ヤマダハルオ(仮名)の冒険

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昨日に続いて新横浜にいくつもりで逆方向の電車に乗った。また気が変わったわけでもとちくるったわけでもなく、ちゃんとした成算があってのことだ。そう、品川から新幹線に乗るのだ。

実は昨日の行きの電車の中で思いついたのが、新幹線の切符の販売機の前でテンションが下がってしまったのだ。新幹線からおりた先が新横浜かよ、というような物足りなさの先取りだ。だが、今日こそは乗る、いや乗らねばなるまい。

品川からだと運賃400円に特急料金840円が加わって1240円かかるのだが、蒲田からだと、蒲田、品川間の営業キロが加算されるらしく運賃が480円になる。蒲田、新横浜の通常の運賃290円で計算してくれればお得なのだが、そういうわけにはいかないらしい。ちょっとどきどきしながら改札をくぐり新幹線のホームにおりた。2面4線だが、真ん中の線路は品川始発の列車ができてからのもののようでまだ使われていない。外側に面したホーム際には転落防止用にホームドアが設置してあるのだが、どういうわけか列車到着少し前に開いてしまう。これでは鉄道ダイア混乱マニアの人たちの勇猛果敢なジャンプを防げないと思うのだが。

さて乗った列車はのぞみだ。はじめてののぞみ。今はのぞみにも自由席があるので、乗れてしまうわけだ。座席には座らず、ドアの前の暗い空間で、窓の外を眺めた。動き出す車両、未完が約束された旅情。多摩川を渡るまでは時間がかかったが、それからはあっという間。12分間の旅だった。新横浜到着。このまま乗り続ければ、次は名古屋だということに畏怖を覚える。

遠い場所からはじめて横浜に観光にやってきたヤマダハルオさん(仮名)の気分で街に飛び出す。彼は新横浜=横浜だと思っているという設定。なんだか大した横浜なんて大したまちじゃないな、これならおれの街とそんなにかわらないなどと考えながら、観光客気分で、なんの意味もない写真を撮りまくっている。横浜アリーナを見つけて喜ぶが、中華街も港もどこにも見当たらず途方にくれてしまう。

そんなヤマダさんはほっておいて、ぼくはぼくの道をゆく。町名が大豆戸に変わる。これはかなり難読だと思うが、一応元横浜市民であるぼくには読めてしまう。マメド。まっすぐいくと懐かしい大倉山の商店街にぶつかって、駅の手前から坂をのぼり、サンクチュアリめいた雰囲気の大倉山公園の中へ。また来たよと声をかけたくなる場所の一つだ。

綱島方向を見下ろす坂をくだってふもとの街へ。山に西日が遮られるのでやけに夕暮れが早い。ずうっといくと鶴見川の河原に出た。渡れる橋を探して左右を見透かしたが、どちらも遠そうだった。ただ、右手に鉄板をいくつか並べたような低いものが川を渡してあって、人がたまに通っている姿が見えた。近づくと、それは確かに橋だったが、なぜか両側とも鉄扉がかたくしめられていた。犬を連れたおじさんが向こう岸から橋に近づくのをみていたら、横の柵の間をくぐった。ぼくも負けていられないので、真似してくぐるところまでは問題なかったが、そこから橋の鉄板までは少し高さがあって、股関節をかなり大胆に開く必要がある。これはちょっとつらかった。

渡りきったさきはちょうど鶴見川から早淵川が分かれているところだった。早淵川にしばらくついていくことにした。もう日はとっぷり暮れていたので、カメラはしまって本格的な歩きのモードに切り替える。

早淵川に名残を惜しみ過ぎたが、赤いアーチの人道橋でようやく離れる決心がついた。日吉にいこうと思って、広い道路を渡り坂をのぼった。坂の上で携帯を使って現在位置を確認したらどの駅までもだいたい3kmという場所にいることがわかってかなりショックだった。寒くなってきたし、これはバスに乗るしかないなと思ったが、ようやく見つかったバス停ではたった今いってしまったばかりであと30分近く待たなければならない。

しかたなくとぼとぼと歩きだしたが、周りはどの道もどこにもつながっていなさそうで、まるで世界の果てのような場所だった。街灯のない真っ暗な道の中にぼんやりとバス停が浮かび上がっていて、とてもじゃないけどそっちに進む気にはならなかった。なんかの罠にちがいない。

もっと明るい道を進んだら、そっちにもバス停があって、さっきのバス停とは別の系統のバスが走っているらしく、もうすぐ来るということがわかって安心したのだった。いや、とてもバスが来そうな雰囲気ではなかったのだが、奇跡的に時間通りバスがやってきて、乗り込んだ。バス停の名前は県営久末。「久しい末」。いかにも世界の果て感のただよう名前だ。いつの間にか川崎市に入っていたらしい。散歩は8.8kmだった。

途中、影向寺という停留所があって、アナウンスでは「えいこうじ」とかではなく聞きなれない変な読み方をして、気になったのだが、何と帰りに買った「散歩の達人」という雑誌で、遠くはなれた江戸川区の影向の松に関する記事が載っていて、調べることなく、読み方がわかってしまったのだ。一度も聞いたことのない言葉に同じ日に二度遭遇するとは。ちなみに、読みは「ようごう」だ。

バスは終点の武蔵中原に到着。小杉経由で、自由が丘に出ることにした。

お米屋さんの洋食がキャッチフレーズのGAIAという店で食事。1380円のハンバーグと有頭海老のフライのセットを注文した。無頭海老というのが泳いでいたら気持ち悪いというのはおいておいて、考えたみたら昨日食べたBセットにもハンバーグとエビフライが入っていたことに気がついた。歴史はくりかえす。

ヴィレッジヴァンガードで、そのとき流れたいたCDを買うというミーハーなことをした。Capsuleの“Phony Phonic”というポップな女性ボーカルのアルバム。ついでに阿部和重の『アメリカの夜』の文庫も。

スタバで読みかけの本の残りを読んでしまう。

さて、そのころヤマダハルオ(仮名)はまだ中華街を探してさまよっていた。街灯のない暗い通りにバス停がぼんやり浮かび上がっていたので、そっちに進んでいくと、ちょうどバスがやってきた。「中華街にいきますか?」とヤマダハルオ(仮名)がとぼけたことをきくと、運転手はにやりと笑って「いきますよ」といった。

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