雨・桜・国立

| コメント(0) このエントリーを含むはてなブックマーク

ふだんの年だって特に桜に執着したりはしないのだが、それでも花見を口実に桜の名所を散歩コースに混ぜ込もうとはするものなのだ。今年に限ってはそういう気持ちにまったくならず、最近読んだ小川洋子『密やかな結晶』の舞台となった島の住人のように「桜」というものの存在がぼくの心の中から消え失せたようだ。外に出れば桜は否応なしに目に入るが、そういうときに生じるはずの狂気を数千倍に希釈したような感嘆はどこからも湧いてこなかったのだ。

それでもやはり桜を見ておかなければならないと思ったので、季節が逆戻りしたかのような冷たい雨にもかかわらず、国立に出向いたのだった。雨の大学通り。雨足はかなり強く、風も冷たいので、一瞬来たことを後悔したが、ここまできてただ引き返すわけにはいかず、それだけの理由でぼくは足を踏み出した。

大学通りにあるのは純粋な桜並木ではなく、桜と銀杏が交互に植えられている。春も秋も楽しめて一粒で二度おいしいというわけだ。思った通り、もう桜はかなり散っていて緑色の葉が顔をのぞかせていた。花びらがカサに貼りついて、見上げると点々と花びらの形の影が浮かび、その上を雨粒が流れてゆく。ああ、桜だな。

駅から向かって左側の歩道を歩いたが、大学通りの終わりで反対側に渡り、駅に引き返した。何本か花が咲かない弱った桜があって、根元を踏まないでくださいという立て看板とともに、まわりにはムラサキハナナという幽玄な紫色の花が咲いているのだった。種をとったあとで桜の肥料に使うらしい。ムラサキバナナではなくハナナだ。

国立駅から府中行きのバスに乗る。23区とか横浜、川崎だと、どこまで乗っても料金は一律で、前から乗車してそのときにお金を払うのだが、東京の市部など郊外のバスは行き先によって料金が違い、後ろから乗車してそのときは整理券をとり(ただし一番最初の区間は整理券なし)、前方から降りるときに精算する。すぐそばなのに、バスの乗り方がここまで革命的に違うのもどうかと思うのだが、とりあえずそこまでは散歩の豆知識として知っていた。だが、バス共通カードの場合は、整理券をとる代わりにカードをいれて記録することははじめて知った。確かにこうすれば、精算の時に楽だ。

料金は最初の170円から、タクシーのメーターのような速度で上がっていき、最終的には230円になった。府中駅到着。そのまま京王線の電車に乗り込んだのだが、折り悪く国領駅で人身事故が発生したとかで足止めされ、調布まで30分近く余計にかかってしまった。もともとは初台までいって東京オペラシティーでアートでもみようかと思っていたが、もう相当遅い時間になってしまった。そのまま新宿まで出てしまうことにした。

optiというカレー屋で食事。ハンバーグとカニコロッケのカレーが税込み680円。辛口にしてみたが、それほどは辛くない。味はまあまあだ。

ルミネの青山ブックセンターで町田康『きれぎれ』を買う。

蒲田にもどってカサを開いたら、最後に残った花びらが地面に落ちた。

コメントする