北風と太陽の二重奏。どちらのパートがリードをとるかで華麗なる主導権争いがくりひろげられるが、時がたつにしたがって北風が優勢になってゆく。
日暮里から舎人ライナーに乗り込む。ほこりっぽい下町の風景も、こうして上から角度をつけて見下ろせば、まるで実験室みたいな真新しさにつつまれる。3駅目の熊野前で下車。
原野のたたずまいを残す尾久の原公園をぬけて、尾竹橋を渡ると、千住。昔何度か通った長い商店街の入り口が道の右側にあるような記憶があったのだが、なんか左側に郷愁めいた親近感を感じて、そちらに進んでみると、はたして商店街の入り口はあった。
商店街というか、今では元商店街といったほうがいいかもしれない。立派なアーチがあって、街灯に商店街の名前を書いた板が取り付けられてはいるが、機能していそうな店は数えるほどしかない。明光会、ニコニコ商店街、いろは通り、商店街の名前ばかりがむなしくうつりかわる。国道4号を渡ってつきあたるのは、北千住駅前に続くにぎやかな商店街らしい商店街。
東武牛田駅と京成関屋駅(名前は違うけど乗換駅)の間を通り抜けたところで、北東に進んで荒川を渡るか、南西に進んで隅田川を渡り都心方面にいくかという選択。道の真ん中に仁王立ちして、左右を見渡し、結局前者を選んだ。堀切橋を渡る。
橋の真ん中で隣の京成線の鉄橋をわたる電車を撮ろうと立ち止まっていたら、肩までの髪を白に近い金髪に脱色し、革ジャン、ジーンズ、サングラス、片手にコンビニの袋をぶらさげた、年齢不詳の男に追い抜かれた。ぼくは彼の後を追いかける形になる。
橋を渡りきって階段をおりて、彼が選んだのは、左前方にのびる、細いけど、どこまで続こうという意志の感じられる道。いい選択だ。彼がそういうつもりで選んだのかどうかはわからないけど、ぼくはとりあえず彼についてゆく。
しかしその道はあっけなくつきあたりにぶつかって、どちらに進もうか考えている間に、彼を見失ってしまった。そのあと結構ランダムに思うがまま歩いていて20分以上たったころ、道路の向こう側、100mくらい左手の角を曲がった後ろ姿は、一瞬だったし、さすがに距離が離れているので確信はもてなかったが、さきほどの金髪氏に限りなく似ているようにみえた。ほんとうにその人かどうか確かめたくなって、あとを追っかけてみるが、姿はみあたらず。そのまま道なりに広い通りに出たところで、左手をみると、はるか遠くにゆらゆら揺れる例の後ろ姿。歩いている距離もかなり長いし、ひょっとしたらぼくと同じようなフラヌール(遊歩者)かもしれない。こうなったら、もういけるところまでついていこうと思った。
距離をあまりつめられないまま、別れは突然やってきた。そこに曲がり角があるとは認識していなかったのだが、彼は突然左折して、近づいてみると、そこは鉄筋アパートと一戸建ての家にはさまれた袋小路で、たぶん彼は鉄筋アパートの方の住人なのではないだろうか。
いきなり放り出されてしまったが、ぼくはそのまま直進を続ける。幸い、やがて亀有駅に続くメインストリートにたどりついた。
亀有はJR常磐線の駅だが、各駅停車しかとまらなくて、その各駅停車は東京メトロに直通してしまうので、そのまま常磐線に乗り続けようとしたら、北千住で階段をのぼって乗り換えなくてはならない。結構不便なのだ。
東京駅にでる。風が本格的に冷たくなってきた。

ポール・オースターの小説に、街に出て見知らぬ人のあとをついてって写真を撮る、みたいなことをするエピソードがあって、いつかわたしもその遊びを実践しようとおもいつつなかなかチャンスに恵まれずにいたのですが、sugi さんが微妙にそれに近いことをなさっていたので、やっぱり近いうちにこの遊びを実践しよう、とおもったのでした。
ポール・オースターの小説は、邦訳されているものはほとんど読んでいるような気がするのですが、そのエピソード思い出せません。どれでしたっけ?
それはさておき、実践するにはあとをつける人の選択が第一です。たいていの人はそんなに長い距離を歩いてくれませんからね。お金をもってなさそうで、靴が汚くて、ちょっと挙動不審な人を探せば、成功率が高そうです。
あ、もし、カメラをぶらさげて、ふらふらと定まらない足取りでやたら長い距離を歩いている中年男がいたら、ぼくかもしれないので、暖かく見守ってください。
リヴァイアサンでした。マリアの話で
"何ら意識的な動機もなく、彼女は街なかで、知らない人のあとをつけるようになった。朝、家を出たところで無作為に誰かを選び、その選択で一日の行き場が決まるのだ。(中略)まもなく、カメラを持っていって、つけている人々の写真を撮るようになった。"
今日ちょこっとだけ実践しかけたのですが、電車に乗られてしまってあっさり終了。でも電車に乗っても、いまは Suica があるから行き先わからなくてもつけられるんだよな、とかおもいました。Suica にお金が入っていればですけど(笑)。
ああ、リヴァイアサンでしたか。ぼくの中では若干印象の薄い作品なので、思い出せなかったのも道理です。結構最近まで、感情移入をてこに本を読み進めているところがあって、ちょっとでも感情移入できない部分があると、のれなくなっていたんですよね。これもそういう一冊でした。最近、ようやくそういう読み方をあらためようとしているので、読み返すとまた別の印象が得られるかもしれません。
雨の日など、逆に電車の中限定であとをつけてみるのも面白いかもしれませんね。どこかとんでもなく遠くにつれていかれてしまうかもしれませんけど。