靴が鳴る

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室内から聞く雨音は激しければ激しいほど気持ちいい。それに、激しければ、一種のあきらめのような感情がうまれて、雨そのものを許せるような気がする。そんな雨音を聞きながらいつも以上にうだうだしていたが、音がフォルテからメゾピアノくらいに落ち着いてきたのと、時間も3時半を過ぎたので、重い腰をあげた。雨なので、今現役のスニーカーではなく、ひとつ前にはいていたナイキのエアモックをはいていくことにした。

東京都現代美術館にいこうかと思っていたのだが、駅までいく間にほとんどカサがいらない程度に天気が回復した。予報では明け方まで雨が続くはずなので、その状態がそのまま続くと思い込んだわけではないが、実際に歩く一、二時間の間くらいやんでいるという希望をもたない理由は何もなかった。というわけで、渋谷に向かう。なぜ、渋谷かというと、今日は夜から下北沢で芝居を見る予定なので、散歩するならできるだけ近いほうがよかったし、もし散歩できないとしても渋谷なら何かとつぶしがきくからだ。

渋谷に着いたら、とても微妙だった。ある瞬間にはカサなしでも平気だが、次の瞬間にはカサが必要になっている。いつまでも立ち止まって考えてはいられないので、意を決して歩き始めた。そのときカサは必要だった。道玄坂を中ほどまでのぼったところで、急に雨足が強くなった。でも、そのまま散歩を続けることをためらわせたのは、その雨のせいというより、まとわりついてくる湿気のせいで体に力が入らないせいだった。道玄坂をのぼりきったところで、左に曲がって駅前のロータリーを目指す。そうしている間に雨は小降りになったが、もう渋谷を歩く気分ではなかった。

井の頭線で明大前か永福町までいって、そこから下北沢まで歩こうかとも思ったが、時間はもう5時過ぎ。芝居は7時からなので、実質1時間しか歩けない。中途半端に欲求を解消するよりは、解消しないで明日のためにモチベーションを高めたほうがいいと思い直し、下北沢でおりてしまった。

まだまだ時間はたっぷりあるので、西口でおりて、とぼとぼ歩く。さっき渋谷でもそうだったが、まるで病み上がりの人のようにとぼとぼだ。湿気にはほんとうに弱い。

そうしてとぼとぼ歩いている間に、左の靴が地面から離れるたびにピーというような情けない音をたてることに気がついた。まるでタラちゃんのようだ。多分誰も気にしていないと思うが、でも視線が気になる。

なんとかスタバにたどりついて、コーヒーを飲んでいるうちに、ようやく人心地がついてきた。ちょっと元気を回復して、三省堂、ヴィレッジ・ヴァン・ガードと本屋をはしご。ヴィレッジ・ヴァン・ガードで体重計が目についた。うちにあったのが壊れて最近全然計っていないのだ。最近、カロリー過多気味なので体重計に乗るのがちょっと怖い。結局何も買わなかった。

千草という定食屋で食事。厚揚げとチンゲン菜のピリカラ煮というのを注文したが、ピリどころでなくかなり辛い。汗が出てきた。650円。

ぶらぶらと劇場へ。スズナリだ。今日観るのは岩松了プロジュースの『傘とサンダル』。サンダルははいていないが、今日の天気にぴったりだ。そういえばぼくがスズナリに行く日は必ず雨が降るというジンクスがある。劇場に入る前はそんな様子が全然なくても、出てくると地面が濡れているのだ。

1時間半で芝居が終わり、外に出ると、当然のように雨は降っていた。といっても軽い雨なので、三軒茶屋まで歩くことにした。

風が強くて、透明の空っぽのカップがどこからか吹き飛ばされてきた。車道の真ん中に落ちたところをちょうど車が通りかかって、踏んづけられてぺちゃんこにつぶれて、そのまま動かなくなった。それは単なる変形に過ぎないのだけど、あたかもひとつの命が奪われたように見えた。

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