演劇ノート: 2007年アーカイブ

野田地図『キル』

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野田地図『キル』

作・演出:野田秀樹/シアターコクーン/S席9500円/★★★★

出演:妻夫木聡、広末涼子、勝村政信、高田聖子、山田まりや、村岡希美、市川しんぺー、中山祐一朗、小林勝也、高橋恵子、野田秀樹

「キルことは生きること」。モンゴルの平原では、ファッションデザイナーたちが自分のデザインした「制服」を世に広めるため、血なまぐさい群雄割拠の争いを繰り広げていた。若きテムジンはブランド「蒼き狼」を率いてめきめきと頭角をあらわす。やがて、父から引き継いだ「自由」の型紙(=地図)の外側に「愛」の世界をみつけ、そこで彼は絹という素材と、シルクという女性にめぐりあう。彼は、シルクの心をつかむため、遊牧民の「流れる言葉」でなく、「留まる言葉」による「てがみ」を送り、二人の間には文通がはじまる。しかしゆきかう美しい言葉は、読み書きのできない彼らに代わって、テムジンの部下結髪が代筆、代読したものだった......。

舞台にあるのは「留まる言葉」でなく「流れる言葉」で、それもものすごい速度で流れてゆく。それに遅れないようについていっているうちにいつの間にかその流れの中に巻き込まれてしまった。ラストシーンがとにかくすばらしくて、ぼくはその瞬間だけ輪廻を信じた。

渡辺いっけいの結髪が見たいと思っていたけど、勝村政信の軽快でエネルギッシュな結髪もよかった。妻夫木聡も初舞台と思えないほど堂に入った熱演だった。

今年最後にみた今年最高の芝居だった。

ナイロン100℃『わが闇』

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/下北沢本多劇場/指定席6000円/★★★★

出演:犬山イヌコ、峯村リエ、坂井真紀、岡田義徳、大倉孝二、長谷川朝晴、三宅弘城、みのすけ、廣川三憲、松永玲子、長田奈麻、吉増裕士、喜安浩平、皆戸麻衣

ナイロンとしてはきわめて珍しいことにというかおそらくはじめてではないかと思うが、オーソドックスでウェルメイドな家庭劇だった。

田舎の古い家屋で育った三人姉妹。一家がここに越してきてから31年目の冬から春にかけての物語。母親は姉妹が子供の頃自ら命を絶ち、父親は今や病で寝たきりになっていた。長女立子は父親と同じく小説家で身をたて、次女艶子は嫁いで家を出たものの今は夫と共に実家に身を寄せている。三女類子も家を出て女優になっていたが、スキャンダルが原因で13年ぶりに家に帰ってくる。

何か新機軸があるわけではない。ひとつひとつ丁寧にエピソードを重ねて、笑いと叙情のタペストリーを作り上げている。演劇の醍醐味は、ストーリーの物珍しさじゃなく、リアルな強度をもった場面に目撃者として居合わせることにある、ということを思い出させてくれた舞台だった。特に三女類子役の坂井真紀はたとえようもなく素晴らしかった。

劇団、本谷有希子『偏路』

作・演出:本谷有希子/紀伊國屋ホール/指定席5000円/★★

出演:近藤芳正、馬渕英俚可、池谷のぶえ、加藤啓、江口のりこ、吉本菜穂子

女優になる夢を諦めて東京から故郷に帰ってこようとする28歳の女性。彼女は夢のために犠牲を強いてきた父親にそのことを切り出せないまま、昔苦手だったアットホームな雰囲気の親戚の家に一緒にやってくる。それで自分が田舎生活に順応できるかどうか確認しようというのだ。機会をとらえてようやく彼女が実家に帰る話を切り出すと、父親はそれなら自分が代わりに東京に出て行くという......。

『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』と若干似ているシチュエーションだが、今回は破天荒な父娘の関係を中心にしたホームドラマに仕立てている。一度とてもまとまりのいい感じで終わらせるチャンスがあったのにそうしなかったのは、本谷有希子のこのテーマに対する思い入れのせいかもしれない。永久に続くどうどうめぐりのような葛藤。それが若干完成度をそいでいるような気もしたのだけど、でもそれこそが彼女にとってのリアリティなのだろう。

『死ぬまでの短い時間』

作・演出:岩松了/ベニサン・ピット/指定席7500円/★★

出演:北村一輝、秋山菜津子、田中圭、古澤裕介、内田慈

音楽劇というふれこみでバンドの生演奏がついていたのだけど、どうにも好きになれない音楽で、音楽で舞台上の流れが中断することを含めてそれがなければどんなにかよかっただろうと思わせることしきりだった。

自殺志願者をうってつけの死に場所の崖まで運ぶことで世間から非難を浴びているタクシー運転手、殺人を犯して東京から逃げてきた女、運転手のファン気取りの若い男、ダンサーの若い女、彼女にしつこくつきまとう男。この5人が絡み合う、一種の不条理劇だ。ここでは生と死は紙一重で自分がどちら側にいるのかはっきりとわからない。それを確かめるかのように言葉を投げ合うが、それをきくのが生者なのか死者なのかもまたわからない。岩松了らしい、いいセリフ回しがいくつもあったので、なおさら音楽の邪魔がうらめしかった。

