休みだというのに目覚し時計の音で目覚めた。今日は鎌倉にいくのだ。カーテンのすきまからはおだやかな日ざしが差し込んでいる。天気予報でも暖かな一日になりそうだった。
横須賀線の電車を北鎌倉でおりた。時計をみると11時21分。平日だというのにものすごい人だった。ほとんどがおばさん。日本中のおばさん全員集合という感じだ。
駅前の円覚寺という寺をまず見てみることにした。来年の大河ドラマの主人公北条時宗が建てた寺だ。拝観料200円也。境内はとても広かった。歩いても歩いても寺の中だ。それにしても賽銭箱の多さは並じゃない。要所要所に設置されている。その上、北条時宗の墓所に入るにはさらに100円払わなければいけないようになっている。せこい。
きれいな女の人から写真をとってほしいとカメラを渡されたので快くひきうけた。シャッターを押す合図に、つい「チーズ」といってしまったが、なんだかとても古臭くておかしい感じがする。21世紀になろうとする今日この頃、どういう言葉を使うべきなのだろう。
白鹿洞という穴があった。その昔そこから一群の白い鹿が現れたという伝説があるそうだが、穴は上に向かって開いておりしかもとてもせまい。鹿はどう考えても無理で、猫がせいいっぱいだ。
急な階段を何段も登って、見晴台に上った。洪鐘という鐘があるのだ。たしかに大きくて立派な鐘だった。鐘の外見を形容する言葉をぼくはほかに知らない。おりるときに段数を数えてみたら133段あった。煩悩の数+25。
寺を出て踏切を渡ると車の通りの激しい道路に出た。このまま歩いていけば鎌倉の市街につくのはわかっていたが、せっかく鎌倉に来て、排気ガスを吸い込むこともないので、浄智寺という寺のわきの道をいくことにした。標識によれば銭洗い弁天の方にも通じているらしい。
最初は静かな気持ちのいい道だと思っていたが、どんどん狭く、しかも登りが急になってきた。石畳が消え、ぬかるんだ地面が表われた。標識には源氏山ハイキングコースと書かれている。そんなこときいていない。今日は本格的に歩くつもりなど全然なく、ぶらぶら気ままに見て回るつもりだったのだ。しかし、引き返すのも何なので、日ごろきたえた健脚で、そびえたつ絶壁もなんのその、軽快なペースでハイキングコースを踏破した。
思いがけず汗だくになってしまったので、しばし源氏山公園で休憩。途中で追い越した、ちょっとあやうい感じがする(車にひかれそうになっていたし、病的なまでに息を切らせて山道を登っていた)、くたびれたスーツを着たおじさんがいつの間にか到着して、地元の人らしき初老の男性に話しかけている。「南蒲田から来たんですよ」。か、蒲田か。どうせ、蒲田に住んでいるのは変なやつばっかりだ。
銭洗い弁天はすぐそこだった。試しに二千円札を洗ってみた。予想通りふやけてふにゃふにゃになったが、印刷がはげなくて幸いだった。ぼくが手にした二千円札は後にも先にもこれ一枚だけなのだ。
そのまま歩いて鎌倉駅についたのは12時50分だった。食事をとらなければ。前々から話にきいていて一度入ってみたいと思っていた店がある。おざわという玉子焼き専門店だ。小町通の裏にあるということはきいていたので、すぐに見つかった。店はビルの狭い階段をあがった二階にあった。その階段の長さ以上の人が行列を作っている。10人程度だろうか。それが普段に比べて多いのか少ないのかよくわからないが、せっかくなので並んでみることにした。
店内が狭く、客が注文する料理も固定されているので、必然的に総入れ替え制になる。一回目の入れ替えで入れたのはぼくのちょうど前まで。残念ながらさらに20分ほど待つことになった。結局入れたのは並び始めてから45分後。行列がきらいで、混んだスターバックスさえ避けるぼくにしてはよくがんばったものだ。
店内は、3人座ることができるカウンターとちゃぶ台のような背の低いテーブルが2つ。テーブルはそれぞれ4人が席につけるので、計11人が一度に店内に入れることになる。煙が充満していて目にしみた。ぼくは当然のように1200円の玉子焼き御膳を注文した。小さな茶碗にもられたごはん(上には海苔の佃煮と、たらこがのっている)となめこのみそ汁。そして玉子焼きが三切れだ。確かに玉子焼きはおいしかった。でも45分間待つ価値があるかというと疑問だ。たぶん一人で入ることはもうないと思う。
近くの鶴岡八幡宮までいってみることした。前の人力車にオバQが乗っているように見えたので驚いたが、よく見ると角隠しをつけた花嫁だった。その前には羽織袴をつけた花婿の車がある。鎌倉の町の人全員に披露しているみたいで、こういうのも悪くない。
鶴岡八幡宮の中には近代美術館があった。時間があれば入りたかったが、今日は無理だ。
江ノ電に乗った。つい一日乗車券を買ってしまったが、ふつう3時という時刻は一日乗車券を買う時刻ではない。やってきた電車は二両編成で、そのせいか異常に混んでいた。二駅目の由比ガ浜でおりでおりる。
静かで気持ちのいい道をたどって海岸にでる。海だ。冬の海はいい。波が洗うぎりぎりのラインに陣取って海を見る。ときおり大きな波がやってくるので、あわててよける。非常に原始的な遊びだ。でも楽しい。浜辺で群れているカラスも同じようなことをやっている。
再び江ノ電に乗り込んで、極楽寺でおりる。極楽寺という名の寺をさがすがなかなか見つからない。さんざん歩き回った末に駅前で発見。極楽はやはり自分のすぐそばにあるのだ。しかし、時間が遅かったためか、一般の人は入れないようになっていた。残念。
三度江ノ電に乗り込んで藤沢まで。オーパの8階に入っているユニクロで冬物の服を買った。銀行にいくために駅の反対側に行こうとしたら、女の子からそでをひっぱられた。「どこいくの?」と微笑みかけてくる。とても可愛い娘だった。
その娘を振り切って駅の構内から外へ飛び出したら、もう空は真っ暗だった。

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