Helpless

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晴れてはいるが、北風が吹きすさぶ寒い日。

八重洲地下街のカレー屋でベーコンエッグカレーというものを食べる。カレーの上にベーコンエッグがのっているものとばかり思っていたが、クレープのようなぺらぺらの超薄焼き卵のなかにやはりぺらぺらのほうれん草とベーコンが悪趣味な柄のように散りばめられているだけのものだった。ちょっとがっかり。

最初は杉並・練馬方面に行こうかと思っていたが、食べている間に、数年前のぶらぶら歩きのことが頭をよぎった。暖かい雨のまじる冬のある日、妙典から行徳までの東西線の高架沿いを歩いた。そのとき野鳥に興味があって、その行き帰りの電車の中で都市に棲む野鳥の本を読んでいた。だからそのときのことは、いつも鳥の自由さといっしょに思い出す。

そのときの気持ちを再現しようと、久々に千葉の東西線沿線、その中の一番東京よりの浦安に向う。大手町で各駅電車を1本見送って、次の快速に乗り込んだ。快速だと東陽町の次が浦安。東西線の快速が快速運転している区間にのるのははじめてだと思う。

浦安は快速も停まるし東京に接した大ベットタウンなので、駅前はもっとにぎやかだと思っていたが、裏寂れた印象。

市川へ向うメインストリートから一本奥に入ったバス通りを歩きはじめる。側溝の上にかぶせた石板の上を、頻繁に通り過ぎる車に気をつけながら歩く。街並みは近くを流れる川の風で彩りが飛んでしまったようにくすんでいる。そんな寂れた救いのない街を冷たい北風を受けながら歩いていると、自分がなんでこんなところにいるのかわからなくなった。道をそれようにも、どちらを向いても同じような街並みだ。住居表示の町名は次から次へと移り変わるが街並みは変わらない。欠真間(かけまま)という町名が目を惹いた。千葉には面白い地名が多い。

体が冷されたせいだろうか。激しい尿意までが呼びもしないのにやってきた。立小便をするわけにもいかないので、公衆トイレを探しながら歩くが、一向に見当たらない。そろそろ我慢の限界が近づいたときに、行徳駅を指す案内板。迷わずそちらに曲がった。

駅前の公衆トイレに駆け込んで、力を抜いた瞬間に感じた幸福感が、今日の散歩のクライマックスになりそうでいやだったが、結局その通りになってしまった。洗面台のところに青いパーカーの男が座り込んでいた。眠り込んでいるようだったが、ぼくが出て行くときに、顔をあげて、こちらを鋭い目でにらみつけた。髭に白髪の混じった年老いた男だった。手を洗うことができなかった。

すっきりしたところで、もう少し歩くことにした。行徳駅前というふざけた町名の街を抜け東京湾の方へ向う。途中で右折し野鳥の楽園のまわりを半周するように歩く。まだ5時だというのに、夕闇はもう昼の光をすっかり吸い込んでしまっていた。鳥たちが群れている小さな池がぼんやり浮かび上がる。すぐそばで大きな白鳥が羽を休めていた。

闇はなおも濃く、ぼくは干潟の中に丈高においしげる土筆の群れを見ながら、とぼとぼと歩きつづけた。なんだか、そのうつろな風景がいつまでも心に残るような気がした。

干潟を離れて殺風景な街の中に戻る。排気ガスを胸いっぱいに吸い込みながら、ようやく京葉線の市川塩浜の駅にたどり着く。9.4km。無駄に長い距離を歩いてしまった。

市川塩浜の駅前は文字通り何もない。コンビニが1件と、車のディーラー、ガソリンスタンド、少し離れたところにラブホテルが2件。これがすべてだ。

ディズニーランド帰りの客で武蔵野線への直通電車はラッシュ時並みの混雑。西船橋で降りて、都心へ向う総武線各駅電車に乗り込む。隣に座ったのはカメラのサークルか何かの帰りらしい、男二人連れ。年上の方が小気味いい江戸弁で一方的に話している。その人によるとカメラマンには会話がまったく通じない人が多いということだ。フィルム何個とかいう事務的な話は全く問題ないが、雑談になると、もうさっぱりだそうだ。

気分がすさんだので、秋葉原で途中下車して、スターバックスで、とびっきり甘いシナモンロールをほおばって、底なしに甘いカフェモカをすすった。それで少し回復した。

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