山手線の中で白人二人組がギターと横笛のセッションをやっていた。横笛の音はノスタルジックな感じがしてとてもよかったのだが、ギターの男のカントリー風のボーカルは余計だった。ちょうど山手線の一駅ごとに一つの曲を演奏する。品川と大崎の間は少し長めの曲、大崎と五反田の間はワンコーラスだけの演奏だ。笛の音が聞こえなくなったと思ったら、笛の男が帽子を手に持って乗客の間を集金にまわってきた。電車の中のような密閉された空間で選択の余地なしに音楽を聴かせておいて、お金をとろうとするのはちょっとちがうような気がする。
井の頭線の高井戸から歩き始める。今日は下北沢で芝居を観ることになっているので、都心方向を目指す。
夏がきていた。意地悪な湿気をまとわないやさしい夏。暖かい空気が陽に照らされたアスファルトから垂直にたちのぼり、水平な風がそれをおだやかにかきまぜる。午後の眠りから目覚めないさびれた商店街を通り抜けると、バイクすら禁止の細い道。それはグラウンドに通じていた。
中央高速をくぐると住所がいったん上高井戸に変わり、すぐ上北沢に変わる。世田谷区突入だ。ほとんど上北沢の駅近くまでいったのだが、八幡山の駅前までもどって、松沢病院の前の道をゆく。広大すぎて、低い塀と植え込みの木に目隠しされた風景が延々と続き、まるで時間が全然流れていないように感じた。耳元の音楽の変化だけが時間の経過を告げる。
工事中の桜上水交番からまたどこかのグラウンドに沿った道へ。中距離走の練習中らしく、ランナーが通り過ぎるたびに、大声でラップタイムを読み上げている。いったん赤堤通りに出るが、自分がどちらに向かっているかよくわかっていなかったので、すぐに離れる。やがてまたまたグラウンドにたどりつく。ここでも陸上の練習中だ。どこもかしこもと思いかけたところで、ラップタイムを読み上げる声に気がついた。左右が逆なので気がつかなかったが、また同じところに出てしまったのだ。
気を取り直して、時間も時間なのでそのまま最寄の下高井戸まで歩いた。8.3km。
下北沢に向かう。着いたのは6時過ぎ。まず、芝居のチラシを入れるのに袋が必要なので、ピーコックの上の三省堂で雑誌『散歩の達人』を買った。あまりに喉がかわいたので食事の前にスタバで潤す。それから食事。このところの下北沢ディナーの定番千草という定食屋でスタミナ冷シャブ定食。サラダの上に冷シャブが置かれ、ピリカラのソースがかかっている。800円。
7時10分前に劇場にいったら、まだ開場していないといわれて驚いた。チケットをよくみると芝居は7時半からだった。それならもう少しのんびりできたのに。ヴィレッジ・ヴァンガードで時間をつぶす。
10時前に芝居がはけて、またヴィレッジ・ヴァンガードへ。目をつけていた、サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』を買った。

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