仕事をしていて川崎を出たのが6時過ぎになった。たちの悪い病気にかかったように時々刻々青くなっていく空。風はさわやかだったが、秋の終わりのようなさみしさをはらんでいた。でも、人生が終わりだと思った瞬間に実際に人生が終わってしまうのとうらはらに、一日が始まると思った瞬間に一日は始まる。
行き先の候補は大きく3つあった。まずは、せっかく川崎にいるので、南武線沿いの川崎市郊外。だが、今からでは真っ暗な住宅地を歩くことになってしまうだろう。あるいは、近所の六郷、糀谷あたり。これも商店街が閉まり始める時間で、裏さみしい気分を味わうことになってしまいそうだった。残ったのが、山手線沿線の繁華街。結局のところ渋谷で電車をおりた。
まずは食事。京うどんの店、夢吟坊でかき揚げ丼を注文。ミニうどんもついてくるので、おなかいっぱい。980円だった。
ブックファーストとパルコの前を通るいつもの渋谷巡回コースを寄り道せずに通り過ぎ、そのまま散歩に突入。公園通りをゆく。ちょうどコンサートがおわったばかりのようで、原宿の駅に向かう人で歩道橋の手前が渋滞になっており、しばらく足止めされてしまった。歩道橋の上か下あたりですれちがった男のつぶやいたどうでもいいような言葉が、なぜかしばらく耳に残った。それはほんとうにどうでもいいことだったようで、今思い出そうとしてもどうしてもできない。
表参道。同潤会アパートの周りには防音壁がたてられ、ほとんど取り壊しはおわっているようだった。今まで隠れて見えなかった、裏手のビルの3階くらいにある美容室が恥ずかしそうに光っている。
新しくできたプラダのビル。壁面が、昆虫の複眼のようにたくさんのひし形のガラスを組み合わせてできている。どれも少し乱視気味で、中の人たちの姿がいびつに変形して見えた。
墓地沿いのさみしい道。闇を透かして見てみても生きている人間以上に恐ろしいものなどどこにもいない。
目の前に浮かび上がる太巻のような形のビルが、六本木ヒルズだと気がついた。もう8時を過ぎていたので、中に入れるかどうかは心もとなかったが、とりあえず麓まではいってみることにした。
さすが夜の街六本木。六本木ヒルズはまだまだ閉まる気配を見せていなかった。むしろ、ちょうどいいくらいのにぎわいだった。完全に不案内なので、水族館の魚のように敷地内を回遊する。といってもそういうところでぼくが用があるのは本屋くらいのものなので、4階にあがって有隣堂へ。本格的な本屋というより、本屋の雰囲気だけを漂わせたこじんまりした空間だ。記念に吉田修一の『熱帯魚』を買った。
今まであった雰囲気のいい小道がつぶされて幅広のショッピングストリートになっていた。自分がどこに出たのか、家に帰って地図を確認するまでわからなかった。そのまま麻布十番へ。スタバで休憩。
麻布十番を通り過ぎ、なおも散歩続行。東京タワーが夜を照らす巨大な行灯のように輝いている。パトカーが停まったりしていてものものしいと思ったら、すぐそばに外務省があった。なんとなくほかの省庁と同じく霞ヶ関の方にあると思い込んでいたが、こんなところにあるとは意外だ。まあ、各国大使館が集まっている場所ではあるのだが。
散歩は浜松町まで。8.2km。

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