登戸から小田急線沿いに歩き出す。工事中の線路からただようつんとした塗料のにおいが街をファンキーに包んでいる。
登戸と向ヶ丘遊園は一続きの街だ。南武線との連絡というターミナルの役割を登戸が果たし、街のにぎわいは向ヶ丘遊園が担っている。距離的にも近くて、電車なら一瞬、歩いてもすぐだ。
向ヶ丘遊園の駅前はモノレールの線路がすっかり撤去されていて、そんなものは最初から存在していなかったかのようだ。稲生橋を渡って左手に曲がり、いきなりあらわれた山道をのぼってゆく。広大な生田緑地の入口だ。地面を踏みしめるとバナナを乾燥させたようなかぐわしい匂いが広がる。登りつめた先は標高80mの飯室山山頂。狭いながらも広場になっていて小さな展望台がある。
もったいないと思いながらいったん下ってまた登ると今度は枡形山の山頂。こちらは街中の公園くらいのかなり大きな広場になっていて、ドッチボールをしている人たちがいた。家族連れの人たちも多い。枡形城址の史跡もある。このあたりの小高い場所はかなりの割合で城として利用されているんじゃないかと思う。さて、こちらにも展望台があるのだが、城を模したような造りでなかなか本格的だ。なんとエレベータまでついている。別にここで体力を使ってもしょうがないので、利用することにする。上では、近くは木に遮られているが360度のビューが広がっていた。下の広場で遊ぶ人たちの人間観察もおもしろい。
再び山道を伝って、戸隠不動跡地というところに出た。石の柱とその間を渡す梁という抽象的な建造物が並んでいる。戸隠不動はどこにいってしまったのかと思ったら、1993年に火事で焼失してしまったらしい。もったいない。ただ、そのあたりの紅葉はほんとうに美しくて思わずカメラのシャッターを切っていた。
坂を下ってホタルの里というところに出た。この季節は湿地に木橋が渡してあるだけの場所だ。蚊がいないだけいいかもしれない。再び登って、緑地の出口へ。はるか左手には岡本太郎美術館がある。六本足の巨大な植物だか軟体動物だかの上で人々が踊っているのか恐慌を来しているのかという彫刻がみえる。タロウが飛び出す、タロウが戦うという感じだ。すごいなタロウ。
ガードレールの内側が植物に浸食されてほとんど通れなくなっているところを無理矢理通って、何度か曲がると、聖マリアンナ医科大病院に着いた。聖マリアンナが誰かは知らない。広大なロータリーがあってバスが何台も入っている。まるで駅のようだ。そこを通るのは、片側が生、反対側が死へと向かう列車だ。
高台の小道をくねくねと通り抜けて下界におりる。稗原の交差点を過ぎるとすぐに横浜市青葉区に入った。そのあとは広い道路をただただまっすぐ。心にとまるものはほとんどない。すべて圧縮して100mくらいにしてもいいくらいだ。あざみ野到着。9.2kmだった。[地図]
あざみ野で食事にしようかと思ったが、駅のすぐそばの半地下のレストラン街はいかにも場末という雰囲気をぷんぷんと漂わせていた。ハイソな店ばかりも困るがこういうのもいやだ。駅の反対側にもいってみたが、あっという間に街が終わってしまう。今でこそ地下鉄と接続してターミナル駅だが、もともとは各駅電車しか停まらない駅だ。こんなものかもしれない。結局、電車に乗りこむ。
隣に座った女性からハンドクリームの匂いがしてきた。これもまた冬の匂いだ。途中で塗り直したのでさらに広がる。
駒場で芝居をみるので、池尻大橋で降りる。飲食店のバラエティーはあざみ野の変わり映えしなかった。あざみ野でパスタ屋に入った方がよかったかもしれない。探す時間がもったいないので、松屋に入ってしまう。牛めし豚汁セットの食券を買う。550円だ。漬け物と生卵もついてくる。人に勧められるものではないが、困ったときの松屋。なかなかあなどれない。
タリーズでティラミスラテというのを飲む。予想通り甘い。カロリーとりすぎだ。
池尻から駒場まで15分かかった。渋谷からとあまり変わらないし、上り坂がある分疲れた。
芝居が終わって渋谷まで歩く。ブックファーストで、並木美喜雄『量子力学入門』と小川洋子『博士の愛した数式』を買う。年内に読み終えられるだろうか。河内屋で甘いシェリー酒。冬は身体が温まる。


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