表現・さわやか『ポエム』

作・演出:池田鉄洋/下北沢駅前劇場/指定席3500円/★★

出演:佐藤貴史、柳沢なな、岩本靖輝、佐藤真弓、いけだしん、村上航、池田鉄洋

前回は受けるシーンの合間にだれるシーンがはさまっていたが今回はだれるシーンの合間に受けるシーンがはさまっている感じだった。客演の佐藤貴史のしゃべりにはエネルギーを感じたので、もう少し活躍するシーンを増やした方がよかった気がするし、池鉄も今回ちょっとおとなしめだった。代わりに長井大はあんなに何度もひっぱらなくていいと思う。

五反田団+演劇計画2007『生きてるものはいないのか』

作・演出:前田司郎/こまばアゴラ劇場/自由席2000円/★★★

出演:浅井浩介、上田展壽、大山雄史、尾方宣久、岡嶋秀昭、駒田大輔、鈴木正悟、立蔵葉子、長沼久美子、新田あけみ、野津あおい、肥田知浩、深見七菜子、松田裕一郎、宮部純子、用松亮、森岡望、中村真生

開演前にパンフレットをみて死がテーマというから、死をめぐって展開される静かで日常的な物語を想像していたら、とにかく死、死、死、原因不明の病気か何かで人々が次々に死んでいき舞台が死体(もちろん正確には死体を演じている役者)で埋め尽くされるかなり壮絶な話だった。

そこにはヒロイズムもヒューマニズムもなく、かなりリアルに死が描き出されていた。人々が死の直前に望むのはただ看取ってくれる人の存在なのだ。

今まで書いてきたことからだと重苦しい舞台のようだけど、そんなことは全然なく、全編笑いにあふれていて、シリアスな不安感のコメディーリリーフになってくれたが、不安感はラストでピークに達する。芝居が終わり、明かりがついて死体が起き上がったときには、ちょっとほっとした。

ペンギンプルペイルパイルズ『ゆらめき』

作・演出:倉持裕/吉祥寺シアター/指定席3800円/★★★

出演:坂井真紀、戸田昌宏、玉置孝匡、ぼくもとさきこ、吉川純広、小林高鹿、近藤智行、内田慈

女性調査員が行く不明者の探索のために訪れたモーテル、熱狂的なカーニバルの真っ最中の辺境の国、地下の坑道など、いつもは非日常的なシチュエーションが多いが、今回は倦怠期をむかえた夫婦の日常が舞台だ。とはいえ、夫婦関係というものはそれ自体謎を含んだものらしく、いつもと変わらずミステリアスな作品だった。

妻が若い男性からつきあっている人はいるかと訊かれ、つきあっている人はいないけど夫がいますと答えた。それをきいた夫は、その若い男と会ってみたいという。若い男は友人を伴って夫婦の家を訪れる。

若い男江尻の友人朝比奈は、日常を壊そうとするトリックスターとしてふるまう。だが、そんな朝比奈の先回りをする形で日常はもうとっくの昔に壊れていて、夫婦はそれぞれの幻想をかかえながら、それを通してお互いを見ようとしているのだった。

倉持裕の緻密なセリフまわしは日常的な場面の方がはえるような気がした。

『犯さん哉』

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『犯さん哉』

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/パルコ劇場/指定席8500円/★★

出演:古田新太、中越典子、犬山イヌコ、姜暢雄、大倉孝二、八十田勇一、入江雅人、山西惇

純粋におもしろくて楽しめたのだが、ちょっと悔しい気がする。

「古田新太」という小説家志望の男の少年時代から老年までの挫折に満ちた人生を、スラプスティックに描く(ちなみにヒロイン(?)の役名も「中越典子」そのままで、そこからして手抜き感があふれている)。

途中からストーリーはどうでもよくなってしまったし(そのこと自体は必ずしも悪いことではなく、それをネタにしてしまうところはかえって笑えたが)、終盤は反射神経的な笑いに逃げ込んでしまっていた。たぶん、ケラリーノ・サンドロヴィッチの経験とセンスをもってすればこれくらいのレベルのものは簡単に作れるのだと思う。その安易さと、それでも十分おもしろいところが悔しい。

THE SHAMPOO HAT『その夜の侍』

作・演出:赤堀雅秋/ザ・スズナリ/指定席3500円/★★★

出演:赤堀雅秋、野中隆光、多門勝、梨木智香、児玉貴志、黒田大輔、滝沢恵、吉牟田眞奈、日比大介

三年前のひき逃げ事件。妻を亡くした男中村の静かな絶望に満ちた生活と、轢いた男木島の無軌道な生活が交互に描かれる。木島の元にはしばらく前から「おまえを殺して俺も死ぬ」という脅迫状が舞い込んでいる。

