ロジーナ・バジリコ

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息が白く凍える日。武蔵小金井についたのはいつもながらかなり遅くて、3時40分ごろだった。ホームから見える北口の街並に見覚えがなくて魅力的に映ったので、足がそちらに向いた。が、その風景は書割にすぎなくて、分け入った間からは何というとこともない退屈な住宅地がしみ出してきた。

基本的に西に舵をとる。北大通りという通り。いきなり札幌にワープして北海道大学のそばにきたわけではなく、「きた・おおどおり」と分かつようだ。確かに大学はあるのだが、それは学芸大学だったりする。通りは学芸大学を境に名前を変え、サレジオ通りとなるが(サレジオ系の学校があるようだ)、移転前の学芸大学のそばにもサレジオ教会があることを考えるとおもしろい。どっちがついてきたのだろう。

西武線の線路にぶつかって北へ北へと迂回しているうちに相当北にきてしまう。五日市街道から戸倉通りに入り、すっかり暗くなった夜の街を越え国立へ。9kmだった。

街を自分の身近なものと感じたり、少なくとも「触れた」と思うためには、その街にある(チェーン店でない)店に入らなければいけない。そういう意味で、国立は好きな割にただ通り過ぎるだけの街だったのだけど、今日は以前から気になっていたロジーナ茶房というカフェに入ってみることにした。

店内はどことなく少女趣味が感じられる華やいだ感じだ。ウェイトレスの黒い制服にもどことなくメルヘンを感じる。1階の席に案内され、チーズケーキセット(750円)を注文。飲み物はブレンドにした。コーヒーの味はいまひとつだったが、チーズケーキは絶品。トッピングを数種類のなかから選べるのだが、アップルポッドというリンゴ味の蜜にしたのが正解だったようだ。味わいながら学生風の若い男と店主が話している会話が耳に入ってくる。

協賛、フライアー、消防署。会話の中にまぎれた単語をとりだしても、最初何のことかさっぱりわからなかった。学生新聞の広告かとも思ったが消防署は関係ないし。ほかの店で断られた話もしている。このあたり芝居の幕開き直後に背景も人間関係もわからないまま会話の断片を頼りに想像をふくらます楽しさを感じてしまう。結局、正解はキャンドルナイト。つまり電灯を消して蝋燭で過ごすイベントだ。協賛金の額までわかってしまった。さすがにここに書くのはまずいので自粛する。代わりにその会話の中でわかった情報をひとつ載せておくと、この店の亡くなった先代と現都知事の石原慎太郎は若い頃からの友人だったそうだ。

吉祥寺に出る。カレーの某有名店に入ろうとしたのだが、満席のようだったので、パスタの壁の穴へ。吉祥寺店ははじめてだが、まるでカフェのように間仕切りがしてあって、しゃれている。唐辛子とにんにくのパスタ700円に250円のセットをつけてみた。ドリンクとサラダがついてくる。パスタは具がまったくなく純粋にパスタとソースだけだったのでちょっとさみしかった。コーヒーはさっきよりこっちのほうがおいしいかもしれない。近くの席のカップルが、最近ロジーナいってないとかいう話をしていて、こっちは今いってきたばかりなのに、何という奇遇だろうと思ったりした。ところで、パスタにからまっていた緑色のスパイスの名前がどうしても思い出せない。ありふれた、聞けば、おおとかああとかいいそうな名前なのだが、記憶のその部分だけスプーンですくいとられたように欠けていた。

無印良品とか本屋とかを冷やかしながら、そのことを考えていたが、一向にわからなかったが、新代田のバス停で寒さに震えて待つその一瞬、急に闇が開け、死んでいた脳のシナプスにまた電流が流れ、その言葉が飛び出してきた。

バジリコ!

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