まず最初に気がついたのは、イヤフォンがないことだ。そう。確かにカバンの中に入れた記憶はない。今日は音楽なしだ。
次に気がついたのが、カメラのメモリーカードがないことだ。ああ、これはまたしても、メモリーカードをもっていかなくてはと思ったことと、実際にもっていくことを混同してしまったせいだ。思ったことと、実行したことの混同。ロマンス諸言語では前者は接続法、後者は直説法で表されるが、日本語にはそういう法(モード)による区別がないせいかもしれない。つまりモード盲だ。と、日本語のせいにしておく。
水道橋駅で下車すると相変わらずの雨。予報ではこの週末二日とも雨と曇りの境界線上で、土曜がどちらかといえば曇り側、日曜が雨側という感じだったが、早くも小雨がぱらついている。音楽もカメラもなしで雨の中散歩することを考えると躊躇したが、明日がより天気が悪いというんじゃ仕方がない。歩けるときに歩いておくべきだ。幸い、カサは忘れていない。「街に雨が降るように、わたしの心に涙が降る」とヴェルレーヌの詩の一節を引用して、せめて役に立たない知識をひけらかそう。
本郷側に出て坂を上り、日頃のロケハンの成果で、折れ曲がりながらたくみにいい感じの路地を選択してゆく。
本郷給水所の屋上の公園に入ってみた。あいにくの天気なので、人の姿はないかと思っていたが、微妙な年齢のカップルが二組、犬の散歩をさせている女性、休日になすすべもなくほっつき歩いている男性(ぼくもそうだ)などそれなりに盛況だった。立ち入ることができる区画は外から想像するより案外狭くて、あっという間に全体像を把握した。
反対側でおりて、湯島方面、そして坂を下って文京区から台東区に入る。単車とタクシーの接触事故があったようで、警官がパトカーでかけつけてきた。あたりまえかもしれないが、ちゃんとひとりひとりわかれて別々に事情をきいている。ケガもしてないようだし、車体もこちら側からは特に損傷を受けたように見えない。
不忍池。水面を覆い尽くす蓮の葉も食べ残したサラダみたいにしなびてきて、そろそろ冬鳥たちをむかえる準備に入る。
根津から谷中。煙るような雨を通して、谷中の街々からもれてくる肌色の光。ところどころショップが開いているんだけど、みんな同じ色調の灯りを使っている。雨足がだんだん強くなってきた。そうこうしている間に最近ターミナル駅としての体裁を整えつつある日暮里駅に到着[水道橋駅〜本郷給水所〜不忍池〜根津〜谷中〜日暮里駅(6.2km)[地図]]。
観劇のため山手線で池袋に移動。まだ命名100年記念のチョコレート色の山手線は乗ったことはおろか、見たこともない。
昨年まで池袋と演劇はぼくのなかでほとんど結びつかなかったが、野田秀樹が東京芸術劇場の芸術監督に就任したおかげで、今年は何度も足を運ぶようになった。それまでも駅前至近の場所に東京芸術劇場はあったはずなのに、どういうわけかまったく縁がなかったのだ。猥雑な池袋の街と演劇のとりあわせがなかなか新鮮だ。
まだ時間があったので、改装中で縮小されているリブロを物色。あっという間に時間が過ぎてしまった。劇場のある西口に移動して、大戸屋をみつけた。メニューにカロリーが明記してあるんだけど、予想外にみんなカロリーが高くて選ぶのに躊躇してしまう。結局827kcal、790円の炭火焼き鶏のオレンジぽん酢定食。大戸屋はやっぱりおいしい。
劇場に行ったが、まだがらんとしていた。きいてみると開演時間を30分間違えていたことが判明。もういちど東口にいって、CDショップをひやかすが、池袋駅の南西の端から北東の端まで往復するとそれだけで時間がかかってしまう。一箇所みただけでタイムアップ。
雨はすっかり本降りになっていた。ヤマダ電機の日本総本店とビックカメラの家電アウトレット館眠りについた巨大な猛獣みたいに、開店のときを待っていた。
コメントする