雨なので、冷たい雨なので、散歩はやめて、美術館と映画館の日にすることにした。持ちなれないカサをもって出かける。
東京駅地下の名店街に新しくできたカレー屋サンマルコに入ってみた。冬野菜カレーを注文。まず、カウンターの中でライスとルーを盛ってから、奥の厨房の中で具をいれるという手順。ライスの量ははかりで計っていた。ルーが煮詰まってちょっと塩辛くなっていたのもあるが、ぼくとしては東京駅のカレー屋ならアルプスをおしたい。
東西線乗場への通路の工事が終わって、本通路が開通していた。仮通路の間は3段下がって3段上がるというようなバリアたっぷりだったが、今度はずっと平坦だ。だがその先にくだり階段があるので(エスカレータは上りのみ)、結局はバリアフリーにならない。
大手町から一駅だけ乗って竹橋でおりる。東京国立近代美術館へ。実ははじめてだ。今日見るのは『現代美術への視点 連続と侵犯』という美術展。「近代」美術館だが、実は現代の作品の展覧会を多くやっているようなのだ。これからウォッチすることにしよう。
順路らしい順路がなく自由な順番で見る構成だった。見た順に書いていくと、まずジュリアン・オピー。壁一杯の大きさ、二枚(あるいは三枚)一組の壁紙という形で、片方が自然で片方が人の顔。人の顔には鼻筋がなく鼻の穴だけというイラストレーション的な画風。波の音、鳥のさえずり、バンブーミュージックなどの音がどこからか聞こえてくるので、ほかの展示の音がこちらまで漏れているのかと思いきや、実はそれを含めて作品だった。
次はロニー・ホーン。ひとりの少女の顔だけを100枚写したもの。それだけ並べられるとそれぞれの表情の違いがより際立ってくる。楽しい表情をみてると楽しい音楽を聞いているような感じがするし、悲しい表情をみていると悲しい音楽を聞いているような感じがする。でもそういうはっきりした表情よりも、深く訴えかけてくるのは、微妙な、なんとも言い難い表情だ。出口にたどりついてしまったので戻る。
青木淳。壁と壁の間の空間が色とりどりにデコレートされて照明があてられている。そこは通路になっていて中に入っていける。それが作品だ。裏側というのは表をつくることによりおまけのようにできてしまうもので、普段は注目されることのないものだが、そちらが実はメインというのがおもしろい。実際通路の奥には絵が数点展示されていたりもするのだ。裏だったのがいつのまにか表になるというメビウスの帯のような効果をねらっているらしい。こういう歩くことによって作品を味わうタイプのアートは、廃墟のように床が崩壊した場所を歩く作品に続いて二つ目だ。いわば散歩アート。というより美術館の展示室全体がアートといってもいいのかもしれない。
遠藤利克。ガラスとか鏡とかがそのまま壁にたてかけてあるだけ。低くうなるような音が聞こえる。コイルに50Hzの交流電流が流れて起きる振動を増幅させたそうなのだが、その音をきいていると巨大な工場の中にいるような感じがしてなぜだかとても落ちついた。
ロン・ミュエク。実物の二倍くらい巨大な赤ん坊の像。細部までリアルでまじまじと見つめてしまった。視線をあわせると不思議な気持ちになった。
高嶺 格。ビデオ作品。クレイアニメーションの手法で、巨大な顔面が“God Bless America”を歌いながら、ユーモラス、ときにはグロテスクに変形していく様を映し出しているのだが、おもしろいのは、製作者のカップルが同じ部屋の中で寝起きしながら作業している様子も収められていること(超早送り)。食事をしたり、友人を招いたり、抱き合ったりしている。
イリヤ&エミリア・カバコフの作品を見るには外に出なければならない。入口の脇の庭に囲いがあって、据え付けてある階段をのぼって、その中を除くと、羽の生えた巨大な人間が倒れているのが見える。できれば何の予備知識もなく見て、驚いてみたかった。
実は毎月第一日曜日はもうひとつの展示「開館50周年記念コレクションの歩み」が無料公開されるとのことで、ついでに見たのだ。といっても閉館まで20分しかなく、文字通り駆け足だった。最初は、西洋絵画の模倣で、題材だけ日本というものばかりだったが、現代に近づくにつれてユニークなものが増えてきてとても面白かった。今度また時間をかけて見たくなった。
閉館間際、美術館を出る。実は5時から渋谷で映画を見ようかなという気がないことはなかったのだが、時間に追われながら美術を見るのもばかばかしいので、考えないようにしていた。でも、結局時間に追われてしまったし、映画にも間に合わない。雨は降っていなかった。結局カサはいらなかったようだ。この調子なら散歩もできそうだったが、あえて映画を選んだ。次の回はおそらく7時過ぎからなので、ゆっくり渋谷に向かうことにした。
東西線で一駅先の九段下で半蔵門線に乗換えようとするが、同じ営団なのにいったん改札から出なければならない。せっかくなので駅前のスタバ(休日はいつもすいているので好きだ)に入るがどういうわけか今日に限って満席。おそらくは武道館の客だろう。しかたなく、暗い川べりの小公園の花壇の縁に腰掛けてコーヒーをすすった。
渋谷到着。本屋で時間を確認したら次回上映は7時20分。まだまだ時間があったので、そのへんをぶらぶら。Three Minutes Happinessという雑貨屋みたいなところに入ってみたり、東急ハンズにいったり。肝心の映画館(シネマ・ライズ)の場所を把握してなくて、ついでに探そうと思っていたが、なかなか見つからない。記憶の糸をたぐって、あの辺に確か映画館があったなという場所を引き寄せて、ようやく発見。パルコのすぐ前だった。日曜日の最終回の上映は1000円ということで、またしても得をした。ちなみに見ようとした映画はUA、浅野忠信主演の『水の女』。
空気の悪い地下のロビー。行列の中で確保したささやかな場所。それがぼくの全財産ならそれでもいいや。そんな気がした。

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