予報では夕方から雨で、現状はぎらぎらと残酷な太陽が照りつけている。どちらも散歩には向かない気候だが、その移行の隙をとらえて歩けないか、そんなことを考えた。移行の足音は思ったより早くやってきて、渋谷に着いた頃には、もう厚い雲が空一面を覆っていた。あまり猶予はなさそうなので、井の頭線の各駅電車で三つ目の池ノ上から歩き始めた。
池ノ上で降りたのは井の頭線の車内から見おろせる、秘境めいた道に久しぶりにいってみようと思ったからなのだが、初手からまちがえて逆方向に進むという愚をおかしてしまった。だが、別にいいやとやたらめったら歩いていたら、吸い込まれるようにその場所にたどりついた。緑深く、前方は井の頭線の線路の土手でふさがれ、右も左も上り階段になっていて、車は入り込めない。まあ、秘境というのはあきらかにオーバーだが、都心からほど近い場所に、こういう空間が残されているのは珍しい。左手の階段の先はいきどまりなので、右手の階段からいったん池ノ上駅の方に戻る。
ほどなく大粒の雨が落ちてきて、カサを広げたが、情けないくらいあっけなくあがってしまった。そのあともスラプスティックコメディーのように何度も、降ったりあがったりを繰り返した。それが移行期のありさまかと思ったが、結局本格的な雨に移行することはなく、ずっとそんな中途半端な調子だった。
風だけがぼくの味方だった。高い湿度はたえず汗の蒸発を邪魔して、ぼくをなんかぬるぬるでべとべとした奇妙な生物に変えてしまった。全身が水分を欲していたが、せっかくなので自動販売機でなくたくさんの選択肢の中から選ぼうと思ってコンビニを探すが、そういうときに限ってなかなか巡りあわない。結局駒場から中目黒までのどの渇きを引きずって歩いてしまった。中目黒のファミリーマートでスコールバレンシアオレンジというちょっとスイーツ系のドリンクを選んだが、これが思いの外かなりおいしい。だが、カロリー表示をみてちょっとげんなり。
カロリー補給のおかげか、恵比寿を越えて山手線の中にはいっても、まだ脚はとまらず、結局六本木まで歩き通した。
以前から一度はいってみようと思っていたうどん屋つるとんたん。店構えの割に値段はそれほど高くなくリーズナブルだ。メニューはカレーうどん、明太子、クリームソースなど多様だが、今日はコンサバティブに天ぷらおうどんにしてみた。つるつるしてのどごしのいいうどんはもちろんおいしいし、塩をつけて食べる天ぷらもジューシーでおいしかった。六本木の他新宿歌舞伎町にもあるようなので、今度いってみよう。
先日運営会社が民事再生を申請した青山ブックセンターはちゃんと開店していた。ブックオフが支援するという話もあるが、どうなるのだろう。で、どうせ買うならここで買おうかと、本を選んでいたら、近くで中年の男女が大きな声でなにやら言い合っている。どうやら、お互い待ち合わせの場所を間違えていてらしい。青山ブックセンターは六本木ヒルズの中にもあって、女はそちら、男は六本木通りに面したこちらで待っていたのだ。それをきいて、昔一度だけヒルズの本屋に入ったことを思い出した。あれも青山ブックセンターだったのか。ちょっとのぞいてみたくなった。
ウエストウォーク4階は回遊型のショッピングゾーンになっている。アロマ系の店が多いので、色だけでなく匂いもカラフルだ。そんな一角に青山ブックセンターはあるのだけど、かなり小さくて、新刊書中心の品揃えだ。岩波文庫は一冊もなかった。というわけで、再び六本木通り沿いの店舗に戻った。


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