」の根拠さえもがすべて奪われてしまう(このあたりグレッグ・イーガンの『順列都市』のラストを思わせる)。突然のクライマックスのリズミカルな演出はすばらしい。

暗転のあと出来事の後始末をめぐって会議はなおも続く。これこそほんとうにリアルな会議だ。会議は続く中芝居は終わり、観客だけが退場を求められる。

最後に余談だが、別役実の戯曲が本屋で普通に入手できないのはこの国の演劇にとって大きな損失だと思う。

作・演出:村上大樹/吉祥寺シアター/指3800円/★

出演:建みさと、澤田育子、加藤啓、千代田信一、市川訓睦、伊藤修子、成田さほ子、石川ユリコ、山岸拓生、寺部智英、村上大樹、澤口佑樹、鈴木隆、田島慶太、林聖子、藤野健太郎、山下翔子

上演時間が長い分かなり散漫になってしまっていた。

いつもはストーリー二の次でギャグの連鎖で楽しませてくれるのだが、今回は猫のホテルばりにストーリーを見せようとした意図がうかがえ、女性二人の宿命的なライバル関係を描いた巨編だ。だが、登場人物が整理できてなくて役者が同じような役柄の複数の人物を演じているし、物語も詰め込みすぎて錯綜としている。肝心のギャグもいまひとつ密度が薄かった。

何度か挿入されるダンスシーンはそれ自体決して悪くないのだが、物語との整合性が感じられず、進行を妨げていたような気がした。開演前の趣向も、目新しいものの、観客を並ばせてまで見せるものかというと疑問が残る。客演の建みさとはがんばっていたので、もう少しいい役をやらせてあげたかった。

とつい小言好きのおやじみたいなことを書いてしまう。

作・演出:宮沢章夫/横浜赤レンガ倉庫1号館/指4200円/★★★

出演:小田豊、下総源太朗、高橋礼恵、岩崎正寛、鈴木将一朗、田中夢

横浜市鶴見区のバイク修理工場。初老を迎えた店主忠雄とその年若い妻真知子。真知子がそこにいるわけは彼ら以外の誰も知らないし、彼ら自身もまた違和感のようなものを感じている。忠雄はたったひとりの有能な従業員坂崎に真知子を誘惑してみてくれと頼んでいた…・・・。

このプロジェクトはウィリアム・シェイクスピアの失われた戯曲といわれる『カルデーニオ』がテーマになっていて、現存はしないものの元ネタがセルバンテスの『ドン・キホーテ』の中の一エピソードであることがわかっているので、おおよそのストーリーはうかがい知ることができる。そこで描かれている二つの三角関係が今回のこの物語にオーバーラップする。

さらに、そこにドン・キホーテの物語が浮かび上がる。ドン・キホーテは忠雄、忠臣サンチョ・パンサは坂崎だ。二人は北の地で開かれるカーニバルをめざして旅に出る。ある意味、この物語の主人公は坂崎で、夢の中に生きる忠雄とは正反対に、一切の夢を拒否するために旅にでたのかもしれない。帰りついたあと、彼の胸の中に生まれた感情は何だったのだろう。ちょうどチェーホフのワーニャが感じたようなやりきれない思いだったのだろうか。

作・演出:岩松了/新国立劇場小劇場/指5250円/★★★

出演:倉野章子、仲村トオル、伊藤歩、岩松了、早船聡

娘の車をまるでペットのように畳の部屋に置く女性と、彼女に車を売るために通ってくるセールスマン、その妹、隣家の男、介護ヘルパーの男の5人がおりなす奇妙な物語。

2組の近親相姦がからんでくるのだけど、物語の展開に困ると拳銃を使って登場人物を減らす手法と同様、近親相姦も禁じ手にしたほうがいいような気がする。

とはいえ、岩松了独特のセリフ回しは今回も異様にすばらしい。いつまでもそのセリフをきいていたくなるのだ。パンフレットのチェルフィッチュ主宰岡田利則と岩松了との対談で、岡田が、「岩松さんのは物語とかテーマに奉仕するセリフってないんですよ。その人物が、そういう都合のためにでなく、ただ人物自身の都合だけでしゃべっている」といっていたが、うまいこというなと思ったのだった。

倉野章子ははじめて見るけど、年齢を越えたコケティッシュさがある女性を演じていてとてもすばらしかった。仲村トオルはほんとうにダイコンだが、多分にそこに味のようなもの(味噌ダイコン?)があるのだろうと思う。

