ちょっと蒸し暑い日。
恒例となりつつある横浜散歩、今日は山手から歩き始める。
山手という名前の通りこのあたりの地形は起伏に富んでいるのだが、どういうわけか駅前の商店街だけは平坦にまっすぐ伸びている。とりあえずはその道をゆく。
その道が突き当たったのは、横浜名物の「崖」。運良く、すぐ脇に階段があったので登ってみると、三分かからずに出来上がるインスタント絶景。崖沿いにへばりついているように見えたアクロバティックな建物はこちら側から見れば普通の住宅だ。そして墓地。もう外人墓地に着いたかと唇を薄くして笑ってみたが、妙香寺という寺の日本人向けの墓地だった。名前に反して妙な香りはしなかった。
道はなだらかに下ってゆく。ふと右手に風情のある階段。はるか頂上に見える木々の緑が気になった。一気に駆け上る。その先は公園になっていた。そんなところに公園があることをまったく予想していなかったので、ちょっとできすぎのような気がした。遅れて出てきた汗を抑えるため、ベンチで休憩。
公園を出ると、フェリス女学院、カトリック山手教会など蒼々たる名建築が立ち並ぶ。さらに進むとベーリック・ホールというイギリス人貿易商の邸宅跡が無料で公開されていたので、入ってみることにした。靴を脱いでスリッパにはきかえる。まるで高級ホテルのようなたたずまいにうっとりした。時には、招待はされたものの場にとけこめずにいる客を装って、退屈げに窓から外を見てみたり、あるいは物件を見にきた客のように収納スペースを確認して、満足げに指をすべらしたりしてみた。ああ、こんな家に住めたら。
外人墓地を直にこの目で見るのははじめてだった。思ったよりずっと狭く感じた。隣にいた男がロバの仮面をかぶっていて大いに驚いたが、よく見るとホームビデオで撮影している仲間がいる。作品を撮っているというより、何かの罰ゲームといったほうが適当な感じだった。
観光地コースに忠実に港の見える丘公園へ。繰り広げられる港の風景を見て、ベイブリッジが出来てからここに来るのがはじめてであることに気がついた。いつの間にかかなりの時間が過ぎさってしまった。
フランス山と名づけられた方に分け入ってみると、広場の中央に母子像。たくさんの花束を抱かされている。その中に手紙が添えられていて、事故からもう二十五年たって、はじめてこちらを訪れました。ますます子供にとっての環境は悪くなっています。Aさん、Bちゃん、Cちゃん、というように実名をあげて、呼びかけるような調子だった。何があったのだろう。
山をおりて元町へ。チャーミングセールの最終日ということですごい人手だった。歩いているだけで楽しくなる。
石川町の駅を越えて橋を渡ると別世界だった。寿町と呼ばれる街。仕事にあぶれた男たちがしょぼくれたようにに地面に座り込んでいる。というより人生からあぶれているのかもしれない。きょろきょろと旅行者の視線で見ていたら、いかにもその筋というスキンヘッドの男と視線があいそうになった。あわてて目をそらす。日雇いの斡旋業という店が軒を連ねているようだが、名前が~組だし、区別がつかない。圧巻は、小便用便所。雨水を流すための普通の側溝のまわりにベニア板がはってあるだけだ。まわりが緑色に変色しているのが妙なリアリティを伝えてくる。
伊勢佐木町まで歩いた。昼食がまだだったので、大戸屋で、きのことハンバーグの定食を食べた。茄子、サツマイモなど秋の味覚がいっぱいついていておいしかった。
隣のスターバックスへ。なんと6時からライブ演奏があるとのこと。時計を確認すると五時四十分。読むための本を持ち合わせていなかったので、CLIEの中に入っていた英語の詩を読んでいた。時間をつぶすときにはとても便利だ。
ライブがはじまる。ベース、ギター、フルート、ピアニカの四人編成。フルートを演奏するのはエキゾチックな顔立ちの若い女性だ(ほかは若い男性)。音楽はボサノバが中心。かっこいい、すばらしい演奏で、時がたつのも忘れて聞きほれた。至福の時間だった。そのグループを紹介したという声楽家出身の先輩(女性、そこのスタバでバイトをしているそうだ)が歌で参加した。ふだんのしゃべりはアニメに出てくる鳥みたいな声なのだが、歌となると朗々とつやっぽい声になる。どこから声を出しているのだろう。グループの名前はアコースティックラボ。いつもは銀座のレスストランで演奏しているらしい。また彼らの演奏を聞きたくなった。
気分がよくなったので散歩延長戦。野毛の方から老松町の路地の迷宮のような路地へ。迷ったら抜け出せなくなりそうだった。
なんとか戸部までたどりつく。7.9km。

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