調布から吉祥寺に向けて歩きはじめる。目的地が最初から固定されているのは珍しいことだが、今日は今年初めての演劇を井の頭線の駒場東大前でみるので、散歩の目的地が同じ井の頭線の方が楽だというのと、駒場東大前は駅の周りが住宅地であまり店がないので、食事はその前にすませておきたくて、なるべくなら大きな街で散歩を終えたかったという、二つの理由から吉祥寺が選択されたのだ。
調布からみて吉祥寺は北北東。つまり主に北に進んで、ときどき東にそれるという心づもりでいればいい。今まで何度か、調布と吉祥寺の間を歩いているが、この東への動きをどのタイミングで行うかによって、コースが分岐して、たとえば、あとにとっておこうとすれば深大寺を経由することになる。今日は早いうちに東へ進んでおくことにして、いったん京王線の3つ都心側柴崎のそばまでいってから、おもむろに北を目指した。
さて、今日も落語の podcasting をききながら歩いた。演目は『五人廻し』。吉原を舞台に花魁に待ちぼうけを食わされている男たちを描いた噺だ。最初、一人部屋の中で寝そべっている職人のひとり語りではじまって、そういうこぢんまりした噺もたまにはいいもんだなと思っていると、花魁をさがしている郭の若い衆がやってきて、金を返せ、返さないという問答がはじまる。吉原の由来までさかのぼって説明する職人の口上がエネルギッシュで見事。そしていきなり視点が若い衆の方にうつり、それぞれ独り寝をする男たちの部屋をめぐるという、なんかグランド・ホテルみたいな展開になってゆく。それぞれくせのある男たちの演じわけがとても難しい噺だと思う。やっていたのは春風亭一之輔という二つ目の噺家だったけど、けっこうすごい。話芸というものをきかせてもらった。
終盤ちょっと東へのバイアスがききすぎて、隣の井の頭公園駅に近づき、それならそれでもいいや、駒場のマクドナルド入ろうと思っていたが、結局もう暗がりが領する井の頭公園を通り抜けて、吉祥寺駅に近づいていった。
途中のオーインディアというカレーの店に入ってみた。オーソドックスにチキンカレー。チャツネのきいた甘い欧風カレーだ。ほんとうにチキンだけがごろりと入っていてシンプル。唐突だが、カレーといって忘れられないのは、横浜、鶴見駅ビルにあったサモワールおかののカレーだ。子供の舌だが、甘みが少ない本格的なインドカレーで牛筋肉が入っていて、とてもおいしかった記憶がある。もう一度似たような味のカレーを食べることはできないだろうか。
駒場で芝居をみたあと渋谷まで歩く。途中のバーに、「朗読中につき静かにお入りください」と書いてあって、のぞき込むと、男が、たった一人の聴衆を相手に朗読をしているのだった。何を読んでいるのかとても興味があったが、静かにだろうがどたばた音をたててだろうが、とても入っていけるような空気ではなかった。
でも、空気は読むものじゃなく、窓やドアをあけて変えるものなんだよ。

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