実は脅迫状を出したのは中村ではないのではないかといううがった考えははずれで、やはり中村なのだけど、彼はおそらく忘れてしまうのが怖かったのだと思う。それでプリンを食べ続けたり留守録の声を再生したりしていたのだけど、それだけではどうしようもなくなったのだ。

すべてが終わって、彼は声を消去し、プリンを食べる代わりに頭や顔にこすりつける。まるで何かの儀式のように......。

赤堀雅秋が禁断の乳首を出した甲斐あって、とてもいい舞台だった。屈折した感情をストレートに伝えることができる老練な技術、そしてシリアスさと笑いのバランスがいい。

遊園地再生事業団『ニュータウン入口』

作・演出:宮沢章夫/シアタートラム/指定席4500円/★★★★

出演:若松武史、鎮西猛、上村聡、時田光洋、三科喜代、山縣太一、田中夢、橋本和加子、鄭亜美、杉浦千鶴子、佐藤拓道、齋藤庸介、南波典子、二反田幸平、今野裕一郎

安全で安心で、美しい街、ニュータウン。そこに自分たちの土地を求めようとする若夫婦。そこにノイズのように立ち現れる、かつての遺跡捏造者F、そして別のニュータウンで陰惨な事件(酒鬼薔薇聖斗の事件がイメージされている)をおこした兄をさがす弟たち。という表層の物語の下には神話的な象徴の層があって、約束された土地という旧約聖書のモチーフ(不動産屋の名前はカイン不動産だし物件の名前はカナンシリーズだ)とギリシア悲劇のアンティゴネの物語(兄をさがす弟たちの名前はそのものずばりアンティゴネとイスメネだ)がときおり土の下から浮かび上がってくる。

宮沢章夫さんの最近の作品はこういう二層構造をとっていることが多いが、今回はその二つの層が見事な連係プレーをしていた。兄をさがす兄弟と「人間の作った規則より神の定め給うた掟」というアンティゴネのテーゼ。絶えず登場するマイムマイム(歌詞が「あなたたちは喜びのうちに救いの泉から水を汲む」という意味だと初めて知った)から暗示される約束された土地イスラエル。そしてラスト、ニュータウンの風景がそのイスラエルの風景にかわってゆく。

終演後のムーンライダーズ鈴木慶一さんとの対談もおもしろかった。

サンプル『カロリーの消費』

作・演出:松井周/三鷹市芸術文化センター星のホール/指定席2500円/★★★

出演:渡辺香奈、山中隆次郎、辻美奈子、羽場睦子、米村亮太朗、古屋隆太、山崎ルキノ、古舘寛治、大竹直

今回チェルフィッチュの舞台に出ている人が多く出演しているからではないだろうが、冒頭のぎこちない身体の動きはチェルフィッチュのパロディーかと思った。それでも、中心になるのは青年団の役者で、ふだん平田オリザ作品だと、あえて没個性的に演じているのが、こちらではとことんはじけているのをみて、ひょっとしたら役者も楽しいかもしれないと思ったりした。

仮面夫婦になっている若い夫婦、長期入院している夫の母、入院患者を生かさず殺さず薬漬けにして利潤をあげている病院とそこで働く人々のただれた人間関係、発作のように自分探しをする若者たち。そこに、男性看護師が若夫婦の夫の母を連れてベッドごと失踪するという事件が発生する......。

人間の活動を二つにわけると、食料を調達してカロリーを摂取することと、そのカロリーを消費することだ。現代では、前者はあまり苦労することなく、もっぱらいかにカロリーを消費するかということに心血がそそがれている。別の場所にいったり、生活をかえようとしても、それは結局別のカロリー消費方法に変えただけのことなのだ。そこには希望はなく静かな絶望があるばかりで、笑ってしまうしかない。いや、全編あふれかえる笑いはほんとうにつぼだった。

ラストの全然ハモっていないハーモニーに希望を感じるべきなのだろうか。

innerchild『アメノクニ/ヤマトブミ~Children Of the Sun~』

作・演出:小手伸也/吉祥寺シアター/指定席3800円/★★

出演:進藤健太郎、石川カナエ、小手伸也、土屋雄、宍倉靖二、春名舞、三宅法仁、暮澄真記、小田篤史、三原一太、山森信太郎、松崎映子、石橋晋二郎、菊岡理紗、高山奈央子、久保田芳之、高見靖二、前田剛、狩野和馬、金順香、古澤龍児

前作『アメノクニ/フルコトブミ』のダイレクトな続編でストーリーや主要な登場人物が共通だ。ところどころ前作のヴィデオが流れてストーリーを把握するための導線はあるものの、前作をみていない人は、感情移入しにくかったのではないかと、余計な心配をした。

