図書館で調べ物をしたあと、永遠の幸福の町、略して永福町へいった。ちなみに、町名の由来は今も町の中にある永福寺だ。
食事はまだだった。私鉄沿線のターミナル以外の駅でおいしいものを食べるのは意外に難しい。昼時ならまだしも、夕方近い時間だと、休憩に入ってしまう店も多い。そのことはじゅうじゅう理解していたが、永福町は急行も止まる駅だ、何とかなるだろうと思っていた。
食事ができるところを探して左右きょろきょろしながら、駅前の商店街を南へ向かって歩いていく。ラーメン屋は何件か開いていたのだが、いかにも場末の中華屋という風情なので、足がとまらず通り過ぎてしまった。
駅のすぐそばに「和田耕作事務所」という古い宿屋のような建物があった。ただ「和田耕作事務所」と書いてあって、その人がどういう人なのか何の説明もない。マツモトキヨシも特に説明がないという点では同様だが、あれは店の前に並べられているものを見れば一応何屋なのかわかる。「和田耕作事務所」の方でわかるのは、なんだかよくわからないが事務のようなことをしているということと、それに和田耕作さんが一口かんでいるらしいということだ。
とここまで書いて気がついた。名前だとばかり思っていたが。「耕作」が田畑を耕すことを指している可能性がある。「耕作事務所」。相変わらず意味不明だが、とりあえずぼくにはまったく関係ないということだけはわかった。
いつの間にか閑静な住宅街を歩いていた。散歩のコースとしてはなかなかの場所だが、はらぺこの人間が歩くところとしてはあまり適当ではない。明大前なら何件か店を知っているので、そちらに行こうと思って道を選んでいたつもりだったが、ついたところは代田橋だった。永福町以上に店がなく、季節はずれのリゾート地のようだった。
商店街を通り過ぎて、玉川上水の緑道にでてしまった。目の前には環七。とりあえず渡ろうと思った。緑道のわきに地下道を発見した。地下の廃墟へと続いているような階段を下ると、頭の上を何本も水道管のようなものが通っている。ぼくはあまり背が高いほうではないが、それでもぶつかりそうだった。タルコフスキーの映画か何かに出てきそうな怪しい空間だった。
どうせなので、下北沢方面へ向かう。食べ物はよりどりみどりだ。
下北沢の商店街を歩いていると、「阿波踊り」が行われることを知らせる看板があった。夜7時から始まるらしい。高円寺と川崎は知っていたが、下北沢でもやっているとは知らなかった。
スターバックスでマンゴーシトラスフラペチーノを飲んだ。この前来たときは、地下への階段に気がつかなかったが、今日はちゃんとおりていって休憩する。案外人が少なく、快適だ。柑橘系の酸味が、渇いた喉を刺激する。
さて、ようやく腹ごしらえ。スターバックス近くの「ウェスト」という名の洋食屋に入った。初老の夫婦二人でやっている店だ。値段は普通の洋食屋よりかなり安い。銀座あたりの店と比べると半額以下だ。味も本格的で、これぞ洋食という感じだった。
料理を作るだんなさんの方は学者風のタイプで無口なのだが、奥さんの方は話し好きらしく、たまたまきていたほかの客とおしゃべりをしていた。それによると、土日はヤングがすごいそうだ。久しぶりに「ヤング」という言葉を「ヤング」という意味で使っているのを聞いた。今「あなたはヤングですか?」ときかれたら、「いいえ」とはいいたくないし、「はい」というのもためらわれるので、困ってしまう。そんな言葉だ。ちなみにぼくは'''ヤング'''ということにしておこう。
あともう一つ。TVで最近とりあげられたらしく、問い合わせの電話が頻繁にかかってきて、少し困っているということを話していた。ぼくがいる間にも二件そういう電話があった。何人の人がこのページを見て、実際にいってみようと思うかわからないが、場所は、下北沢の北口をおりて、商店街を道なりに進み、つきあたりを少し左へいったところだ。電話番号を調べて店に問い合わせをしないように。
散歩再開。信用金庫の駐車場で、阿波踊りの格好をした人たちが練習をしていた。見た目は楽しそうだが、けっこうたいへんなようだ。
246沿いの大橋付近を歩いていたら、露店がでていた。氷川神社のお祭りらしい。いせいのいい声がしたので見てみると、道路の反対側、首都高の下を御輿が進んでいくのが見えた。首都高と御輿というとりあわせがなんだかとてもおもしろかった。
目黒川沿いをしばらく歩く。ときどき、プチっという何かが破裂するような音が聞こえる。川岸にはユスリカを撃退するための機械(青白い光を放つ蛍光灯のようなもの)が設置してあって、それにひかれてユスリカがやってくると電撃が発せられるのだと思う。ユスリカは蚊の仲間ではなく人や動物の血はすわないので、そこまですることはないと思うのだが。
そのまま中目黒まで。8.8kmだった。
渋谷にでて、いくつか買い物。イタロ・カルビーノ『冬の夜一人の旅人が』。ずいぶん昔に図書館かどこかで借りて読んだが、すっかり忘れている。文庫化されていたので、もう一度読み直してみようと思ったのだ。次に、会社で飲むための紅茶をレピシエで買った。つい、ミルクティー向きというのを買ってしまったので、ミルクを買うのを忘れないようにしないと。

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