拝島に着いたころには太陽は鋭角に傾いていて、地の底から寒さがはい上がってきていた。ところで、拝島は昭島市のはずれにあるのだが、昭島というのは、昭和と拝島という二つの町の名前からとったそうだ。
米軍基地と対峙する北口とちがって、南口には一応商店街らしきものが広がっていた。道幅が狭くて車の通りが激しいので裏道に。やがてせせらぎに沿った遊歩道に出る。鯉が泳ぎ、鴨が群れていた。
奥多摩街道に突き当たり、その先はどこまでもついて行く。案内標識に立川市ではなく立川市街という文字が出てきたので、あともう少しで立川だと何度も思うが、その度に裏切られる。前方の半欠けの月が輝きを増し、だんだん頭の真上に近づいてきた。少し離れた場所にはオレンジ色に光る瞬かない星。たぶん火星だ。ぼくが代わりに瞬く。
時折戦闘機が轟音を響かせて頭上を通り過ぎる。ちょうど、iPodの中で矢野顕子が「ときどき戦闘機が落ちてくる」なんて歌いだしたので、笑う。
町がにぎわってきたがまだ西立川。もう真っ暗だ。線路にはさまれた行き止まりの場所に駐輪場があって、地下道をくぐるといよいよ立川市街だ。だが、まだ歩く。立川市役所、郵政大学校を経由して、国立まで13.1kmだった。[地図]
駅のすぐそばにあるさむくらというカレー屋に入ってみる。ビルの3階に狭い階段で上ってゆくと、ガラスのドアがある。ドアの向こうは通路の壁になっていて中は見えない。会員制のクラブのような雰囲気がある。右手が店になっていて、7席のカウンターの向こうに白髪で中肉中背の男性が白いシャツで出迎えてくれる。ブレンドコーヒーセット1400円を注文。カレー屋にしてはえらく高いが、店の雰囲気は確かにそれくらいの値段を要求している。壁に飾ってあるモノクロ写真がいいし、調度類もこっている。カウンターの正面にはボーズのステレオセットが置いてあって、そこからは店を出たとたんに忘れそうなイージーリスニングの音楽が流れている。
店主らしい白いシャツの男性がすべてひとりでやっているらしい。10分ほどかかりますがよろしいでしょうかと確認したあと、奥に引っ込んで料理をはじめた。10分というのは微妙な時間だが、ルーだけを作り置きして具だけ調理しているのかもしれない。カレーは大きな白い皿に盛られて出てきた。ミニマリズムの絵画のように上半分が白いライス、下半分が濃褐色のルーに分れている。にんじん、じゃがいもなどの具はほんのりとバターの味がする。肉は牛の筋の部分でとてもやわらかい。スパイスが控えめで、とてもおとなしい味だった。濃厚な飲むヨーグルトがついてきて、これもおいしい。
食後のコーヒーを飲んで外に出る。店主の人の所作がとても丁寧で洗練されていて、こちらが恐縮してしまった。不思議なカレー屋だった。
吉祥寺、新宿と通り越して、一気に秋葉原に出てしまった。最近乾燥が激しいので、ヨドバシカメラで加湿器を買う。マイナスイオンなんていうわけのわからないものが出てくる製品は買わないと心に誓っていたが、7980円という他メーカーから2段くらい落ちた値段に負けて、マイナスイオンが謳われた某メーカー製の製品を手にした。「イオン」と書かれた謎のボタンがついている。怪しい。


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