さて、前作から引き続き、国史編纂に極東の近代史をかぶせるというとても手の込んだ意欲的なストーリー。前作はフルコトフミすなわち古事記の完成と満州国建国までだったが、今回はヤマトブミすなわち日本書紀の編纂と太平洋戦争の敗戦後を描いている。と同時に前作でにおわされていたストーリーの三層目が明らかになってくる。近代史の枠組のアナロジーではアメノクニ=アメリカとなっているが、実はアメノクニ=はるか未来の日本なのだ。

この三層目を持ち込むことによって、この物語が単にもうひとつの「国史」になってしまいかねないところに、別の広がりを与えているのだけど、残念ながらその部分は十分なリアリティが感じられるほど描けておらず、中途半端に細部が語られることで、逆にリアリティが拡散しているような気がした。描くならもっとちゃんと描くか、あるいは逆に観客の想像力にゆだねた方がよかったと思う。

『シェイクスピア・ソナタ』

作・演出:岩松了/パルコ劇場/指定席9000円/★★★

出演:松本幸四郎、高橋克実、緒川たまき、松本紀保、長谷川博己、豊原功補、岩松了、伊藤蘭

シェークスピア作品をレパートリーに持つ劇団。座長は妻の死の半年後に劇団の若い女優と再婚した。亡き妻の実家の酒蔵で毎年催される公演。亡き妻の父であり劇団のパトロンである会長は、出先から戻ってこない。彼らの結婚を許してくれているのかどうか気にする二人。そこに、亡き妻の妹と劇団員の不倫問題、酒蔵の経営問題がからんでくる......。

劇団は四日間でシェークスピアの四大悲劇、『マクベス』、『ハムレット』、『オセロ』、『リア王』を上演する。一日が一幕に対応し、それぞれの劇の内容がストーリー展開にからんでくる。ただし、舞台で繰り広げられるのは悲劇でなく喜劇で、かなり笑える。「ハムレットはオフィーリアを愛していたんだろうか」という質問に対して「誰がオフィーリアかによる」というのはほんとうに傑作だ。

最後にちょっと事件が起きるが、悲劇のような運命的な出来事でなく、偶発的な出来事なので、それもまた喜劇の一環だ。ただ、それは笑えない。

拙者ムニエル『ヤバ口さんちのツトム君』"

作・演出:村上大樹/下北沢駅前劇場/指定席3800円/★★

出演:村上大樹、加藤啓、千代田信一、沢田育子、伊藤修子、成田さほ子、山岸拓生、寺部智英、石川ユリコ、林家聖子、溜口佑太朗

幼い頃から兄のつく嘘に翻弄されてやばいことばかりいう男になってしまったツトム。大人になった彼は、バイトが3日以上続かない人のための施設に入っていた。その施設で数々のどうしようもない出来事がまきおこる......。

途中中だるみはあるものの、今回はかなり笑いのレベルが高かった。ただおかしいだけでなく、嘘を見分けられる能力、イカ人間、鳩豆子が遺したアタッシュケースの中身など、シュールで不思議な後味があるエピソードがちりばめられていた。それだけに、逆にもっと完成度を高めることもできたのではないかと思ってしまう。

主要メンバーがぬけたり公演の間隔があいたりしてちょっと心配していたが、テンションが落ちてなくて安心した。

劇団♪♪ダンダンブエノ双六公演『砂利』

作:本谷有希子、演出:倉持裕/スパイラルホール/指定席6500円/★★★

出演:坂東三津五郎、田中美里、片桐はいり、酒井敏也、山西惇、近藤芳正

小学生のときいじめていた女の子からの復讐を執拗に恐れている男。彼女はあなたが最高に幸せを感じるときにまたきますといって転校していった。そして毎年送られてくる血文字の年賀状。おりしも美しい妻が妊娠し、世間的には幸せの絶頂といっていい時期だ。

荒唐無稽でとりつくしまのない恐怖だけど、その恐怖だけが男が持つことのできるリアルな感情だった。介護していた父親が亡くなって以来、あるいはそのもっと前から男は感情的にからっぽだったのだ。そこへ、妻の姉が訪ねてくる。彼女こそが、そのいじめていた少女だった。だが、彼女は昔のことはまったく覚えていないという......。

幕開き直後は登場人物にまったくリアリティを感じられずどん引きだったのだが、あっという間に舞台に引き込まれてしまった。そこには箱の中の宝物のようにリアルが隠されていたのだ。やはり本谷有希子はすごい。

坂東三津五郎は、情けない中年ニートの役をちょっとどうかと思うくらい熱演していた。アフロヘア、サングラス、ラメ入りジャケットでラップを歌ったり、エクササイズボールと戯れたり、もう何でもありだった。

