会社は休みだが、ぼくは仕事。5時くらいになって、会社の窓から、ちょうどいい具合に暮れかけてきた空を眺めていたら、急にこのまま仕事を続ける気がなくなってしまった。そういえば、O.Kさんから両国でやっているダンスのイベント(ちなみにタイトルは『第4回シアターχ(カイ)インターナショナル・ダンスフェスティバル2000』)を紹介されたことを思い出した。今週末は何かと忙しいので無理かと思っていたが、せっかくだから観にいってみようか。そんな気になった。
思い込んだときの行動の早さにはわれながら感心する。あっという間に川崎駅から東京行きの東海道線の電車に乗り込んでいた。両国についたのは6時ちょっとすぎ。下町と呼ばれるところは昼間来ると、さびれのようなものがどうしても目についてしまうが、夜来るととても美しく見える。会場の'''シアターχ'''(最初シアターエックスかと思ったが実はシアターカイだった)はすぐに見つかった。まだ当日券は売っていなかったので、まず食事をとっておこう。駅までもどり、改札のわきのカレー屋に入る。カレーがすぐ出てきてしまったので、読まなかったが、漫画本がいっぱい置いてある。カレーはなかなかおいしかった。
食べ終わってシアターχにいくとちょうどいい頃合だった。券を買って、会場に入ると客の入りは今ひとつ。そんなものかと思っていたが、開演時間前にはそこそこ埋まった。ぼくの前の席には初老の夫婦が座っていた。こういっては失礼だが、ダンスをみずからすすんで観にいくタイプではない。別に見ようと思って見たわけではないが、ふと取り出した手紙の冒頭の文が目に入る。かなりの達筆で「お父さん」と書かれていた。どうやら息子か、娘が今回の舞台に登場するらしい。この人たちはどんな気持ちで子供の舞台を観るのだろうかと少し気になった。
さて開演。まずは櫻井郁也という人の公募作品。白塗りだった。白塗りというのはつまりとにかく白く塗ることだ。今回は顔だけで、体は塗っていなかったが、代わりにステテコをはいていた。常に全身に緊張を維持し、その緊張から逃れるために体を動かしているという感じがあった。まさに白塗りらしい作品だった。
次は、DANCE GROUP 86B210のやはり公募作品。山高帽にタキシードといういでたちの奇術師みたいな人が舞台に登場し、左右の手の人差し指と中指を巧みに動かして、二人の人間の争いのようなものを演じる。指がほんとうに人間の脚のように見えた。ずっとこれが続くのかと思ったがさにあらず。本編は、こちらに背を向けているスキンヘッドの人物(男性かとおもったが、ふりかえったときに女性だとわかった)とロングヘアの女性ペアのダンス。エロチックなからみもあるが、さきほど指で示された争いのモチーフが繰り返されたりもする。
三番目は今回のメイン。「中国の不思議な役人」。一応音楽はクラシックから入った人間なので、「中国の不思議な役人」がバルトーク作曲のバレー音楽の題名だということは知っていた。何度か聞いたこともあるが、もうすっかり忘れている。今回のピアニカ二つの生演奏。演奏者が客席の背後から舞台に向けて歩いていくという天然ドルビーサラウンド効果で幕が開く。ダンサーは男性2人、女性1人の計3人。男性のうち一人がO.Kさんの友人ということだ。聞いていた肉体的特徴からどちらの男性がそうか見当がついたのでついつい注目してしまう。(あとでぼくの勘違いだとわかった。)ダンスの中から無理矢理人間関係を類推すると、3人の間には三角関係があるようだ。女性一人をめぐる野性的な男と、やさしげな男の争い。いままでのダンスは無言だったが、このダンスには言葉がある。フランス語のような中国語のような不思議な言葉だ。最後は暗闇のなかで、この言葉だけが繰り返される。
トリをつとめるのは韓国のホン・シンジャ+カンパニー。男性3人、女性8人による群舞だ。韓国のグループだと知ったのは帰宅してから、日本人だとばかり思い込んでいた。女性に美しい人が多いので驚いた。反面男性は、上半身裸でステテコおいうファッションもあってか今ひとつさえない。なんて、何か見るところが違っているような気がする。ダンスの方に話をうつすと、素人目には今日見た中では一番わかりやすいように感じたが、特に他の演目と際立って違っているわけではない。ダンスには国境がないのかな。
はじめて観たわけなので仕方がないのかもしれないが、まだダンスの見方がわからない。まずだめだとわかったのが、分析的に観る方法。それだと、肝心なものが逃げていってしまう。やはり無心になるということだろうか。まあ、それはそれとして、バルトークの「中国の不思議な役人」のCDを買って、聞きなおしてみることにしよう。
夜の隅田川が見たくなったので、駅に向かわず両国橋を渡る。ちなみに昔は、隅田川が、武蔵国と下総国の境だったので両国橋という名がついた。それにちなんで、もともとは中央区側今の東日本橋のあたりが単に両国と呼ばれ、今の両国は東両国と呼ばれていたが、駅の開業とともに、東の方に両国の名を奪われてしまったのだ。
ネオンがきらきらと川面に反射して、隅田川はとても美しい。遠くの方から屋形船が二艘並んでやってきた。そのまま、夜の街を馬喰町まで歩いた。最後にうんちくをたれておくと、馬喰町はJRで一番低い所にある駅だ。

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