仕事に行くはずだったが、起きたら昼過ぎ。気力が萎えてやめてしまった。
鉄亜鈴のように重い雲、今にも降りだしそうだ。だが冷たい空気が気持ちいい。
横浜へ。それにしてもすごい人だ。渋谷もすごいが、向こうは駅に吸い込まれる人と、駅から吐き出される人の放射状の流れだ。こちらは駅の中やまわりをうろうろする同心円状の流れ。
昼食。横浜で食事をするなんて何年ぶりだろう。ジョイナスの地下の“TO THE HERBS”という店に入る。ハーブサラダガーリックのパスタを注文。もっとサラダたっぷりというものを想像していたが、パスタの上に奇妙な形の葉っぱが四、五切れ乗っているだけ。ちょっぴりさみしい。
隣の席に座っていたのは、若い男とかなり年配の女性の二人連れ。親子といってもおかしくないほどだが、それほど親密なわけではなく、かといってビジネスライクというわけでもない。女性の方が仕事上の悩みの愚痴をこぼしているし、相手を「ジュン君」と呼んでいる。つまりは友だちということなのだろうか。友だちになるのに世代や性別は関係ない。
さあ、第二回目の横浜散歩のはじまり。ビックカメラやダイエー、東急ハンズの通りをいく。こちらも人でごった返しているが、東急ハンズを越えて信号を渡ると、舞台が終わったあとの劇場のように人が消えうせた。岡野公園。まだ「散歩」という形で意識的に歩き始める前、あの先はどんなところなのだろうという、単純な好奇心からたまに街を歩くことがあった。そんなときここにきた記憶が残っている。
橋と大きな道路ひとつずつ越えて、横浜に続く道とはおさらば。天王町に向かう。右手に巨大な岩のようにようにほぼ垂直に近い崖がそびえたっている。誰かがいたずらで置いたように唐突な感じがした。崖上には建物があって、あそこにも人が住んでいるのかと小さな驚きを感じる。
いきなり松原商店街という商店街に入る。とてもにぎわっていたので、もう駅が近いのかと思ったが、道路を渡って実際に駅に近づくと逆に人通りが少なくなった。
天王町。田中麗奈主演の『東京マリーゴールド』のラストで、元気を取り戻したエリコ(田中麗奈)が法事でやってくる街がここ。橘樹神社など、ちゃんと映画に登場した街並を確認することができた。思ったよりさみしかったが。
星川方面の天王町サティまで寄り道をして、相鉄の線路を渡って、また戻ってきた。公園の前を通ったら、野球のボールが転がってきた。そういえば、『東京マリーゴールド』でも、エリコは、いろいろな人が次から次へと野球のボールを投げてキャッチしていくCM(自分自身も出演している)を見て、元気づけられたのだった。ぼくも、ちゃんと投げられるか心配だったが、ボールはなんとか前に飛んでいった。
藤棚の商店街に入る。商店街のなれの果てという感じでとてもさみしい。ここにもまた右手に急峻な崖があった。どこからも昇る道は見えず、まるで秘境のようだった。地図で見ると、どういうわけかそちら方向に進む道が全然見あたらず不思議に思っていたが、実際に来てみてわけがわかった。
商店街が商店街らしいにぎやかさを取り戻す寸前に右に曲がる道があった。このまま商店街を進み続けるかどうか迷ったが、秘境の魅力には逆らいきれず、曲がる。だが石段を登ってたどり着いた先はごく普通の街並。ちょっとがっかりしながら公園の脇を通り過ぎていると、公園の向こう側、家と家の間に垣間見えたのは…
そばに近づいて、オペラ劇場の二階席のようなところから見下ろした。広大な墓地。丘陵の斜面に隙間なく墓が埋め尽くされて、エッシャーの『カストロバルバ』という作品みたいだった。向こうは街、こちらは墓だが。なんだか感動的な風景だった。
また藤棚の商店街に戻った。さきほどと同じ通りとは思えないくらい、にぎわっている。まっすぐまっすぐ。名前は変わるがにぎわいは続く。今度は商店街が尽きるところまでつきあった。
ランドマークタワーが文字通りランドマークとなってそびえていた。見上げていると、なんとなくそいつを目指さなければいけないような気がしてきた。掃部山公園をつっきる。紅葉のときにきたらとてもいい感じだろう。
ランドマークタワーのふもとに到着。特に何をするわけではなく、そのまま散歩続行。汽車道を通って、レンガ倉庫、そしていつのまにやらできていた開港の道という遊歩道を通って山下公園へ。夕闇に暮れる海がとても美しい。
ここまで来たら、中華街に寄らないわけにはいけない。中華料理が特別好きというわけではないが、中華街は大好きだ。今日はすごい混雑。このまま人波にさらわれてしまいたかった。
石川町まで10.8km。

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