予報では夜から雪。カサはもたずに出かける。降られたらそのときだ。
外に出ると街全体がどことなく白く見えた。雪に備えて白い衣を纏っているのだろうか。
北千住に向かう。蒲田から北千住に行くにはいくつか方法があるが、今日は一番安い方法で行ってみた。JRで有楽町までいって、銀座から日比谷線だ。ちょっと時間はかかるが、400円でいける。
北千住の日比谷線ホームで、半ズボン姿のおじさんを見かけた。上半身は普通にハーフコートを着ているのだが、下半身は私立小学校の制服のような短い半ズボンだ。この寒い日にごくろうさまとでもいおうか。よく通る声でひとりで話しているようにも見えたが、隣の椅子に無関心を装って座っていたおばさんが実は連れだったのかもしれない。
食事をするところをあらかじめ調べたりはしない方だ。面倒だし、第一行き先があらかじめ決まっていることなどほとんどないからだ。今日は珍しく雑誌からピックアップしておいた。始皇帝という水餃子とタンタン麺の店だ。きょろきょろと雑誌の地図に載っていたあたりを探して、ようやく見つけた。思ったより小さい店。残念なことにシャッターが半分おろされていた。中では雑誌に出ていた店主らしき人が仕込みの真っ最中。昼の部は終わってしまったようだ。雑誌にはそんなことは載っていなかったのだが。
駅の方に引き返して、ビックリヤという洋食屋に入った。カキフライ定食を注文。850円とリーズナブルな値段だ。ごはんがかなりの大盛りでびっくり。さすがビックリヤと思ったが、ここで大きな失敗をしてしまった。テーブルの上には黒い液体の入ったビンが2つあった。ぼくは、それをウスターソースとトンカツソースと思い込んでしまった。それで、まず「ウスターソース」の方をキャベツとカキフライ全体にまんべんなくかけ、ついでトンカツソースをカキフライにだけかけた。
カキフライを一口食べてびっくり。ソースと醤油が入り混じったなんとも珍妙な味。そう、ウスターソースではなく醤油だったのだ。ぼくは醤油の解き放たれた塩気が苦手だ。醤油は、いくつか特定のものにつけると、塩気が解き放たれる。寿司のネタにつけても平気だが、シャリにつけると解き放たれる。てんぷらにかけても平気だが、フライにかけると解き放たれる。キャベツにかけても解き放たれる。というわけで、解き放たれた塩気相手に格闘するはめになってしまった。しょっぱい。フライの中のカキそのものはクリーミーでとてもおいしかった。
歩き始める。駅を出たのは西口だったが、ガード下をくぐって東口に出た。日の出町団地のあたり。
荒川のすぐそばにおそろしく古びたアパート。郵便受けの上に同じくらい古びた大型のラジカセが置かれている。カセットのところに写真のようなものが見えたので、昔なつかしいアイドルのテープかと思って近づいてみたが、風俗店のちらしだった。
東武の牛田、京成の関谷、向かい合っているのにまったく違う駅名。しかもどちらも現在の町名千住曙町とはかけはなれた名前だ。その間を通り抜けて、隅田川沿いの公園に出る。ちょうど天狗の鼻のように湾曲している鼻先の部分だ。取り壊しを待っているかのような古びた建物が、妙に静まった川面の向こうに見えた。灰色の空との取り合わせが、荒涼としていてよかった。しばし、足が凍りついた。
綾瀬橋を渡って墨田区へ。目に見えない氷の粒がときどき顔にあたるようになってきた。さらに白髭橋を渡って台東区。清川の商店街をまっすぐ歩いたら、吉原大門(ちなみに「おおもん」と読む)にぶつかった。ソープの客引きの呼び声をかいくぐって吉原を通り抜けるのは勘弁なので、道をずらすことにした。飛不動の方をまわって、下谷、上野方面へ。両大師橋へ続く坂道をのぼって、上野公園。
上野の森美術館でやっているMoMA展を見ようと思っていた。もうとっぷりと暮れて人気の少ない公園内。この調子なら空いているかなと思って近づいてみたら、長蛇の列。それでも30分、40分なら待とうと思ったが、確認すると90分待ち。雪が降り出しそうだし、今日はあきらめた。平日に早く仕事を上がる日を決めて、来ることにしよう。
散歩は上野までで、10.9km。そんなに歩いたのか。
蒲田に着いたら、みぞれになっていた。

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