散歩とその他の買い物

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そういえば、風邪をひいたらしいよ。遠く離れた親戚にでもおきた出来事のようだが、ひいたのはまぎれもないぼくだった。

もったいないような梅雨の晴れ間。湿度も低く、さわやかだ。にもかかわらずあまり散歩をしたいという心持ちじゃなかったので、美女と差し向かいで食事をするのに何も話すことがないような、申し訳ないような気持ちになる。

歩くことは歩く。西武池袋線の中村橋から、商店街を北上してちょうど練馬区貫井という町の輪郭をたどるようなコースを歩く。最初に訪れたとき、妙に神秘的な印象を感じて、再訪するたびに、その印象を再現できないかと思っているのだが、やはり貫井は別にどうということのないふつうの住宅地だ。

西武池袋線の高架をくぐって南側へ。耳元で流れるのは、久々の町山智宏さんの podcast 「アメリカ映画特電」。サム・ライミの新作映画の話をしていた。主人公の銀行員の女性が老女のローン支払いを猶予するのを断ったことで、地獄に引きずり込まれようとする映画だ。主人公は業務としてしかたなく断ったのに、なぜそこまでされなくちゃならないかという話になって、ポール・ニューマン主演の『暴力脱獄』という映画に話がうつった。そのなかで脱獄をくりかえす主人公は、看守たちからどんな暴力を受けても笑って許したのに、看守のひとりが、自分はおまえに同情しているが、仕事だから仕方なく痛めつけているんだ、許してくれ、みたいなことをいうのに対しては、烈火のごとく怒るシーンがあるそうだ。つまり、それが正しいことと信じ込んで、ひどいことをしてしまうのは仕方ないが、同じことを、良心に反しておこなってしまうのは、ずっと恥ずべき、糾弾されるべき行為だというのだ。歴史上の戦争や虐殺も、それを正義と信じておこなったのは少数で、大半は仕方ないと思いながら手を貸してしまっている人で、だからこそ戦争や虐殺はなくならない。

ぼくが、岩井俊二の『リリーシュシュのすべて』で市原隼人が演じた主人公に腹が立って仕方なかったのも同じ理由だ。彼が小さな勇気をふりしぼっていればいくつもの不幸が防げていたわけで、それなのに自分の殻に閉じこもってめそめそしているのは何事か。というふうにぼくが怒るのは、ぼくもまたそういうときに仕方ないといいながら、手を貸してしまいそうな人間であるからだ。

街並みの平板さと対照的に思いだけがふつふつとわきあがる中、いつの間にか中野区に入り、鷺宮、都立家政、野方と、西武新宿線沿線を都心方面に行脚し、そして高円寺をめざす。『1Q84』で天吾が暮らし、青豆が潜伏した街だ。青豆が天吾をみつけた公園はどこにあるのだろう。

風邪をひいているせい以上に果てしなく疲れて高円寺到着。[中村橋駅〜富士見台〜都立家政〜高円寺駅(9.4km)-[地図]]

新宿へいき、食事[三国一(新宿西口):ハーブチキンサラダうどん-850円]のあと小さな買い物をいくつか。そのために、新宿からあまり離れていないところを歩こうと思ったのだ。

  1. 梅雨の季節必須のカメラ用の乾燥剤など [ビックカメラ(新宿西口)にてクリーナークロスともども1790円]

  2. お気に入りのイヤフォン Apple In-Ear Headphones with Remote and Mic の替えパッド。大中小耳の穴のサイズにあわせて3種類パッドが付属していたうち、中と小を一つずつなくし、いまや残りの中と小をちぐはぐに耳にはめている。純正の替えパッドは売ってないが、調べてみたらソニーの EP-EX10(S, M, L、サイズ別に3つのパッケージが売っている) というパッドが使えるらしい。買って早速使ってみたが、耳へのフィット感がすぐれていて、遮音性が高く、低音がよく響く。最初からこちらをつかえばよかった [ビックカメラ(新宿西口)にてMサイズ480円]

  3. 昔、バッハは当時の楽器で演奏するもので、ピアノよりハープシコードなんてドグマにとりつかれていたが、考えてみるまでもなく、ピアノの表現力とハープシコードの表現力は段違いだ。もしバッハの時代に現代のようなピアノがあれば、バッハはまちがいなくそのために曲をかいていただろう。というか、バッハの音楽は、後年の古典派やロマン派と呼ばれる人々のかいた音楽に比べて、はるかに現代的で、むしろ現代の楽器の方がマッチするんじゃないだろうか、というのが目下の意見。それで、「フーガの技法」["Bach: Die Kunst Der Fuge BWV 1080" by Pierre-Laurent Aimard - 1290円]と「音楽の捧げ物」["J.S. Bach Ein musikalisches Opfer BWV 1079 'revisited'" by Het Collectief - 2940円]を現代の楽器で演奏したCDを買うことにした(古楽器のものはどちらももっているがぜんぜん聴けていない)。「フーガの技法」は選択肢がたくさんあるが、「音楽の捧げ物」は、ほとんど古楽器で演奏されているものばかり。ひとつだけ、ピアノなどジャズにも使われる現代の楽器で演奏されているというCDをみつけたので買ってみたが、一部かなりアヴァンギャルド。聞き込みたいのでもう少しオーソドックスな演奏がよかったのだが。

4. いきなり、湿度が高まってきた。のどがかわく。T額Q付金もでたことだし、久しぶりにシャンパンでも飲むか。

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