はじめてのスパイラルホールはこじんまりとしていながらもゆったりと席の前後を確保してあって、いい劇場だった。

ポツドール『人間♥失格』

作・演出:三浦大輔/三鷹市芸術文化センター星のホール/指定席3300円/★★

出演:岩瀬亮、米村亮太朗、古澤裕介、白神未央、深谷由梨香

何かとチェルフィッチュと並び称されることが多いユニットなのでみておこうと思ったのだった。

無気力な25歳ニートの男性のだめだめな一日を描いた作品。テレクラに電話してオナニーしたりだとか(男の汚い尻を生で見させられたのには閉口)、架空請求詐欺にまんまとひっかかったりだとか、友達から借金返済の催促をされたりだとか、身から出た錆のような出来事が立て続けに起こり、そのたびに親に電話して金をせびっている。終盤まで舞台には彼一人だけしか登場せず、会話も電話を通して行われる。いたたまれなくなって別れた彼女に電話すると、だめさが中途半端だとさとされ、太宰治の『人間失格』を読めといわれる......。

しがみつくのが無意味なくらいちっぽけな自尊心と体面にしがみついてしまう主人公のだめさ加減は確かに中途半端だけど、夢のシーンのハードコアなだめさも、(その場面の迫力はすごいけど)ありきたりには違いなくて、結局は朝7時に起きてちゃんとバイトにいくという堅実な生活以外オルタナティブは示されない。なんかふつうだなと思ってしまった。

舞台ではずっとテレビのバラエティー番組が流されていたが、ぼくはバラエティー番組アレルギーなので、部屋からほとんど出ない主人公に代わってぼくがどこかにいきたくなってしまった。

野田地図番外公演『THE BEE』

作:野田秀樹、Colin Teevan、原作:筒井康隆、演出:野田秀樹/シアタートラム/指定席6500円/★★★★

出演:野田秀樹、秋山菜津子、近藤良平、浅野和之

最初のシーンをみて、原作の筒井康隆『毟りあい』の内容をほぼ思い出した。かなり原作に忠実だったのではないだろうか。

脱獄犯に妻子を人質にとられた平凡なサラリーマンが、お返しに脱獄犯の妻子を人質にとる。報復が報復を呼び、ついには世間からも警察からも見捨てられて......といったようなストーリーだ。

すばらしいのは野田秀樹の演出だ。人質、監禁といった非日常的な状況の中に、どうしようもなく日常性がうまれ、残虐な行為はこの日常性の中で行われる。そこには何か調和というか美のようなものがあった。そして、この日常性といっしょに、タイトルにある通りのBEEつまりハチが原作の外から持ち込まれている。ハチはこの日常性を打ち破るものとして現れる。それは何かを説明したり、倫理的な落とし前をつけるものではなく、絶対的な他者として現れるのだ。

あと、これまでみた芝居では狂言回し的な役ばかりだったけど、今回は演技者としての野田秀樹が堪能できたような気がする。やっぱり役者としてもすごいな。

劇団、本谷有希子『ファイナルファンタジックスーパーノーフラット』

作・演出:本谷有希子/吉祥寺シアター/指定席4300円/★★★

出演:高橋一生、笠木泉、ノゾエ征爾、吉本菜穂子、松浦和香子、高山のえみ、斉木茉奈、すほうれいこ

本谷有希子を俳優としてはみたことあるが劇作家、演出家としてははじめて。いつの間にか超人気劇団になってしまっていて、気を抜くとチケットがとれなかったが、ようやく念願がかなった。

ユクという少女の思い出に捧げられたテーマパーク。そこにはユクのかつての恋人のトシローが、一人きりの従業員縞子、ユクになりきろうとする元自殺志願者の女性たち(ニューハーフ含む)が暮らしていた。実は、ユクとは当時主婦だった縞子が演じていた仮の姿で、事実が明らかになって、トシローは縞子でなくユクという仮象の少女を愛し続けることを選び、縞子はトシローに冷淡に扱われながらも、彼を助け見守るために従業員になることを選んだのだった。

テーマはずばり「宿命と成長」だ(偶然最近読んだ鈴木謙介『ウェブ社会の思想―<偏在する私>をどう生きるか』と同じテーマだ)。トシローは、生身の女性に幻滅して、自分だけのセカイを築き、そこで宿命としてユクという仮想の少女を愛し続けることを誓う。そのために受ける迫害も宿命として受け入れると公言する。トシローはほとんど共感できない存在として描かれているのだけど、彼の心の痛みはなぜかとてもリアルに伝わってくる。

ラスト。そのトシローが縞子をユクではなく縞子自身として受け入れようとする。それだけなら単なるひねくれたラブロマンスになってしまうんだけど、縞子に「いつかあなたに幻滅するかもしれない」といわせて、それでもトシローが縞子を選ぶところがすばらしい。二人だけのセカイを新たに造るのではなく、現実の中で、他者としての縞子を受け入れたのだ。

タイトルは、つけた時点では何も決まってないのがまるわかりだけど(とばかり思っていたが実は過去の上演作を大幅に改変したものだったようだ)、結果的にとてもよく練りあがった作品だった。ストーリーに予定調和的な息苦しさがなく、ある種のゆるさがあるのもよかった。

