しばらく前から銀行印が見あたらない。それでも別に不便はなかったのだが、カードを作る段になって、困った。銀行印を変えるために銀行にゆかなければならない。それが休暇をとった目的のひとつであり、めんどうなミッションを果たした余勢をかってどこかにくりだそうと思っていた。
ところが、写真付きの公的な身分証明書をもたないぼくに対し、杓子定規な銀行員が、書類を郵送するからそれをもってもう一度出直せとぬかしやがる。ぼくがぼくであることは自明なのに、なぜ証明が必要なんだ。もうぶちきれですよ。だが、そこは大人。これを機会にパスポートでも作ろうかと前向きに考えることにした。というより、そういうことでもしないと、こんな酷暑の日にあえて休暇をとったぼくが報われない気がしたのだ。それで新宿の都庁にゆく。
途中で必要な書類を何も準備していないことに気がついたが、とりあえず申請案内だけはゲットすることした。必要なものは戸籍抄本、はがき、写真、身分証明(身分証明のためにパスポートを手に入れようとしているのにここでも身分証明が必要だというアポリア)だということを確認。これまた徒労以外の何物でもない。
暑さのせいであまり食欲がないが、神保町カレー屋めぐり。今日はスマトラカレーの共栄堂に入る。ボンディは具によって値段の差はなかったが、ここは激しく階層化されている。ポークが800円のところ、タンは1500円だ。間をとってエビカレー1200円を注文。だが、「エビ」という名前を冠するのに使用されているのはボイルしただけで味のついていない小さなエビ3切れ。まず、それを後悔した。次に後悔したのは、最初にルーをすべてライスの上にかけてしまったこと。ゆるいルーなので、すぐにライスに吸収されてなくなってしまう。黒くて生クリームの入ったこくのある味だったのだが。
スタバと本屋をめぐる。暑くて何もやる気がしない。神保町の交差点の角のスペースに、小言の多そうな老人とイヌが座っていて、イヌがタイルの床の上に小便をもらしていた。
いつの間にか小川町方面に高いモダンなビルができているのに気がついて近づいてみた。神保町三井ビルディングという名前らしい。タリーズがありそうだなと思ったらほんとうにあったので、蜃気楼でないことを確かめるために入ってみた。おなかの中が冷たいものでだぼだぼだ。こうして暗愚な一日は暮れてゆく。

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