冬なんて遠い世界の出来事のような気がしていたが、ドアを開けたら、明るい陽射しの向こうに厳しい冬がいた。
なんとなく新横浜にいこうかと思っていたが、いざ駅についたら気が進まなくなって反対方向の電車に乗っていた。幾多の迷いを乗り越えてたどり着いたのは原宿だ。
代々木公園の中へ直行。公園の中はそれなりにカメラに収めたくなるものが点在しているので、ウォーミングアップにはちょうどいい。こんな感じで撮ればカッコいいんじゃないかというアイディアが次から次へとまではいかないが、ある程度の間隔をおいて浮かんでくる。しかし、なぜかどのアイディアも構図的に実現不可能で、妥協しながらシャッターをきった結果、ガラクタの写真がメモリーカードの容量を消費してゆく。
公園を出ると小田急線の線路沿いに、春の小川の歌碑がある。意外なことにこのあたりを流れていた小川のことを歌ったものらしい。「春の小川はさらさら流る」と文語調で、確かぼくが子供のころには「さらさらゆくよ」と覚えたはずだが、子供向けに改竄されていたのだろうか。まあ、いずれにせよ今は冬だし、小川なんてどこにもない。
代々木の高級住宅地を抜け山手通りを渡り、初台のそれほど高級でもない住宅地に入る。渋谷区スポーツセンターから代々幡斎場、大山公園と、一時期よく歩いた道のりをたどる。そろそろどうこの散歩の決着をつけるか決めなければならない頃合になってきて、自然と下北沢が目的地に浮かび上がった。いったん代々木八幡の手前まで戻ってしまったものの、途中で気づいてUターンし、池の上経由で下北沢到着。
食事。洋食屋ウエストの前を通りかかったら、中で上背のある金髪の男が手持ち無沙汰で暇そうにしていた。ここは確か老夫婦二人だけでやっていたはずだが、息子か誰かが手伝っているのだろうか。その代り老夫婦の奥さんの方の姿が見えない。実は、奥さんはどちらかといえばぼくの苦手のタイプで、つい足が遠のいてしまっていたのだが、留守ならば入ってみようかと、そんな気になった。
税込み800円のBランチを注文し終わったら、すぐそばで水を流す音が聞こえて、ドアの向こうから奥さんが出てきた。ぼくは本に目を落としながら苦笑いを浮かべた。
料理が出てきたが、さすがおいしいと思う。金髪の人はタメ口をきいていたのでやはり息子さんだと思うのだけど、ぜひこの味を引き継いでほしいものだ。ところであまり若くもみえないのに、金髪なんて今まで何の仕事をしていたのだろう。下北沢だけに芝居関係かとかいろいろ想像してしまった。
スタバで温かい飲み物を飲んだ後、本屋とかCD屋を形ばかりめぐってみるが、何もありはしない。ただ、本屋で立ち読みした本の中で、川本三郎が今東京の街をきちんと撮っている映画監督は市川準と竹中直人だという意味のことをいっているのを読んで、激しく同意するとともに、それでぼくは彼らの映画が好きなんだと再確認したのだった。
冷たい風に体温を奪われながら隣の新代田の駅まで歩き、バスに乗り込んだ。

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