阿佐ヶ谷スパイダース『少女とガソリン』

作・演出:長塚圭史/ザ・スズナリ/自由席5000円/★★

出演:中村まこと、松村武、池田鉄洋、中山祐一朗、伊達暁、長塚圭史、富岡晃一郎、大林勝、下宮里穂子、犬山イヌコ

まず、断っておかなくてはいけないのは、体育座りで身じろぎもできない環境だったため、終盤は腰の痛みで芝居どころじゃなく、内容を把握するだけで精一杯だったということだ。以下に書くのは、もしちゃんと椅子に座って見ていたらこう感じただろうという反実仮想的なもので、できるだけそのつもりになろうとはしているが、あの痛みのリアリティが感想に入り込むのを防ぎきれてはないと思う。

濁った水が流れ独特の臭気が漂うクシダという街。住民たちは露骨な差別の視線にさらされていたが、彼らは逆にそれを自らのアイデンティティとしてたくましく生きてきた。ところがそこに再開発の波が押し寄せ、彼らのアイデンティティの象徴だった「真実(まこと)」(濁った水を使ったただ酔っぱらうためだけの安酒)を造っていた酒蔵も廃業に追い込まれる。酒蔵の再興を期し、再開発に対抗するため細々と運動を続ける人々。彼らの心の支えはリポリンというアイドル歌手の少女だ。彼らは彼女の歌に、自由と平等という理念を勝手に見いだしていたのだ。そのリポリンがクシダにやってくる。こともあろうに再開発のオープニング記念イベントに参加するために。彼らはリポリンの奪還(つまり誘拐)を企てる。だが、リポリンたちの一行は自らの意志で彼らの元を訪れる。リポリンのマネージャーは18年前に彼らの前から姿を消した、かつて妻であり、姉であった女性だったのだ......。

コミカルでハプニング的なわくわく感に満ちた導入部を過ぎると、あとはありきたりで予定された悲劇・惨劇に向けて突き進んでいくだけだった。といっても、まっすぐな道のりではなく寄り道や停止が多かったが、それがまた腰に響いた。

リポリンという存在は、負のアイデンティティを守るのか、逃れるのか、という二つの生き方を越えた新しい生き方を象徴する存在だと思うが、舞台はよくも悪くもウェットな感情にドライブされていて、そのことがなかなか前面にでてこなかった。なんて思ってしまうのも腰のせいかもしれないけど。

ナイロン100℃『犬は鎖につなぐべからず~岸田國士一幕劇コレクション~』

作:岸田國士、潤色・構成・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/青山円形劇場/指定6500円/★★★

出演:松永玲子、みのすけ、村岡希美、長田奈麻、新谷真弓、安澤千草、廣川三憲、藤田秀世、植木夏十、大山鎬則、吉増裕士、杉山薫、眼鏡太郎、廻飛雄、柚木幹斗、緒川たまき、大河内浩、植本潤、松野有里己、萩原聖人

13ヶ月ぶりのナイロン。今までとまったくちがうところから題材をとっていることもあり、最初、しばらくぶりに会う親戚のような気詰まりな感じがしたが、ナイロンはやっぱりナイロンで、ふだんの100℃というほどはじけた感じはないものの、ナイロン36℃くらいの人肌でちょうどいい感触の舞台だった。

今回の舞台は、岸田國士(「國士」は「くにお」と読む)という劇作家が、大正末から昭和初めに書いた7編の短編をひとつの街の出来事として再構成したものだ。そんな昔の戯曲古くさいんじゃないかと思ってしまうが、そんなことは全然なく、市井に暮らす人々の日常を穏やかでアイロニカルな視線からみつめていて、その視線がとても現代的だった。とくに感動的な台詞や場面があるわけでなく、平易な言葉で淡々とそれぞれの物語が進んでゆくのだけど、それらをリズミカルにからみあわせるケラリーノ・サンドロヴィッチの演出手法は見事だなとあらためて思った。

現代劇と一番ちがうのは女優たちのほとんどが和服を着ていることで、その和服がモダンで涼しげでとてもよかったのだった。

戯曲は小説以上に古い作品が急速に忘れられてしまうので、こういう試みをもっとやった方がいいような気がするが、同時にそろそろケラリーノ・サンドロヴィッチの新作がみたいと思っていたところに、12月の次回公演新作というチラシがはさまっていた。楽しみだ。

青年団『東京ノート』

作・演出:平田オリザ/駒場アゴラ劇場/自由席3500円/★★★★

出演:足立誠、根本江里子、松田弘子、山内健司、山村崇子、堀夏子、河村竜也、ひらたよーこ、辻美奈子、松井周、大竹直、大塚洋、小林智、能島瑞穂、秋山健一、川隅奈保子、小笠原康二、鈴木智香子、荻野友里、長野海

10年1昔とすると、0.9昔前の芝居を見始めたばかりの頃に、この作品をみている。そのときからたくさんの芝居をみたけど、思い返すと、この芝居を越えていたのはほとんどなかったような気がしてきた。