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/本多劇場/指5800円/★★★★

出演:みのすけ、犬山イヌコ、三宅弘城、大倉孝二、峯村リエ、廣川三憲、村岡希美、安澤千草、喜安浩平、植木夏十、眼鏡太郎、廻飛雄、馬淵英俚可、三上市朗、小松和重、市川しんぺー、山崎一

認知症の老人をめぐるホームドラマと、老人の奇妙な幻想の世界がオーバーラップする物語だ。

ナイロンをみはじめたのは『フローズンビーチ』以降なので、カラフリメリィはビデオでみたことがあるきりだ。しかもそのときの記憶もいい感じに薄れてきて、今が見頃という感じだった。実際、少し重たい感動ものという印象が残っていたのだが、生でみてとても軽快な芝居だということがわかった。

岸田戯曲賞をとった『フローズンビーチ』もいいが、やはりケラの最高傑作はこちらのカラフルメリィのような気がする。「祖父」がカラフルメリィと出会ったときのことを独白するシーンはとにかく美しく、すばらしい。そこだけ何度でもみたいくらいだ。

ただひとつ3時間という長さだけが玉に瑕で、外に出たら店はあらかた閉まっていて、開いているのは飲み屋ばかりだった。金曜日の終電近くの電車はつらい。

作:細川徹、丸二祐亮、平元建太、シティボーイズ、中村有志、いとうせいこう、演出:細川徹/池上本門寺/指7000円/★★★

出演:大竹まこと、きたろう、斉木しげる、中村有志、いとうせいこう、銀粉蝶

急な階段を息を切らして上り、広大で暗い境内をおずおずと進んでいくと、突然たむろする人影があらわれ、その向こうに夜空を切り裂くような白いテントがそびえているのが見えた。こんなところで芝居をみるのははじめてだが、もともと寺社は物見遊山の場所でもあり伝統に則しているといえるのかもしれない。

幕が開く前に「いきいき推進委員会」の委員長から挨拶があるというからネタの一部かと思ったら、僧衣をまとった本門寺の関係者の人で、殺伐とした世の中に潤いを与える活動をしていて、本門寺の境内を貸したのもその一環だというようなことをいっていた。ゲネプロから一日も欠かさず見ているという言葉の、「ゲネプロ」で笑いがおきる。

幕が開くと、崖上から下に転落している最中の5人が、なぜか時間がとまり、助かるための相談をしている。義手だったり、パニック症候群だったり、カマキリの卵を手に持っていたりして、絶望的な状況はいかんともしがたい。そうこうしているうちに時間が再び動く……。というコントを皮切りに次から次へとおなかをかかえて笑える珠玉のコントが続いた。いとうせいこうは6年ぶりの参加ということだが、シティボーイズに中村有志、いとうせいこうの二人が加わるとそれぞれの個性がひきたって俄然おもしろくなる。

アングラ芝居の一場面は、テント芝居という形態に対するオマージュなのだろう。この場面は開幕後すぐくらいのコントで、言葉で情景を説明されていたのだが、それを実際に目の当たりにして、妙な既視感やなつかしさを感じて、おもしろかった。

最後は再び崖のコント。毎日観ているといういきいき推進委員会の人が、この芝居には、ただ笑わせるだけでなく、いろいろな示唆やメッセージがあるといっていたが、この場面は特にそうで、生というのは地面に落ちるまでの一瞬の間のことで、落ちたらどうしようなんてことは考えるのはやめて、その一瞬を楽しまなくてはいけないのだ。

作・演出:赤堀雅秋/ザ・スズナリ/指3300円/★★

出演:野中隆光、大堀こういち、日比大介、いけだしん、星耕介、多門勝、黒田大輔、児玉貴志、赤堀雅秋、原金太郎

舞台右手のドアの上に前将軍様の金日成の写真が掲げられていて、中途半端な政治性を持ち込まれたら興ざめだなと思っていたが、そんなことはなく、ちゃんとラブ&ピースにまとめあげていた。

在日朝鮮人の兄弟が経営するはやらないパチンコ屋の事務所が舞台。さまざまな理由で入れ替わり立ち替わりあらわれる人々のバックに響く不器用なピアノの音色。それを奏でるのは事故で半身不随になった、兄弟の末の妹である。物語は一度も舞台に姿をあらわさない彼女を軸に展開する。

ラスト近くでピアノの音がやむ静寂がすばらしい。

客演の大堀こういち、原金太郎が好演だった。

作:千葉雅子、演出:池田成志/全労済ホール・スペースゼロ/指5000円/★★

出演:高田聖子、木野花、千葉雅子、伊勢志摩、池谷のぶえ、加藤啓、池田成志

女優の高田聖子がプロジュースしている月影十番勝負。はじめて見るが、今回が十番目でとりあえずの区切りとなるようだ。

人数比から予想できるように、女性陣が大活躍で二人の男性は脇にまわる展開。千葉雅子はりりしく、力強い女性の姿を描かせたらうまい。もちろんその中心にいたのはヒロインの波子を演ずる高田聖子で彼女の魅力が十分発揮されていた舞台だったと思う。

