掃除と散歩

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どういうわけか何かを買うと部屋の掃除がしたくなる。部屋の中に新しい物をいれたり、入れ替えたりするわけだから、そのまわりの部屋の状況に目がいくのはある意味あたり前のことかもしれない。昼過ぎに起きてから、がたがたあちらのものをこちらにまとめたり、「隙間」に掃除機をかけたりしていたが、混沌と綿ぼこり、そして圧倒的な「もの」に支配されたこの空間を平定するには生半可な努力では無理だということに気がついた。途方にくれそうになったところで、いったん中断し、外に出ることにした。カーテン漉しに差し込む陽射しがもったいなかったのだ。

今日はある程度本格的に歩こうと思って、渋谷から京王線、そして明大前から京王線に乗り換えた。多摩川を渡ることも考えたが、もう時間も時間なので、穏当に府中で降りることにした。歩きはじめたのは4時過ぎだ。国分寺へ向かう国分寺街道から一本脇にはいった道をひたすらまっすぐ。山谷通りというらしい。農工大の広大な農場の脇を通って広い道に合流した。

しばらく学園通りをゆく。農工大の敷地内から草の匂いが湧きあがってくる。どこか薬品のような匂いだ。商店街の旗を見つけてそちらに曲がってみるが、どの店もシャッターをおろしていてさみしいことこの上ない。医療少年院の脇の道。何度か曲がって野川にぶつかる。

歩きはじめに東に寄って、そのあとは北西の国立の方を目指しているつもりだったが、コンパスがいつのまにか90度狂っていて、小金井の方を向いていた。野川沿いの道。先を歩いていた白髪の年配の男性が、手を空に向けて広げていた。月の使者の迎えを待つかぐや姫のようなポーズだ。迎えは現われず、代わりにぼくが追い越した。

新小金井街道に出た。北上すると階段があって、上った先が小公園のようになっている。もうかなり暗かったのであれだが、昼間来たらいい感じだろう。中央線のガードをくぐって、線路沿いに武蔵小金井を目指す。距離的にも時間的にも全然歩いてないが、もう疲れてしまった。おまけに空は真っ暗だ。6.1km。

ラッシュ時並に混みあった電車に乗って吉祥寺へ。まずは食事。前々から気になっていた井泉というトンカツ屋に入ることにした。地下の奥まったところにあるので、比較的安価な街の食堂に毛が生えたような店を想像していたが、あにはからんや、上野に本店がある老舗の支店だった。値段もそれなりに高い。ヒレカツ定食が1600円だ。その下になると1000円。間がない。1000円のを頼みたいところだが、それではこの店の本当の味を味わったことにならない気がして、あえて1600円のヒレカツ定食を注文。トンカツの味は、肉がかたくて汁気がなくボリュームだけが売りというレベル、チェーン店等でとりあえずそれなりにやわらかく満足できるレベル、ひとくちごとに肉の味がしみでてくるレベル、と明確に3つのレベルに分かれるが、ここはさすが一番最後の最高のレベルだった。

ぼくのあとから入ってきた家族連れの会話をちょっと小耳にはさむ。奥さんの方が一方的に話していたのだが、どこかで毎日とか日をおかずに連続して油絵の肖像画を見る機会があり、毎日少しずつ、表情が変わるので、本当の絵というのは生きているみたいですごいなどと思っていたら、実は絵の具が乾ききっていなくて、少しずつたれていたそうだ。

東急裏の方をぶらぶら。タリーズに入ったり、タワーレコード、ヴィレッジ・ヴァンガードをひやかしたり。

新代田に出て、バスに乗ることにした。やけに乗客が少なくて、大森で降りたのはぼくだけだった。廃止されると困るのだが。

さて、帰ったらまた掃除だ。標語。ひとつ捨てればひとつ自由になれる。

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