2014年(前回は2004年という設定だった)、ヨーロッパでは戦争が壮絶を極め、舞台となる小さな美術館にはフェルメールの絵が多く避難してきている。美術館のロビーにも戦争はその影を落としている。9年前と比べて、その影はよりリアルな輪郭をとっているような気がした。戦争の話がでると、誰もが「仕方ない」と薄笑いを浮かべる。

戦争とは無関係に、人々はそれぞれの問題を抱えている。中心になるのは秋山家の人々だ。故郷で年老いた両親の面倒を一手に引き受けている長女由美の上京を迎える、そのほかの兄弟たち。誰もが問題から目をそむけようとしている。そして、次男祐二の不倫に悩むその妻好恵。彼女は、若いときに絵をあきらめた由美に、自分を描いてほしいという。それは、弟の嫁としてではなく、彼女自身をしっかり見てほしいという、叫びなのだ。その叫びが届いたのか、届かないのか、二人はにらめっこをする。まるで子供のようだけど、ルールがちがっている......。

キャストは、主要な二人由美と好恵役の松田弘子、山村崇子がそのままで、長男、女性学芸員、遺産の絵を寄付する女性、その弁護士、元反戦運動家の青年も同じ俳優が演じていた。そのほか何人かは役が横滑りしている。昔も今も青年団は魅力的な俳優が多い。

劇団は数々あるけれど、一時期のテンションが保てずじり貧になっていったり、逆に商業的に成功して芝居の質が変わってしまう(はっきりいうと迎合的になってつまらなくなる)かどちらかのコースをたどってしまうことが多いけど、同じ場所で踏みとどまっているのはとても希有なことだ。ある状態のままあぐらをかいているのではなく、逆に常に変化し続けているから、同じ場所にいるようにみえるのだと思う。

前回同様、今日もまた雨が降っていた。

シティボーイズミックス『モーゴの人々』

作:細川徹、シティボーイズ、中村有志、演出:細川徹/天王洲銀河劇場/S席6500円/★★★

出演:大竹まこと、きたろう、斉木しげる、中村有志、大森博史、ムロツヨシ

マチネーのある日で、一日二回の上演はさすがにこたえるのだろうか。かなりとちりが多かった。それでもシュールな笑いのセンスは健在で、雁首倶楽部、石井さん祭り、空元気な宇都宮さん等、大いに笑わせてもらったのだった。ただ、昨年に比べると完成度がいまひとつと感じてしまうのは、昨年がよすぎたということなのだろう。客演した人たちの個性がひきたっていなかったのも、残念なところだ。

猫のホテル『苦労人』

作・演出:千葉雅子/シアタートラム/指定席4500円/★★

出演:中村まこと、いけだしん、森田ガンツ、岩本靖輝、菅原永二、市川しんぺー、村上航、池田鉄洋、佐藤真弓、千葉雅子

再々演ということだが、ぼくは初見。ある家系の男性たちのだめだめな姿を、オムニバスで、室町時代から現代まで年代記的に追いかける。各世代ともそれぞれのやりかたでがんばって生きているのだが、すべて裏目にでてしまうのだ。

再々演されるだけあって、全体的な構成やきらりと光る台詞回しなどはすばらしいと思うのだけど(あと江戸時代のごんざのエピソードに出てくる死体の動きがとにかくおかしかった)、何度か場がだれて集中力がとぎれることがあった。次の本公演が1年後ということをきいてしまうと、(開演前のショートコントもなくなっているし)劇団の求心力が落ちてきているのではないかと余計なことを考えてしまうが、たっぷり充電して、次は目が覚めるような舞台をみせてほしいと思う。

青年団国際演劇交流プロジェクト2007『別れの唄』

作:平田オリザ、演出:Laurent Gutmann/シアタートラム/指定3500円/★★★

出演:山内健司、角舘玲奈、太田宏、Adrien Cauchetier、Bruno Forget、Annie Mecier、Yves Pignot、Catherine Vinatier

俳優の割合は日仏3対5だが、台詞は9割方フランス語で話され、日本語字幕が舞台上部に表示される(たいてい俳優が台詞をすべていい終わる前に字幕が表示されるので、観客の笑いのタイミングがずれて俳優が演じづらく感じることがあったかもしれない)。

畳がしきつめられた古い日本家屋。フランス人の妻の通夜の席に、妻の家族たち(もちろんフランス人)が集まっている。それをもてなす日本人の夫とその妹。湿っぽさはなく笑いが絶えない舞台だった。

もともとフランス向けに書かれた戯曲なので、フランス人側の視点で日本人の不可解な点が主に描かれている。日本独特の風習はちょっと誇張されているようにも感じたし、フランス人は合理的な面ばかりが描かれているように感じた。「分かり合えない」ということばがチラシやパンフレットに書いてあったけど、日本人のぼくの目からみると、お互い十分に分かり合えているようにみえた。たぶん、フランス人からみるとどうしてもわからない何かがそこにあるのだろう。その「分かり合えない」ということを前提にすると、妹由希子がふと口にする兄嫁が好きじゃなかったということばは、大きな重みをもってくる。悲しみよりもむしろ憎しみの方が普遍的に通用してしまう感情なのかもしれない。

