非・雨の日

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そろそろ出かけようかと思ったら、窓の外の雨音に気がついた。さっき曇りだと確認した予報をもう一度開いているみるといつの間にか「曇り」のあとに「ときどき雨」が追加されていた。

雨音が聞こえなくなるのを見計らって外に出てみたが、まだぽつりぽつりと降っている。仕方ないと腹を決めカサをもって出ることにした。ところが一歩進むごとに雨足は弱まっていって、駅までの道の三分の一くらいのところでついにはカサがいらないくらいになってしまった。さあ、どうしよう。このまま一日中何かの呪いのように重いカサをもって行動するか、あるいはカサを置きに戻って身軽になるか。雨の日にカサをもつのはあきらめがつくが、今日は「雨の日」ではなく、よくわからない間の悪さで今たまたま雨が降っているだけなのだ。そんな日にカサと連れ立っていくのはいやだった。何より失くす確率が高い。というわけで戻る。

しかし、身軽になったぼくが駅に近づいたとき再び雨が降ってきた…。

京浜東北線の車内では半径10mに響き渡りそうな音量でヘッドフォンステレオを聞いている若い男がいた。一瞬の静寂が訪れて、男はポケットからごてごてとした巨大なカセットタイプのウォークマンを取り出してテープのA面とB面を逆にしたのだった。カセットテープ用のウォークマン、しかもオートリバースでないタイプのをいまだに使っている人がいるのは想像できることではあるが、あらためて出会うと物珍しい。つい非常識な音量で聞いていることと結び付けたくなってしまう。そんな音量で聞いているからいまだにMDも買えないんだよとか。

電車の中から見下ろした渋谷ハチ公前の交差点は、カラフルなカサが縦横無尽に交差してとてもきれいだった。雨の様子をみながらとりあえず新宿に向かう。体調をこわしたばかりだし今日はいずれにせよ本格的に歩く日ではなく、半ば休憩の日だ。

まずビックカメラへ。購入を検討しているポータブル音楽プレーヤーをみてみる。東芝のGigaBeatがようやく売っていた。重さ、大きさは申し分ない。だがライバルのiPodと比べるとユニークさというか、これが欲しいと思わせる何かが欠けているような気がした。

見るだけ見て外に出た。雨が上がっていたので、軽く歩くことにした。小滝橋通りから左斜め前方に伸びる道にわけいる。住所が西新宿から北新宿に変わる。北新宿というと無味乾燥に聞こえるが、昔は柏木と呼ばれていた。新宿のすぐそばだが静かで落ち着いていてしかも着飾っていない街だ。いわゆる下町という地域は一歩繁華街から抜けるとさびれを感じて「外に出た」という感じを味わうものだが、このあたりは「奥に入る」という感じがする。

大久保通りの脇の青果店は梶井基次郎の『檸檬』に出てくる店にそっくりだった。「眼深に冠った帽子の廂」のような廂、「いくつもの電燈が驟雨のように浴びせかける絢爛」…。ちゃんと檸檬もおいてあった。

北柏木公園で絵の入ったおもしろい立て看板をみつけた。目隠しをして友だちに手をひいてもらって最初にさわった樹を「自分の樹」にして、季節とともにどのように変わっていくか調べようというものだ。鈴木京香あたりに「さあ、もう目をあけていいいわよ。それがあなたの樹。あなたの分身よ。これからあたなは毎日この樹を観察するの」といわれているところを想像した。

裏道ばかりを選びながら小滝橋に出た。蛇行しながら神田川の下流方向に向かう道を選ぶ。その道に入ったばかりのところにある家の窓。窓に接するように水槽が置かれているようなのだが、水槽の中の魚が影となって厚い曇りガラスの中を泳いでいるようにみえた。

橋を渡ると心ならずも下落合の駅に出た。坂道はのぼりたくないし車の通りの激しい新目白通りもいやなので、その間にある蛇行する道をぼくも蛇行しながら進む。

山手線のガードにぶつかったところで選択。まっすぐいけば都電の学習院下、左に曲がれば山手線の目白。後者を選んで散歩は終わり。ちょうど1時間、距離は4.8kmだった。

新宿に戻って今度はヨドバシカメラ。ビックカメラとほぼ同じ価格。決断する前にまずは心を落ち着けて食事だ。うどん屋三国一で、ツナサラダうどん。マヨネーズとしょうゆベースのドレッシングがマッチしておいしい。税込み950円。

結局、ビックカメラでiPod 20GBモデルを買ってしまった。USB2.0接続ケーブルも買ったのであわせてちょうど5万円くらいだ。定価販売だし、ポイントも5%しかつかないのだが、なんかひかれるものがあったのだ。

代々木のブックオフにいってみたがかなり狭い店だった。そのまま代々木から電車に乗り込む。来た電車が大崎止まりだったので、また五反田でおりることにした。行き先はまたしてもブックオフ。この間『タイムクエイク』を買うのをあきらめて結局新刊書店で買ってしまったばかりだというのに今度は何を探しているかというと、やはり家にあるはずのなのに見当たらない本だったりする。本に関しては金離れはいいほうだが、やはり同じ本を何冊も買うのはためらわれるのだ。

結局五反田店にもなかった。めんどうなのでまた新刊書店で買ってしまうことにした。あたりを見渡せば、西五反田のあたりには中規模の書店がいくつかかたまってあることに気がついた。明屋と書いて「はるや」と読む店、あゆみブックスというできたばかりらしい明るい店、そして規模では最大のあおい書店。ぼくの目当ての本はどの書店にもあった。結局、あゆみブックスという店で買った。三冊目の『森の生活(ウォールデン)』だ。今度こそ最後まで読むぞ。

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