ただ、笑いの密度が若干薄かったことと、主人公をめぐる状況がかなり後半に入らないと明らかにならず単なるサイコキラーとしか見られなかったので途中まで感情移入が難しかったのが、玉に瑕の部分だ。後半のテンションが前半にあればもっとよかった。

innerchild『PANGEA』

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作・演出:小手伸也/青山円形劇場/指3200円/★★★

出演:真柄佳奈子、小手伸也、太田緑・ロランス、吉田晋一、土屋雄、杉浦理史、古澤龍児、町田カナ、菊岡理紗、伊藤修子、中谷千絵、宍倉靖二、富樫舞、狩野和馬、櫻井無樹、秋山ひとみ、三宅法仁、前田剛、石川カナエ(声)

2001年に上演した舞台の再演。

心理カウンセラーが目覚めてみると、自分の患者である多重人格の女性の心の中だったというところから物語ははじまる。そこはひとつの島であり、彼女のさまざまな人格たちが暮らしている。カウンセラーは治療のため人格たちの対話を試みるが、そこに彼の前任者のカウンセラーがあらわれる。

思わずひきこまれてしまう導入部だが、中盤はちょっとなかだるみだ。患者の女性の発病の原因をさぐる部分も妙に図式的でありきたりに思えた。

だが終盤はみごとに盛り返して、序盤の緊張感につなげた。すばらしいエンディングだと思う。

小出伸也の作品はセリフにいまひとつ力がないという人もいて、それはその通りだと思うけど、でも物語のアイデアがとにかく秀逸だ。今回も人格の分裂・統合を大陸の分裂・統合に比喩していて、PANGEAというのは3億年前ほとんどの大陸がひとつに統合された超大陸の名前だ。彼の本棚にはその手の本が積み上げてあるとみた。

『労働者M』

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作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/シアターコクーン/コクーンシート5000円/★★

出演:堤真一、小泉今日子、松尾スズキ、秋山菜津子、犬山イヌコ、田中哲司、明星真由美、貫地谷しほり、池田鉄洋、今奈良孝行、篠塚祥司、山崎一

今年はじめての芝居。芝居がどんなものだったかもう忘れそうになっていた。

思わず垂涎もののキャストだが、月曜日と日が悪いし、座席もコクーンシートで斜め上方から見下ろす形になり見切れる可能性がある(その分値段は安い)。さらに初日一週間前に台本が半分しかできていないなんて噂を耳にしたものだから、どうなることかと思ったが、ふたをあけてみればかなり楽しめた。

二つの物語が交互に展開する。

一つめははタイトル通りのストーリー。近未来とおぼしき過酷な世界にさらに土星人との戦争が起こり、破壊と荒廃が世界中を覆う。地球人類ははどうにか勝利をおさめるが、残ったのは過酷な労働と引き換えに名ばかりの食事と住居を提供する自主的な収容所だけだった。「市民運動」(というよりもっと過激な活動)のリーダーゼリグは、その収容所を破壊するために潜入するが、そこでかつて自分を活動に引き入れた女性と出会う。

もうひとつは、命の電話にかけてきた人に自殺を思いとどまらせると同時にねずみ講システムで高価な品物を購入させるという、人の役に立っているんだか、食い物にしているのかよくわからない会社が舞台(すべての職業は多かれ少なかれ両方の側面をもっているものだが)。そこで働く人たちはもともと命の電話にかけてきた人ばかりだ。何気ない日常の中に、ブラックで乾いた笑いと、所長は行方不明、所員の一人が最近自殺、という重い状況がはさみこまれる。『労働者M』に無理に結びつけるとすれば、現代のある特定の労働に従事する人たちの姿を描いていることと、登場人物の姓のイニシャルがMということだろうか。ちょっと無理矢理だ。

ふつう二つの物語が並行して進む場合、登場人物やエピソードに関連性があるか、最後に関連があることが明らかになるが、今回は舞台の上の役者、時間、空間を共有するだけでまったく交わらないままそれぞれ終わる。ある意味新機軸だが、第一のストーリーだけで物語を完結できなくなった苦心の果ての形というにおいが強く感じられもする。

とはいえ、休憩15分をはさんで3時間10分の長尺で途中ほとんどだれるシーンがなかったというのも希有なことで、ある意味その苦心は報われたのかもしれない。