当座は晴れ、だが風は雨への予感をいっぱいにはらんで。湿度がとても高くて小春日和を通り越して小夏日和とでもいいたくなるような陽気だった。
鎌倉についたときにはもう荒々しい雲が半分以上空を覆っていた。まずは市役所前の道をひたすらまっすぐ。途中いくつか(合計3つ)切り通しの隧道を通り抜ける。隧道はどれも新しかったが、できる前はどうしていたのだろう。
交通量の多い道にぶつかって、それまでのまっすぐで平坦な道は終わりを告げ、対面には曲がりくねった上り坂が続く。ハンカチで汗をふきふきしながら一歩一歩坂をのぼっていくと、やがて鎌倉山という住居表示の場所に出た。観光地であると同時に高級住宅地でもある鎌倉の中でもことさら風格を感じさせる家並みが続いている。
棟方板画美術館の前の細くまがりくねった道のつきあたりは崖になっていて、右手の眼下に色とりどりの瓦屋根の連なりとその向こうに海が広がっていた。ふと傍らのむごたらしく伐られた木に目がいった。その幹に、印刷された紙がはりつけてあったからだ。その内容を簡単に要約してみる。
これは桜の木で、幹も根も丈夫だったが、土地所有権の移転があり、新たな所有者から周辺工事の影響で倒木のおそれがあるので伐採したいという申請がでていて、行政は時期を協議の上で伐採してもいいという許可を出していた。ところが、所有者は、事前の協議なしに勝手に伐採してしまった。しかし、(幹が一部残っているから?)伐採ではなく枝払いという扱いなので、特に問題はないという見解だそうだ。最後に「樹木を大切に残そうとする心は...」と結ばれている。確かにこの眼下の絶景に桜の花が加わったらどんなにすばらしかっただろうか。写真を撮りたかった。
ミステリーで殺人事件が起きそうな、崖沿いの瀟洒な邸宅が建ち並ぶ道を進むと、つきあたりの脇に下界へおりる階段があらわれた。階段の下はさっき見下ろした、七里ヶ浜へと続く住宅地だ。ちょっと東に戻って稲村ヶ崎の方から海にアプローチする。
強風のせいで海も大荒れだった。恐れを知らぬサーファーたちは喜んでいそうだったが、浜へ降りる階段のすぐしたまで波が押し寄せていて、海へ通じる階段なんてなんてシュールなんだろうと、しばらくじっと見ていた。
七里ヶ浜までくるとさすがにちゃんと浜辺が広がっていて、紺のスーツを着てカバンをさげた中年サラリーマンがいつまでも立ち尽くしたまま海に浮かぶサーファーたちをじっと見ていた。ありきたりにセンチメンタルなシチュエーションはいくつも思いつくけど、たぶん彼の心の中の思いはそのどれとも違っているような気がする。
どこからか流されてきた木みたいにひとりで浜辺に座ってじっと海をみている女性たち。もう、夕闇に溶け込んでしまいそうだ。
陸にあがって、鎌倉高校の前から湘南モノレールの西鎌倉駅まで[鎌倉駅〜鎌倉山〜稲村ヶ崎駅〜七里ヶ浜〜鎌倉高校〜西鎌倉駅(10.1km)[地図]]。
大船方面のモノレールはいったばかりだったので、しばらくこないかと思ったら、なんと1時間8本というほとんど東京都心並のペースで運行されているのだった。すぐに次のモノレールがやってきた。
大船ですべて用をすませてしまうことにした。食事は大戸屋で親子丼(710円)、喉がかわいたのでそのスタバに入ってコーヒーゼリーフラペチーノ(480円)。
いつの間にか雨が降り出していた。雨が降る前に帰るつもりだったので、カサはもってこなかった。でも春先を思い出させるなんだか気持ちのいい雨だった。濡れて帰ろう。

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