青年団リンク・サンプル『シフト』

作・演出:松井周/アトリエ春風舎/自由席2000円/★★★★

出演:山村崇子、辻美奈子、古舘寛治、古屋隆太、小河原康二、石橋亜希子、荻野友里

青年団の俳優として松井周をみてきて、彼が作・演出をする芝居に興味をもった。

舞台を円形の大きな縄がとりまいている。相撲の土俵だ。天井から、テニスラケット、かばん、フリスビー、玄関マット、たんすなどなどさまざまものがつるされている。

奇妙な因習が残る地方の村。もとの村があった場所はダムの底に沈められ、今では数人しか残っていない。彼らはある「高貴」な血筋の子孫であり、一族の栄華の象徴である「白子様」という赤ん坊を生み出すため、乱交や近親姦を繰り返していた。東京からそこに婿入りしてきた青年はその奇妙な風習に翻弄される。

そこにも「郊外化」の波は押し寄せ、巨大なショッピングセンタートピカが人々の生活に欠かせない場所になっている。青年もトピカに勤めることになる。

最後に勝つのは、村の血統でも都会人の理性でもなく、「郊外」の幻想だ。結局トピカとそれを生み出した欲望がすべてを支配する。

会話の部分だと凡庸に見える人物たちが、モノローグの部分だと輝きだす。とても魅力的な演出だった。

偶然、東浩紀・北田暁大『東京から考える―格差・郊外・ナショナリズム』を読み終えたばかりだったが、テーマが共通していて驚いた。

innerchild『アメノクニ/フルコトフミ~八雲立つユーレンシア~』

作、演出:小手伸也/時事通信ホール/指定席3200円/★★

出演:古澤龍児、菊岡理紗、土屋雄、三宅法仁、宍倉靖二、小手伸也、進藤健太郎、板垣桃子、ハルカ・オース、石川カナエ、尾崎恵、貝塚建、小柳こずえ、三枝翠、桜子、関根洋子、関本なこ、長尾純子、初谷至彦、馬場巧

日本神話をテーマにしたスピリチュアルな作品という点では、これまでと同じだが、今回は連作の第1作ということもあってか、よりストーリーの複雑さが増している。

架空の三国ユージア、アシバール、ユーレンを舞台に神話「フルコトフミ」(つまり古事記)の編纂をめぐって物語がくりひろげられる。当初国譲りの神話のようにユージアが「ヤマト」、アシバールが「イズモ」になぞらえられるが、後半ではそれに昭和史が重ね合わせられて、アシバールは中国、その王が逃げた土地ユーレンは満州になぞらえられる。ラストエンペラー溥儀の物語だ。

これらの騒動を不思議な立場でみているのがアメノクニからやってきた人々。今回はまだ彼らの目的はよくわからない。最初アメリカをなぞらえているかと思ったが、未来の日本のようにも思える。

物語はまだ途中。ラストエンペラーの物語は未完、アメノクニの正体も謎のままで、「フルコトフミ」の編纂者ヤスマール(太安万侶)の仕事が終わっただけだ。連作なので仕方がないが、今回は次回以降の伏線となる部分があり、若干消化不良だった。また、ヤスマールは、為政者の都合で歴史を歪曲して神話を書くことに悩んでいたが、その悩みの奥行が描けていないというか、単なる青年期の潔癖さにしか見えなかった。

物語のスケールは大きいしアイデアもすばらしい。演出も的確で洗練されている。だが、まだ何か足りないものがある。それは、どんな完璧な図式をもってきても、そこからはずれてしまうノイズのようなもの、つまり人間を描くということのような気がする。

『哀しい予感』

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『哀しい予感』

作・演出:塚本晋也/本多劇場/指定席7800円/★★

出演:市川実日子、加瀬亮、藤井かほり、奥村知史、松浦佐知子、一本気伸吾

原作はよしもとばななの同名小説。読んだことはないがかなり原作に忠実だったのではないだろうか。その分舞台作品としては、ちょっと説明過多、冗長になってしまったかもしれない。

ぼくの思いこみもあるかもしれないが、映画監督である塚本晋也はまだ舞台の演出に慣れていないのではないだろうか。登場人物に動きがなく舞台の広さを使いこなせていないし(映画ならカメラワークで動きをつけられるけど)、セリフを通して観客に想像させるのではなく市川実日子演じる弥生の独白に頼りすぎていたような気がする。あと、休憩前の前半特にテンポが悪くて、弥生の自宅のシーンはまるまるカットしてもよかったと思う。

ストーリーは簡単にいってしまうとスピリチュアルな自分探し。登場人物がみんな気持ちのいい人ばかりで、後味はよかったのだった。