南武線が多摩川を渡る直前の駅、南多摩で下車する。西の方角には樹木が鬱蒼としげる山肌がそびえていて、いったん南の人工的な住宅地向陽台に向かいそうになるが、結局は山の呼び声に答えてしまう。
川崎街道は両側の山の間を縫うようにのびていて、それ自身なだらかにのぼってゆく。ぼくは移送中の虜囚のようにまっすぐ街道を行進するほかはない。
左手にウサギやシロクマなどカラフルな動物の像が並んでいて、ちょっとふつうの公園で見かけない感じだなと思ったら、そこはフェンスで遮られた米軍レクリエーションセンターの内部なのだった。レクリエーションくらいわけへだてなくすればいいんじゃないかと思うが、そういうわけにはいかないらしい。中はほんとうに広大で、馬術場やサイクリングコースがあり、こちら側からは見えなかったが奥にはゴルフコースもあるらしい。境界のこちら側を流れていた赤さびのこびりついた小川がフェンスの向こう側にすいこまれてゆく。向こう側ではred riverなんて名前で呼ばれているのかもしれない。
稲城市から多摩市に入っても米軍の敷地は続いていた。トンネルに入ったかと思ったが、頭上を覆うのは縦横に交差した鉄骨。たぶん左側の米軍ではなく右側にある桜ヶ丘カントリークラブからのゴルフボールよけだと思う。まわりを見渡したがゴルフボールは一つも転がっていなかった。
ようやく左側の分かれ道という自由を手に入れたので、それを行使する。桜ヶ丘公園の入口があったが、園内には入らず、その手前の細い道をだらだらと下りながら聖蹟桜ヶ丘方面へ。駅の方にはいかず、関戸橋で多摩川を渡ると前方の府中方面は壊死したような青黒い雲に覆われ、稲光が閃いて、それに少し遅れて野性的なドラミング。1,2,3と、本能的にその間隔をはかると、だんだん近づいているご様子。
橋を渡り終えてすぐに大粒の雨が地面をたたき始めた。ついでにぼくもたたかれる。間の悪いことに、日射しに油断してカサをもってきわすれてしまったのだ。大慌てで前方のコンビニに駆け込む。
十分以上時間をつぶしてみたが、雨が弱まる気配は全くなく、車道に波打ち際のようにさざなみがやってきている。もう、見たくもない週刊誌をめくるのにほとほと嫌気がさしたこともあり、ビニール傘とのど飴を買って、雨の中に飛び出した。
中河原駅の高架があっけないほど近くに見えたが、カサなしだったらずぶぬれになってしまっただろう。サーチライトのようにときおりあたりを照らす稲光におびえながら、どうにか駅までたどりつく。
京王線に揺られて新宿まで出る。


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