自由意志を捨てて、奴隷となって歩く。ご主人様は先週のぼく自身だ。つまり、先週つまらない勘違いで中断してしまった散歩を完遂しようという腹づもりなのだ。スタート地点は水道橋。歩き始める時間がほぼ同じなら、気候も暖かで似た感じだ。といっても何もかも同じというわけではなく、たとえば水道橋の駅のそばでスケッチをしていた女の子は今日はいない。
前回善光寺の門前で見かけた「影あり 仰げば 月あり」という詩を紹介したが、並んで貼られていたもうひとつのほうも紹介しておこう。
泣かせて
わけなど聞かず
ただ
ひたすら泣かせて
子供のように
わんわん泣かせて
飲み込んでしまった思い
口にできなかった言葉
みんなみんな流せて
涙がかわいたら
きっと歩き出せると
思うから
土屋美香
隣と比べるとこちらは通俗的で歌謡曲の歌詞みたいだ。立ち止まらず涙がかわくくらいの速度で歩けばいいんだよと、こちらも歌謡曲風に応じてみる。その言葉はうそではなく、迷いなく歩いているせいか、かなりのハイペースだった。前回中断した茗荷谷まで3.5kmの距離を40分弱で踏破した。分速100m弱。
ここからが本番。大塚という地名の由来となったという貞静学園前の塚跡から鼠坂をおりて音羽。向かい側の坂をのぼって目白通りに出て、再び下ると新江戸川公園がある。
これだけ歩いていてなぜか新江戸川公園ははじめてだったりする。神田川(ちなみに江戸川というのはこのあたりの神田川の異称)沿いのちょっと広くなった休憩所のようなところが新江戸川公園だと、ずっと思いこんでいたのだ。入口のところに詰所があって、おばさんがじっと座っているが、入場は無料だ。入ってすぐにアヒルとニワトリのアイノコのような奇妙な鳥に出迎えられる。全般的な形はアヒルだが、クチバシのところにニワトリの鶏冠のような赤い突起がついていて、羽だけが黒い。ここのマスコットらしく、まわりに人が集まっている。起伏の多い園内をぐるりと巡ってみた。一周5分くらいだ。紅葉がちょうど見頃で、池の表に子供の手のようなかわいらしい形の赤い葉が浮かんでいる。
外に出る。都電の学習院下から山手線の高架をくぐって落合方面へ。落合南長崎駅、もう門の閉まった哲学堂公園、新井薬師を経て早稲田通り。
沖縄料理のちゃんぷる亭で食事。「めんそーれ」と出迎えてくれる。何も考えずに日替わり定食を頼んだらかなりのボリュームで驚いた。角煮が二つ入ったフルサイズの沖縄そばに、キャベツのサラダ、半裸椅子半ライスの上に肉と野菜を味噌でいためたのがかかった料理。これで850円だ。味もおいしいし、量の割に腹がもたれないのもいい。
散歩は中野まで。14.5kmだった。夢の大台15kmがすぐ目の前だったのに残念だ。
新宿に出る。タワーレコードで去年発売された矢野顕子のベストアルバム『ピヤノアキコ。~the best of solo piano songs~』を買う。10%割引の対象になっていてとてもラッキーだった。
紀伊国屋ホールで芝居をみるので、それまでの間、あたりをぶらぶら。

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