今日は仕事だったが、予定では早く片付けて散歩にくりだすはずだった。だから、昼食も食べなかった。出勤気分のまま会社の近くで食べるより、あとから解放感を味わいながら食べたかったのだ。ところが、なんだかんだと待たされて、会社を出たのは4時半になってしまった。
いまから食事をしていたのでは、散歩の開始がますます遅れてしまうので、散歩が終わってから昼夕兼用の食事をとることにした。
時間が時間なので、夜でも十分楽しく散歩できる都心方面に向うのが筋だが、川崎にきたら南武線という妙なこだわりにとらわれて南武線に乗り込んでしまった。電車はかなり混んでいてぼくはずっと立ち通し。窓の外をずっと見ていたら、武蔵中原駅で、反対側のホームに停まっている電車の車掌が手を前に差し出すしぐさをした。おひかえなすってをしているわけではなく、雨が降ってきたのだ。
目的地の武蔵溝ノ口で降りてもまだ降っている。あまりのついてなさにむしゃくしゃしたが、ここは雨は降っていないものとして無視することにした。無視の力は強い。歩き出してしばらくすると雨はやんだ。
東急の溝の口駅の階段をおりると、とんでもなく古びた商店街があった。というより商店街の遺跡と言ったほうがいいかもしれない。溝の口の街はコンコースができてきれいになったと思っていたが、ちょっと裏側にはこういう世界が残っているのだ。
蔵敷という謎の場所に向う道をしばし歩き、平瀬川という川にぶつかったところで川沿いに歩き出した。今週台風が来たというのに、水は厚底サンダルでも十分渡りきれる深さだった。ちょっとだけ、温泉街を流れているような風情がある。カモが三々五々というより一々二々くらい水の上にいた。最初は大きな石のように見えるが、よく見るとカモなのだ。ぼくが見ている間だけカモになり、また石に戻るのかもしれない。まわりの家ではちょうど夕食のしたくの最中らしく、いい匂いが漂ってきて、空腹にしみた。
川は再び、さっきの蔵敷への道に合流した。そろそろ川に飽きてきたので、蔵敷という謎の場所に向う。
しばらく歩くとまた川を渡る。平瀬川だ。この道に沿って蛇行しているようだ。東名の下をくぐってさらにいくと、平というにぎやかな交差点にでた。「平」。宮前区の平=宮前平?てっきり自分が田園都市線の宮前平の駅のそばにきていると思い込んでしまったので、右に曲がることにした。なぜ宮前平ではまずいかというと、今日の目的地が向ヶ丘遊園だからだ。宮前平の近くというのは間違いだったが、右に曲がったのは正解だった。
階段をのぼって、さらに坂道をのぼる。たった今まで自分が歩いていた道がはるか下に見えた。前方には突然大きな観覧車。向ヶ丘遊園だ。もう営業が終わっているらしく、灯りが消えて、まわってもいない、さみしい観覧車だったが、そんなどんぴしゃなランドマークを見つけてちょっとうれしかった。
しばらくは観覧車を目指して歩く。向ヶ丘遊園の敷地に近づいたところで、迂回するために道をそれた。するととたんに観覧車は消えうせた。あとから見渡しても影も形もなかった。まあ、巨大なビルでさえ一瞬の後には崩れ落ちてしまうのだから、何があっても不思議はない。
宿河原駅(南武線の登戸のひとつ手前の駅)入り口という交差点を見つけた。そこを直進してかなり歩いたつもりなのに、今度は宿河原駅入り口という名前のバス停。どこまでいっても宿河原。いつの間にか南武線の線路をわたってしまっているし、向ヶ丘遊園とはちがう方向にきてしまった。なんとか登戸にたどりついて今日の散歩は終わり。7.2kmとそんなでもない。今日は新しい靴をおろしたので、慣れないせいで疲れたようだ。右の踵が少し痛い。
新宿に出て、ようやく食事にありついた。ネギシで、カルビ牛タン麦とろ定食。空腹という最高の調味料がふりかけられている割にはそれほどでもなかった。ふりかけすぎたのかもしれない。
疲れて新宿駅の雑踏を越える気力がなかったので、代々木から帰路についた。

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