道の向こうから理非曲直をただす日光のウェーブが歩くような速さでこちらにやってきて、すべては光と陰に分かれ、ぼくは真夏の月島の路上にたたずんでいた。
すぐに暑さがたえがたくなって、隅田川河畔の佃公園に逃げ込む。昔は足繁く訪れた場所だ。はじめて買ったデジカメで最初に撮ったのはここの風景だったと思う。長い夏のはじまりの日にここのベンチに座って、ぼんやり川をながめながら、夏をやりすごそうとしたこともあった。
ベンチに座って何かを待っていたら、やってきたのは何やら不穏な空気だった。どこか遠くの方で打楽器のトレモロのような低い音が鳴り響いて、目の前では不規則な風に吹き飛ばされた木の葉がロンドを舞っている。さっきまで熱気をブロードキャストしていた太陽は紫の雲のむこうで行方不明で、鳥たちが入れ替わり立ち替わり警報を発している。
やがて、視界の隅を一瞬のきらめきが通過して、ちょっと遅れて紙を引き裂くようなビリビリという音が鳴り響いた。かなり近い。ぽつりぽつりと雨粒が落ちてきて、ようやく避難場所を探しに立ち上がるが、奇跡のように太陽が再び顔を出し、暗い空と明るい地表という神秘的な光景が広がる。
結局、雨は地面をぬらすことなくそのままあがったが、さっきより少しだけ過ごしやすくなった。ぼくは再び路上の人になる。
南砂町で散歩を切り上げ、芝居をみるため三軒茶屋に向かった。キャベツとごまたっぷりの麺がヘルシーでおいしい。
帰りの山手線の車内で、黒縁メガネとセーラー服の若い女性がいきなり声をはりあげて、来月デビューする新人歌手ですけど、これから一駅間ライブをやりますと宣言し、車内をねりあるきながら、アカペラで「マジで恋する5秒前」を歌っていた。ちょっとかわいそうに思えてしまうシチュエーションだが、ファンクラブの名簿に載せたいのでと、ぼくの対面の席に座っていた男性から名前を聞き出す手腕は、相当手慣れていた。ぼくは見てみないふりをするので精一杯だった。
全体的な印象からすると、彼女のいったことは真実とは思えなくて、どこかに嘘があると思うのだけど(彼女がだまされている可能性を含めて)、それが何なのか想像しても妄想がふくらむばかりで、一向に真実にたどりつく気配がない。


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